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第106話 チュートリアラー、代官補佐であることを思い出す

「え、それって……」


 俺は驚きのあまり、先の言葉を紡げずに固まる。

 そんなことって……あり得るのだろうか?


「ふむ。あの娘っ子に、意図的に何かしらの防壁が敷かれているということかもしれんな」

「ヴィヴィさん」


 そこで、ヴィヴィアンヌさんが控室の奥からのそっと出てきた。

 ちょ、ヴィヴィさんここに受講生は基本入っちゃいけないんですよ? なんて野暮なことは言わない。


「待って、ヴィヴィ。もしかしたら私の方が不調って可能性もあるし、そもそもフィズ?さんの力がギフトじゃないって可能性もあるんじゃ」


 冷静に状況を把握し、瞬時に様々な可能性を考えるヒロカちゃん。確かに、それはその通りだ。

 そもそもフィズのあの力は、ギフトではなかったのかもしれない。俺自身、《魔眼》という変な力を持っているわけだし。


 でも……魔力を同質化できるなんて、あり得るのだろうか? それはもはやクローン技術とかそんな領域なのではないだろうか?


「確かにそうじゃな。どれ、一つ一つ確認してみるとするか。ヒロカ、わらわのギフトを読んでみぃ」

「うん」


 ヴィヴィさんはそう言うと、すぐにヒロカちゃんの意識を自らへ向けさせた。ヒロカちゃんはすぐさま、再度ギフトを使用する。


「……読める。ヴィヴィの《魔導目視マギカアイズ》がわかる。ひとまず私の方は問題ないみたい」

「ふむ。では次はあの娘っ子の力がギフトかどうかという点じゃな。……これはあくまでわらわの憶測でしかないが、あんな力が特訓や修行といった類のもので会得できるとは思えん。それに魔力の質や流れなら、現にわらわに視えとるわけだからな」


 頭を捻りながら、ヴィヴィアンヌさんはそう言い切った。

 やはりヴィヴィさんも、俺と同じ見解のようだ。いくら魔力の操作を上達させたところで、他者と自分の魔力を完全に同質にするなんてことは、できるはずがない。俺も結構な年数魔力の操作はトレーニングしていると思うけど、同じになんて到底できないし、できるようになる気もしない。


「たわけ。ユーキの魔力操作もある意味では異常じゃ。『互いの魔力の性質を近づける』というのが前提条件である回復魔法を、最低級とは言え扱えているのじゃからな。本来、独学でそれを成立させるなどおかしい話なんじゃ、ボケ」

「さ、さーせん」


 うわ、目隠し魔女っ娘にボケって言われた。中身還暦なのに。


「それらの前提を踏まえれば、自ずとギフトの力という風に考えるのが妥当じゃ。やはり最初に言った通り、おそらくあの娘っ子のギフトになんらかの防壁が施されていると考えるのが自然じゃろう。教会勢力には、まだまだ民間人では知り得ない秘匿された技術・秘術があるようじゃからの」

「というと?」

「ヒロカもいつぞや話しておったろう。『変なお香を嗅いだらギフトが鈍ったことがある』と」

「あ、確かに!」


 そこで得心がいったように、ヒロカちゃんは手を叩いた。


「先生も覚えていませんか? ほら、アマル・ア・マギカへ行く前に、ダイトラス王国で先代の王とディルビリアと謁見したときです。匂いのきついお香みたいのがたくさん焚かれていて、その煙のせいで私『ギフトを遮断してるような感覚がありました』って話したの、覚えてないですか?」

「え……っと?」

「私が咳き込んじゃって、先生が心配してくれたとき!」

「あ、あー! あのときね、あのとき……」


 これ以上思い出せないとヒロカちゃんが怒りそうだったので、相槌を打ちつつ必死で記憶を探る。

 ダイトラスでの、謁見のとき、お香の煙が……あ。


「あの、王の間のときのか!」

「そう!」


 思い出した俺が声を上げると、ヒロカちゃんが嬉しそうに指を立てた。

 よし、なんとか思い出せた。ガチ怒りさせずに済んでよかった!


「ふむ。しかもそれを使っていたのが元は樹教の女司祭だったディルビリア・ビスチェルとなると、自ずとこんな推測が立つな。――おそらく教会勢力のみに流通する、ギフト使いを惑わせる特殊な効果を持つ香があり、それを継続的に吸引させることで、フィズのギフトが外部に知られないようにしている、と」


 考え込むような様子で、ヴィヴィアンヌさんは顎を触った。

 教会はこの世に生まれたほぼ全ての子供に『洗礼の儀』を行い、強力なギフトや利便性の高いギフトを覚醒させる手助けをしてくれる。ただ、それは稀有な才能を持つ者や将来性のある子供を囲い込むため、ともされている。


 これは表向きは『この世界の皆へ世界樹の恩恵を届けるため』という名目があるが、俯瞰的に考えれば、ある意味で既得権益を独占したいだけにも思える。

 フィズもおそらくは、そのような意図や理由から、ギフトの情報が外に漏れないようになんらかの制約をかけられているのかもしれない。


 ただここ最近は、レイアリナさんのような努力でギフトを鍛え上げ、覚醒初期の評価をひっくり返す猛者も多いため、囲い込みの流れは緩和されてきているらしい。さらに、世界的にも教会に頼らずギフトに目覚められるようにするべき、との議論も行われていると聞く。


「うーん、なんにせよこれ以上は調べようがないですけど……どうしましょうか?」


 ヒロカちゃんが首を傾げつつ、質問を投げかけてくる。

 んー、どうしたものか。

 良いアイデアが出ず、俺がうんうんと唸っていると。


「……そういえば、私が次に外交派遣されるのが《デムナアザレム》だったと思います」

「えっ」

「樹教の総本山であり、あの娘っ子が今暮らしている場所じゃな」


 ヒロカちゃんがもたらした情報に、ヴィヴィさんが補足を加える。

 これはなかなか出来過ぎなタイミングだなぁ。


「先生も行きます? 代官補佐なわけですし、本来は私に同行してもなんの違和感もないですよね? ね?」

「う、うーん」


 そうだった、俺ってば代官補佐なんだった……。

 そしてすごく一緒に行ってほしそうなヒロカちゃんに言い寄られ、つい二の足を踏む。なんかものすごぉーく面倒くさそう……。


 しかし、フィズの力の正体に触れることができれば、俺の回復魔法向上の一助になる可能性も大いにある。

 ……あー、グチグチ悩んでも仕方ないか。


「わかった。次の外交派遣には俺も同行するよ」

「やったー! 次は先生と一緒だー!」

「い、いやいや、遊びじゃないからね!?」


 はしゃぐヒロカちゃんを窘めつつ、俺は苦笑する。


 こうして。

 俺たちは聖魔樹教の総本山――デムナアザレムへ赴くこととなった。



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