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空腹少女

 プチ、プチ、ごくん。

 ブチッ、ボキ、ガリッ、ごくん。

 クチュ、クチュ、プチ、ブチッ。


 そんな耳障りな咀嚼音を止めるために、足の裏が生暖かくなる嫌な感覚を覚えながらナギサへ向かって進む。


「……?おにーさんも、いる?」


 ナギサの首を掴み、無理やり健司から引き剥がす。


 息をしているがどう見ても長く保たない健司を見下ろし、言葉では形容できない感情が体を巡る。


 床に叩きつけるようにナギサを投げる。

 目が合う。

 ナギサが嗤う。


「おにーさん。食べたいんだよね?」


 言葉を発することすらできず、ナギサの顔が眼前に満たされる。


 ナギサの瞳が僕の目を見つめ、口が無理やり開け放たれる。


 口に何か、鉄臭いモノが流れ込んできて、いつの間にか重ねられたナギサの口から舌が僕の口内に入り込む。

 クチュクチュと水音が脳に響き、無理やり鉄臭いソレを呑み込まされる。


「あは。おいしぃ?」


 胃にそれが触れる。

吐き気がこみ上げるが体がそれを拒否し、胃酸に溶けていくソレを嫌でも意識する。

 食道に付着したどっちのか分からない血液が流れ落ち、腹の底から鉄の臭いを口に満たした。


「や、め……ろっ!」


 体を捻り、ナギサを床へ押し倒す。


 ヌル…と嫌な感覚がして左腕が滑った。

 左の二の腕が血とともにナギサの口へ向かってまっすぐ落ちていく。


 ナギサの瞳が、笑顔とともに歪むように細められた。


「おにーさんも、おいしいね」


 自分の二の腕が食べられるのを眺めながら崩れないよう()()()身体を支える。


 驚いてナギサから視線を外す。

今食べられているはずの二の腕が、そこにあった。


「おにーさんも。わたしとおなじ、だね」


 向き直ってゾッとした。

 その女は、僕の腕を美味しそうに食べながら笑っているのだ。


 本能とも言うべき何かがこいつを殺せ。こいつを食え。こいつの息の根まで食い尽くしてしまえ。と警鐘を轟かせる。


 抑えられなくなったその本能に逆らうことなく、僕はその首に噛み付いた。

犬歯が食い込み、咽返りそうで吐き気のする臭いと首に通る太い食道を感じながら喉を噛み千切る。


 ナギサの瞳から光が消え、パカリと開いた口から僕の二の腕が離れた。


「…………健司」


 ナギサの死体を口から離し、健司の……死体と向き合う。


「……ごめん」


 死体を持ち上げようとしたとき、その沈黙した体から拍動を感じた。


 まだ、生きている。

ナギサの言葉を反芻する。私と同じ。


 もしも、僕の腕が治ったのがナギサに食わされたことが原因なのなら。

ナギサの肉に、なにかがあるなら。


 噛み千切ったナギサの喉を拾い、健司の口に突っ込む。


「頼む……呑み込め」


 健司はもうそんな力もないのか、だらりと口からナギサの喉が零れ落ちてしまう。


 健司とナギサの血が混じる。

なんとか健司を助けようと自分の肉すら切り離そうとしたとき、背中にべっとりと嫌な感覚がした。


「やっぱり……おにーさんも、たべたいんだ」


 後ろから嫌な声がする。

その高い、儚い少女の声が、僕の頭に警告音のような、本能的な恐怖の鎌首をもたげさせる。


 両の手が僕の耳の横を通り過ぎ、健司を掴む。


パキ、と命の途切れる音がする。


 やめろやめてくれいやだやめろくるなそれをこっちにもってくるなたすけていやだいやだいやだいやだいやだいやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめ


ごめん


 ナギサが僕の顔を見て嗤う。

 ごくん。僕が何かを飲み込んだ。


「おいしい?」


 純粋無垢な悪魔は、まだ嗤っていた。

 この話今までで書いてるのが一番楽しいかもしれない。

筆が早い。

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