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第104話 憶測

「フィズ、今のって……」


 ヴィヴィアンヌさんの言葉を受け、俺はフィズに訊ねる。

 回復魔法の大家とされているヴィヴィさんが驚くほどの、フィズの力。回復魔法を現在進行形で特訓している俺としては、かなり気になった。


「今のは、わたくしのギフトです。簡単に表現すると、ちょっとすごい回復魔法、という感じですかね」

「ま、まぁその通りだけど」


 俺の問いに対してフィズは、少し照れたような感じで、はにかんで笑った。


「もー少し、詳しく聞きたいなぁ。ね、ヴィヴィさん?」

「うむ」


 若干身を乗り出しつつ、俺とヴィヴィさんはちらちらと顔を見合わせて聞いた。


「……すみません、それはちょっと。わたくしのギフトに興味を持ってもらえるのは光栄なのですが、大司教様から直々に『あまりギフトのことを他人に吹聴しないように』と仰せつかっておりまして」

「あー、そっかぁ」

「ふん。連中、やはり相変わらずなようじゃな」


 興味津々な俺たちだったが、やんわりと拒否されてしまう。

 まぁ確かに、俺たちは他者のギフトが()()()ヒロカちゃんの影響で、ギフトに対する考え方がバグってしまってるからな。


 本来は基本秘匿しておくものだし、それが透明性の低い教会関係者ともなればなおさらだ。それに本人がしたくない話を根掘り葉掘り聞くのも、あんまり褒められたもんじゃないしな。


「お話できない代わりと言ってはなんですが、もし他にも困っている人がいれば、いつでも頼ってください。わたくしが参りますので」


 人懐っこい笑顔を浮かべたフィズのことを、これ以上追求することはできなかった。

 一方、フィズの回復を受けた()()()のムコルタさんは、自分の身体の回復がまだ信じられないのか、あんな姿勢やこんな姿勢と、色々試すようにストレッチみたいな動きをしている。


「ふふ、お元気になってよかった」

「フィズ……」


 その姿を見て、フィズがまた嬉しそうに笑った。そして自分の額に浮かんでいた汗を、手の甲で拭った。少し呼吸が苦しそうなので、やはり使用者にもなにかマイナスがあるようだ。


 ただ……自分が多少の不利益を被ってまで人を助けて、こんな風に笑えるフィズは、本当に心の清い人なんだと、俺は感じた。


「お嬢ちゃん」

「はい?」


 と、そんなことを考えているとばあさんがフィズを呼び止めた。


「ありがとうね。アタシゃこんだけ身体が動くのはもう数十年ぶりだよ。最初は少し胡散臭いと思っていたけど。アンタ、若いのにすごいんだねぇ」

「それはよかったです」


 ムコルタさんはフィズの手を握り、何度もお礼を言った。

 その顔にはいつも以上のパワフルさがあり、かなり身体機能が回復したらしかった。


「ムコルタさんに、世界樹のご加護があらんことを」


 フィズはムコルタさんの家を退出する際、そう言って祈りを捧げた。

 俺はその姿に深く感心しつつ、家を辞した。


◇◇◇


「ヴィヴィさんは、フィズの力、どう思った?」


 ムコルタばあさんの家で、フィズの能力を目の当たりにしてから少しして。

 俺はひっそりとしたギルドの食堂で、ヴィヴィアンヌさんと晩酌をしながら向かい合っていた。すでに夜も遅く、フィズは部屋で眠っている。


「うむ。はっきり言ってあれは常軌を逸しておるな」


 言い切り、ぐび、と酒を煽るヴィヴィさん。


「フィズの回復魔法の仕組み、ヴィヴィさんには見えていた?」

「ああ。全てではないが、ある程度はな。ユーキにも話したと思うが、回復魔法と言うのは治療する側と治療される側の魔力が、近似していることが重要じゃ」

「『魔力の同質化が重要』って話だよね?」

「そうじゃ」


 そこで二人同時に、酒を煽る。


「しかし、あの娘っ子がギフトを使用したとき、わらわは驚愕した」

「どうして?」

「娘っ子の魔力と、ムコルタの魔力とが、同じになっておったのじゃ」


 ヴィヴィさんは目隠しの上から、自分の目元をゆっくりと撫でた。そうしてから、また一口酒を飲んだ。


「同じかぁ。そりゃすごいね。ヴィヴィさんがそう感じるぐらい、フィズの魔力の調整が凄かったってことでしょ?」


 言いながら、俺は木製ジョッキを口元へ持っていく。


「たわけ。言葉そのままの意味じゃ。完全に同じになっていたんじゃよ」

「……え?……うわっと」


 と、ヴィヴィさんからの予想外な言葉に、俺は一瞬固まってしまう。そのせいで酒が少し零れ、慌てる。


「いやいや、待って。え、どういうこと?」


 まだ魔力には未解明の部分も多いのだが、基本的には各自固有のものであり、決して同じものは存在しないとの定説がある。要するに指紋みたいなものだ。

 にも関わらず……同じ? いったいどういうこと?


「仕組みまではわからなかったが、とにかくあやつは自分の魔力を他者と同じにし、完全な調和を図った状態で、癒しの魔力を流し込み相手を回復させておったのじゃ。おそらくあれは、医学云々を超越しておる」

「……だからヴィヴィさんは『回復魔法と呼べるかわからない』って言ったのか」

「そうじゃ。あんなことができるのなら、医学どうこうの知識はいらぬ。アレは人間の持ちうる精気、活力、体力、自然治癒力や免疫力に至るまで、生物のあらゆる生命資源を限界以上に充溢させる力なのじゃろう。まぁ当然、魔力量の限界という制約はあるようじゃがな」


 大賢者のヴィヴィアンヌさんが衝撃を受けるほどの回復術。

 驚嘆すると同時に、回復魔法の特訓に励んでいる身として、かなり興味深かった。


「一応確認なんだけどさ、フィズに色々聞いたら、俺の回復魔法の力、向上するかな?」

「わからん。あやつはあまり話さぬよう言われておるようじゃし、本人も口は堅そうじゃからな」


 酒を飲み干し、口元を手の甲で拭ってから、ヴィヴィさんは怪訝な顔をして言った。


「それにしても、あれだけの回復能力を、あの強欲で融通の利かない教会の連中が放置しているわけがない。あそこの上層部は全員年寄りで、既得権益に縋りつこうと必死じゃろうからの。そんな連中からすれば、健康状態を維持したままで延命し続けられるあやつの力は、喉から手が出るほど欲しいはずじゃ」

「もしかしたら、それに気付いて村で保護した可能性もあるってことか……」


 俺は身勝手にもそんな思考に至り、背筋がうすら寒くなった。あくまで推測でしかないのだが。


「なんにせよ、ヒロカが帰ってきたらあの娘っ子のギフトを読んでもらうとしよう。さらに突っ込んだ話はそれからじゃ」

「確かに」


 その夜はそうして、お開きとなった。



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