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第10話 JKとダガー

 今日も引き続き俺とヒロカちゃんの青空教室。

 連日空は晴れ渡り、遠くに世界樹が見える。平和でのどかないい天気である。


「よし、じゃあ今日は前日に話していた通り、冒険者の基礎剣術について学んでいきます」

「はい! よろしくお願いします!!」


 すでにヒロカちゃんは基本の座学を終え、いよいよ実践形式の戦闘訓練へと移行しようとしていた。


「では、実践形式に入る前に、昨日までのおさらいをしましょうか。ヒロカちゃん、前日の復習を」

「冒険者のスタイルによって剣の扱い方は変わる、というのを学びました!」

「うん、素晴らしい。ではその冒険者のスタイルというのを、俺に説明してみてもらえる?」

「お任せください! えと、冒険者のスタイルは代表的なものだと三種類あります。まず未知への好奇心を大切にし、世界を股にかける根っからの冒険者タイプです。彼らは稼ぎというより、遺跡を発見したとか、難関ダンジョンを踏破したといった名誉の部分に重きを置きます。言うなれば王道冒険者ですね」

「うん、よく学んでいるね」


 ヒロカちゃんは前日までの講義の内容を、スラスラと話してくれる。一度の座学でここまでしっかり内容が入っていると、なんだか俺まで嬉しくなってくる。


「次は、冒険者というより傭兵のような活動を主とする傭兵系冒険者です。このタイプの冒険者はダンジョンに入ったりはほとんどせず、主に魔物の討伐や駆除、さらに有事の際に発生する国家からの依頼に対して、自らを兵として貸し出すことで莫大な金銭を得るという、そのまま傭兵のような動きをして稼ぐタイプの人たちです」

「そう、言うなればバトル好きのバーサーカータイプって感じだね」


 俺からするとこのタイプは、一番理解から遠いかもしれない。

 よくマンガなんかで『戦いの中でのみ生を感じられる』的なのがあるが、アレに近いものだろう。それを否定する気はまったくないのだが、俺はやはり人生を平穏無事、安心安全に暮らしたいので相容れないのだ。


 とは言いつつ、このカテゴリの冒険者は国家の有力者へ名前が売れやすく、冒険者ランクのアップが容易なので、今も昔もずっと人気があるのだが。


「最後の三つめは、ダンジョンに入ってそこでのみ産出される魔石を採掘し、それを売って生計を立てている石堀りタイプです」

「ん、冒険者の分類は完璧ですね。よくできました」

「ありがとうございます! えへへ」

「では聞きます。ヒロカちゃんは、どのタイプの冒険者でやっていきたいと考えている? 俺は断然、石堀りタイプを勧めるけど」


 魔石は魔元素が吹き溜まり『ダンジョン』と認定された地域でしか取れないが、危険の少ない浅層や入口付近でも採れるし、数さえこなせば稼ぎもその分増えるので全然暮らしていける。なので人生設計もしやすい。俺の哲学からすると断然オススメ。


 ヒロカちゃんには課題として、先述の三つのタイプを参考に、どんな冒険者になりたいかを考えてもらうよう伝えておいた。

 まぁ、おそらく傭兵タイプはないだろうから、王道か石堀りか……さぁ、どっち?


「私はバーサーカータイプで!」

「まさかの展開!?」


 ヒロカちゃん、まさかの戦闘狂スタイルをご所望だった。


「冗談です! 先生が物欲しそうに『ここで傭兵スタイル選んだら一笑い起きるなぁ』という顔をしていたので、つい!」

「その空気は今後読まなくていいから!」


 トーク中の“これ言えば笑い取れるぞ感”みたいなのまで察知されてしまうと、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか。普通の顔しておしゃべりできなくなっちゃう。


「真面目に考えてみたんですが、私はやっぱり王道と石堀りのイイトコドリがしたいなって思いました。この世界を色々見て回りたいって想いもあるし、でもかといって派手なことがしたいわけでもないので。地道にコツコツ、地に足をつけて生きていければ一番いいなって思います」

「ふむ、よろしい」


 ヒロカちゃんの出した答えは、かなりシンパシーを感じる内容と言えた。

 個人的なことだが、すでにこちとら還暦(中身)なのだ。人生で一番重要視するのは安全安心、平穏無事。これを超える信条はない。

 ただ、ダンジョン最奥部に発生する巨大な魔石【核魔石】を一度は見てみたいというのも少しある。あれは一つ見つけるだけで一生暮らせると言われており、王道冒険者はそれと出会うことを夢見て全世界のあらゆるところへ出向くのだ。


 まぁ、危険を冒して一攫千金を狙うか、地道に働いて慎ましく生活するかの違いみたいなものである。


「じゃあ、そんなヒロカちゃんには……はいこれ」

「うわぁ! マンガとかでよく見るやつだ!」


 そこで俺は、あらかじめ鍛冶屋に頼んでこしらえてもらっていたダガーをヒロカちゃんに手渡す。高級品というわけではないが、熟練の職人に打ってもらったので品質はお墨付きだ。


 ダガーはいわば短剣に分類されるものだが、とにかく使い勝手が良く小回りが利く。デメリットは射程が短いので敵に近づかなければならないということと、一撃のダメージが低いので、相手の急所を知りそこを狙うという、熟練した技が必要となる、といったところだろうか。


「じゃあまあ、テキトーに構えてみて」

「え、テキトーでいいんですか?」

「うん。冒険者の戦闘には剣道みたいな型も基本的には必要ないし、一番重要なのは剣を持ちながら動きやすい体勢を見つけておくことだから。魔物との戦闘は長引けば長引くほど不利だからね」

「魔力運用の観点から、ですよね」

「その通り」


 さすがヒロカちゃん、こちらの意図を汲むのが上手い。


「ゆえに、冒険者の戦闘は基本的に先手必勝、一撃必殺。もし仕留められないときは一撃離脱に切り替えて、ヒット&アウェイ。いくらヒロカちゃんの魔力変換速度が超一流とは言え、この基本を崩すのはお勧めしない」

「近接武器での攻撃を加えるとき以外は、常にある程度の距離を取っていた方がいい、ということですね」

「そ。ここも生存のために重要なところ。忘れないようにね」


 言いながらヒロカちゃんは、鞘をつけたままのダガーを色んなポーズで構えていた。自分的にしっくりくる体勢を見極めているのだろう。

 ダガーの黒と銀のコントラストが、艶やかな黒髪ポニーテールに似合っている。


「今日も精が出るな」

「あ、シーシャ。お疲れ」

「大丈夫か、ユーキ。仕事以外の時間のほとんどでヒロカの面倒を見ている。休めてるか?」

「んー、全然大丈夫。ヒロカちゃんは筋がいいし、まったく苦労してないから余裕さ」

「それでも適度に休め。疲れてないと思ってもどこかには必ず疲労が残っているもの。油断するな」

「ああ、ありがとな」


 ふらりとやって来て、すぐにこちらを気遣ってくれるシーシャ。本当、無表情で淡々としてるのに、誰よりも優しいやつだ。

 ヒロカちゃんは一人黙々と、ダガーの素振りを開始した。まだ見様見真似ではあるが、結構様になっているように感じられた。


「そういえば、ユーキに共有。さっきギルドに連絡があった」

「ん? なにかあった?」


 何かを思い出したように、シーシャが指を立てた。


「領主のルカ・オルカルバラや勇者レイアリナをはじめとした要人たちが、数日後にアルネスト入りするそうだ。ギルド職員はその対応。忙しくなる」

「……え、なにがはじまるんです?」


 辺境の町アルネストが、にわかに活気立つ気配だった。



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