いえ、帰りませんよ?
「ねえ、リュネシュカさん」
「はい、何でしょうか、メアリー様?」
「夏休暇は、ご実家で過ごされる予定なの?」
「いえ、帰りませんよ?」
「あら、そうなのね。」
侍女達の夏休暇は、1ヶ月間です。
清掃担当の私達が夏休憩の間は、騎士見習いや執事見習いの方が、代わりに清掃を行います。
ちなみに、代わりに清掃して下さる方々には、秋休暇があるそうです。
その夏休暇の期間は、非常に暑い時期なので、避暑地へ行ったり、実家へ帰省したりするのが普通とのことなのですが…
私は、今年は、訳あって、帰省しません。
「次の夏、実家の別館に、そのカトロン様が滞在する予定らしくて、帰省しない予定です。」
「それは、帰らない方が良さそうね?」
「やっぱり、そうですよね?」
カトロン様は、18歳の青年なのです。
私より2歳年下、サーラシュカより3つ年上の彼は、180センチと長身の厳つい青年です。
義姉となる私とも幼馴染で、仲は良いですが、婚約者がいない姉の私も帰省して、彼と一緒に過ごしていたら、変な噂が立ちますから。
優しい彼は、買い物などに姉妹の私達の護衛と称して、着いてくるのですけれど…
仲良しな姉妹の私達を見ながら、カトロン様に姉か妹どちらのお嬢様を選ぶのかと、商店街の人から、からかわれている所を見かけました。
妹とはケンカしたくありません。争いの火種になるような噂は、作りたくありません。
なら、わざわざ帰省しない方が良いのです。
「もし宜しければ、今度の夏休暇に避暑地にある私の実家にいらっしゃらないかしら?」
「まあ! メアリー様のご実家にですか?」
「ええ、そうよ。」
仲が良いとはいえ、職場でしか会わない先輩の侍女から、このようなお誘いは、初めてです。
職場は関係なく、普段の私生活でも会いたいと思って下さったのでしょうか?
「だいぶ遠いのですけれど…」
「ご実家は、どちらにあるのですか?」
「東の国境付近、アレイシオ辺境伯領よ。」
「まあ!」
「私の実家の、クロワーヌ男爵家は、アレイシオ辺境伯家の遠い親戚にあたるのよ。」
「そうなのですね!?」
確かに、アレイシオ辺境伯領は、遠いです。
王都から、馬車で片道3日間以上かかります。
そうなりますと、夏休暇の期間中は、ずっと、アレイシオ辺境伯領にいることになります。
私は、王都以外に行ったことがないのですよ。
辺境伯領は、かなり気になりますね!
「一緒に旅行することになるのだけれど
気分転換にいかがかしら?」
「私は、王都以外へ旅行をしたことが無いので気になります!是非ご一緒させて下さい!」
「ふふふ、ええ、ありがとう、宜しくね。」
「はい、宜しくお願い致します!」




