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プロローグ

 超がつくほどのド田舎。

 田んぼに囲まれ、隣の家に行くのに5分はかかり、子供の遊び場は山か川。


 そんな男子高校生的には何も無いと言っていいほど暇な場所で、熱中症になると一人じゃどうしようもないからという理由で一緒に行動している従兄弟の健司(けんじ)に呼ばれて山に入る。


 そこで僕たちは見つけてしまった。

それは夏の明るい部分、いわば青春をそのまま形にしたような、白いワンピースと帽子の少女が山中で倒れているのを見つけてしまった。


「どうする……?」

「どうするって……とりあえず運ぶぞ。僕が抱えてくから自転車で先に戻って氷嚢とか用意しててくれ」


 自転車で駆けていく健司を見送りながら少女をおぶってできるだけ早足で家へ向かう。


 祖父が死んで遺品整理のために親族で一番暇だからとここで送り込まれた僕ら以外には人がいない、居間以外に生活感など存在しない無駄に広い家。


 蝉の鳴き声を聞きながら少女を氷枕の上に寝かせ、とりあえず額と両脇に氷嚢を置く。


颯太(そうた)、そいつ生きてるのか?」

「息はしているし、しばらく交代で様子見だな…」


 その少女は本当に、今にも死んてしまいそうなほど青い顔で胸を上下させている。

 僕らに医学の知識など無いから、交代で様子を見ながらたまに氷嚢を変えてやることしかできない。


 とりあえず落ち着いてきたら明日にでも病院へ連れて行こう。

 田舎なせいでかなり遠いが、目の前の病人を見捨てるよりも1日を拘束される方が何千倍もマシなはずだ。


「今日はここで寝るか。布団動かすぞ」


 健司と交代し、客間と寝室から布団を動かす。

病人を動かすのはあまり良くないので居間に布団が三つ並ぶ形になった。


 日が沈みかけた夕方。別々に作るのが面倒だったので鍋いっぱいのおかゆを少女の分だけ別によそって二人で食べながら軽く会話を交わす。


「顔色はだいぶマシになったな」

「ああ。とりあえず死ぬことはなさそうだ」


 少女の呼吸が安定したものになり、死にかけのような顔色よりは幾分もまともになった顔色を見て一息つく。


「明日はとりあえず病院に連れて行こう……金は掛かるけどタクシー呼ぶか」

「そうだな」


 明日のことをだらだら話していると布団がもぞもぞと動き出す。


「んぁ……」


 ムクリと少女が起き上がり、僕たちの方を見て首を傾げている。


「お、起きた。自分の名前言えるか?あと家の場所も」

「……?」


 少女はさらに首を傾け、無理もないようだが目の前の光景に困惑しているようだ。


「……食うか?」

「!!」


 おかゆが入った茶碗を差し出すと少女が目を輝かせながら受け取り、倒れていたとは思えない速度でガツガツと食べ始める。


 健司と二人で元気な少女に驚きながらも二人して良かったと安心して見ていると何かを詰まらせたのか少女が咳き込み始める。


「……!!……!?……ッ!!」

「おかゆだからっていきなり食い過ぎなんだよ……ほれ、水飲め」


 少女が健司の手からペットボトルをひったくり、こくこくと水を飲む。

 なんとか飲み込めたようで涙目になりながらまたおかゆを食べ始めた。


「よく噛んで食えよ」


 少女が顔を上げて頷き、少しだけ食べるペースが落ちる。


 どことなく危なっかしいので二人とも視線を外せないまま少女の食事が終わるのを待った。


「……けぷ」

「…………鍋の中身なくなっちまったよ」

「明日の分まで含めて三合分作ったんだけどな」


 満足気に机の上に身を投げたした少女は本当に倒れていたのかと疑いたくなる食欲で鍋の中身を全部食べてしまった。


 少女の見た目的にも食べ盛りの頃ではありそうなので、昼間に倒れていたという情報がなければ男子高校生二人と食べ盛り一人なのだから三合の米が無くなっても不思議では無いのだが…


「元気だなお前」

「むん」


 どこか誇らしげに胸を張る少女は席を立つと慣れ親しんだ家にいるような動きで居間のテレビをつける。

そしてニュースの字幕からいくつか文字を指した。


「な…ぎ……さ?」

「名前か?」

「うむ」


 ナギサというらしい少女は何度か口をパクパクと開いては閉じ、幾度目かの後に話し出す。


「あ、あー……うむ。ありがと、おにーさん」


 どうやらちゃんと話せるほどには回復しているらしい。


「……どういたしまして?」

「うむ」

「家の場所はわかるか?」


 ナギサに家の場所を尋ねると少し悩んでから床を指さす。


「ここ」


 健司と二人で首を傾げながらナギサの言葉を反芻する。

 ここ?軒下に住んでいたのか?

それとも地底人?


「……この家で暮らしてる?」

「うむ」


 どうやらこの家に住んでいるという認識らしい。


 記憶の混濁なのか、それとも本当にここの住人なのかはわからないが、僕も健司も祖父が誰かと暮らしていたという話は聞いたことがない。


 度々遊びに来ては…というより田植えの手伝いをさせられに来た時には祖父以外がこの家に住んでいる形跡は先に死んでしまった祖母の遺品以外に存在していなかった。


「……颯太、俺よくわかんねえ」

「僕も。じいちゃん以外が住んでたなんて初耳」


 夜も遅いし寝ようという結論になりナギサを布団に寝かせる。


 ナギサが寝るのを見届けた後、健司と二人で縁側で雑談する。


「夏の大三角ってどれだっけ」

「あれだろ」

「すげー」


 他愛もない話をして空を見上げる。

 都会と違って星が綺麗に光を放ち、煌々と輝く月明かりと共に夜道を照らしている。


「……意外と明るいよな。田舎って」

「なー。蛍の光以外なんも見えねえと思ってた」


「………寝るか。暇だし」


 そう言って解散。

 どちらから言い出すまでもなく男子高校生が少女と一緒に寝るのはアレということで客間に二人で布団を敷いて寝た。



 蝉の鳴き声がする。

 どうやら朝が来たらしく、まぶた越しに日光と蝉の声が体を刺す。


 掛け布団を持ち上げ、体を起こす。

 鼻のあたりに違和感を感じて布団から飛び出した。


 居間へ続く廊下。普段なら何も感じることはないが今日は嫌な予感がして足早に通り過ぎる。

居間の扉が見えてきたとき、ちょうどその時。


 べたり、と居間のガラス戸に赤い液体が付着した。


 熊か、それとも野犬か。

 ナギサと健司はどうしたのか、無事なら走らせて、だめなら抱えて逃げる。そんなことを考え、呼吸が速くなるのを感じながら扉を開け放つ。



 そこにいたのは野生動物などではなく、動かない健司と、そしてその腕を貪るナギサだった。


「ぁ、おにーさん。おはよぉ」 


 昨日よりも饒舌になった気がするナギサを前に、僕は立ち尽くすことしかできなかった。

 わたしが書きたいだけの物語です。

遅いですけど流血表現、グロ表現があります。

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