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希望の灯台

作者: 黒猫

商売をしている小学生を見たことがある人はいるのかな。


家の手伝いで頑張ってる僕みたいな子供がどこかの世界にいるのかな。


スペス村では、年齢関係なく働くということが大切なことだと誰もが知っている。


みんなスペス村の発展のために仕事を頑張っているから。やりたくない仕事もあるかもしれないけど、汗水垂らして頑張っているんだ。


「今日のおすすめ商品はこれ!働くお母さんに使ってほしい、時短で出来る料理道具だ!そのまま野菜を入れてもらえたら、不思議と5分で調理が終わっているんだ。この機械に自分のしたい工程を設定してもらう。煮るとか切るとか炒めるとかね。鍋の中で全部終わるんだよ。まるで魔女の道具みたいだろう?大特価!1パニスだ!」


『えぇ、正確に皆さんに教えますと1パニスは地球で言うとこの10万円といったところでしょうか。』


「誰に説明してんだよ、ルカ。」


『我々のことを見てくださっている方々です。』


彼の名前は、ルカ。


僕の相棒。商売をする時はいつも一緒だ。


彼はロボットなんだけど見た目は若いお兄さんって感じだね。


『歩夢坊っちゃん、私は性別はありませんよ。』


「心を読まないでほしいんだよな、そして坊っちゃん呼びはやめてくれ。坊っちゃんって呼ばれるほどうちにお金なんかないだろ。」


髪が長いから確かに一見女性に見えなくもないけど、切れ長の瞳が格好いいし何より女性がたくさん商品を見に来てくれるんだ。お兄さんでいいと思うんだけどな。


『坊っちゃん、目標の数は捌けましたよ。そろそろ夕方です。暗くならないうちに帰りましょう。』


「そうだな、今は冬だし暗くなったら帰れなくなる。」


あんな凄いものや彼みたいなロボットを僕のお祖父ちゃんは作れるのだけど、スペス村を照らすものは作れないんだ。


灯り。材料がないのか分からないけど、じいちゃんは作ってくれないんだよなあ。


村の人達は大ブーイングなんだけど。


『働く時間が短いのは大変ありがたいですね。夜は暗いという理由で我々は家に帰っても何も出来ませんが眠ることは出来ます。体にはいい影響ですよ。』


「僕、もっと働きたいけどな。お金ほしいし、そういう村の人たくさんいるんじゃないの?」


『不自由なことも多い、ということは認めます。』


僕がじいちゃんに頼らずに自分で作れたらいいんだけど、そういう才能はないんだよな。


努力すれば出来るようになるさってじいちゃんやお母さん、お父さんも言ってくれたけど全然上達しないし。人には向き不向きってものがあるのかな。


『人生道を狭めるにはまだいくつですか。』


「また心を読んだの。11歳だったかな。」


『坊っちゃんは可能性に満ちています。子供はみんなそうなのですよ。』


「ルカは、年取らないけど子供の時間ってなかったでしょ。そういうの良かったの?」


『私はいつだって子供ですが?見た目は大人でも中身は子供ですよ。』


「嘘だ!」


ルカはいつも僕に自信を持たせてくれる話をしてくれる。


本当に素晴らしいロボットだ。


お母さんもお父さんも安心してルカに僕を任せてくれているんだ。


二人は、スペス村を出て行ってしまったのだ。


灯りがないからという理由ではないのだけれど、もっと広い世界を見てみたいんだって。


でも知らない場所は危険がどういうものか分からないから、僕は連れて行ってもらえなかった。


じいちゃんは、僕が大人になったらお母さんとお父さんが住んでいる場所を教えてくれると言ってくれた。


会いたいって思う時もある、だけど今の自分結構好きなんだ。


お母さんとお父さんがいた時は違ったみたいだけどそうじゃなくて、離れて暮らしているから気付いた部分があるっていうか幸せの形は色々あるんだなって思えたから。


最初は、何でロボットと一緒に商売してるんだって感じていたけど今はルカが隣にいてくれないと楽しくない。


『嬉しいこと言ってくれますね、坊っちゃん。』


「考えないように努力していたんだけどな。」



家に帰るとじいちゃんが何か新しい商品を作っているところだった。


四角い形をしたものが何個もある。


「どうするの、これ。」


「歩夢帰ったか。今からな組み立てるんだ。」


じいちゃんはどんどんあらゆる方向に重ねていく。釘で打ったりくっつけたりしていくうちに、新しいものが出来上がった。


「ツリーだ。もうすぐクリスマスだからな。後で緑色に塗って完成だ。」


『何と斬新な。さすがじい様ですね。』


クリスマスツリーとは思わなかった。


でも、確かに四角い部分が重なって縦横にあることでそういうものに見える部分がある。


「クリスマスツリーって思うことをみんなに求めているわけじゃない。インテリアでも何でもいいんだ。売り出す時は、あなたは何に見えるのかって答えお客さんに聞きながら楽しくしてくれ。」


『坊っちゃんに変わって了解致しました!』


ルカは、じいちゃんの意見最優先だ。


僕の意見はその次かな、でもじいちゃんが言いたいことは何となく理解出来た、そんな気がした。


『意味分かんないって思う方が来たらどうします?』


「そういう人には売れないんじゃないの?」


じいちゃんは悲しそうだった。


僕は、どうすればたくさんの人に想いが届くか考えてみた。


「見え方を工夫してみよう。例えばこの空洞に鏡をつけてみるとかさ。」


『突拍子もない考えですね。でも、面白いと思います。理解よりも変な商品なんだって笑ってもらって心をどこかで許してもらえたなら、そういう商品なんだって分かりたいという気持ちに変わってくれるかもしれません!』


「それは願いだから難しいかもだけど、お客さんが楽しんでもらえるように頑張るよ。それが一番の売れる近道だと思う。」


ルカに自信満々話す僕を見てじいちゃんはとても嬉しそうに笑ってくれていた。



僕が住んでいる地下は、じいちゃんが開拓して図書館みたいに本がたくさん置いてある。


古い本から新しい辞典などまで本の種類は幅広い。


『坊っちゃん、夜になるんですから図書館なんて来てしまったら上に行けなくなってしまいますよ。』


「どうしても探したい本があるんだよ。」


『今朝、お客様が話していたあの本ですね。』


ルカは、もう僕の心を読んだみたいだ。


伝説の妖精が冒険に出かける物語。


興味が惹かれたのはその部分じゃない。


目的が村に灯りをつけてくれるという、まるでスペス村のような物語なのだ。


『伝説の妖精に頼まなくてもじい様に頼んだ方が灯りは出来るんです。ですが、それは天地がひっくり返ってもあり得ないことです。』


「何で理由教えてくれないんだよ。」


『人には知らない方がいいこともあるからです。』


「なんだそれ。」


目の前に伝説と書かれた背表紙が見えた。


白い羽をつけたピンク色のツインテール。


妖精とは違うんじゃないかと思うぐらい、お化け屋敷に出てきそうな顔をしていた。


「何でうらめしや~みたいな表情してるわけ?」


『見つけられたかったのでは?』


納得するか、僕はその埃まみれの厚い本を広げた。


すると、写真が貼ってあったのだ。


「じいちゃんが開けたのかな、古い写真だ。」


『これは、灯台ですね。地球という辞典に書いてありました。じい様に写真も見せてもらったので間違いないかと。』


「じいちゃん、地球に行ったことあるの?」


ルカは、呆れたように僕を見ている。


『地球に行かなければ私は生まれていません。そもそもスペス村は、鎖国状態であると言ってもいいでしょう。いや、鎖星状態でしょうか。星が違いますからね。』


「言語も違うんだろう?」


『同じですよ、我々は人間なのですから。』


僕は、大変美しい者を目を細めて見つめてみた。


『私は嘆かわしいです。じい様は私を人のようなロボットとして作り上げました。私は人型ロボット!人であることが希望なのです!坊っちゃんが信じてくださら…っ!』


その時だった。


僕達は、白い雲みたいなものに呑み込まれてしまった。


辺り一面真っ白、何もない、ルカの姿もなかった。


『あなた、地球に行きたいの?』


声のする方向を見るとピンクのツインテールをした、かわいらしい小さな女の子が飛びながら僕をじっと見ていた。


「伝説の妖精なのか?」


『失礼ね、あの村の人々はもう私の名前を忘れたの。マイヤよ。』


「スペス村を知ってるのか?」


『知ってるも何も私があの村に灯りを届けたのだけど?』


あの物語は、実話なのか、とんでもないことを教えてもらった。


「じゃ、じゃあ、あの写真は!灯台!」


『あれは、スペス村に元々あったものよ。修理して使えるようにしたのよ。この私がね、でも作れる技術は教えたと思うけどね。暗闇の中でまだ何やってるのよ。』


灯台があった?


そんなこと村の人からも聞いたことがない!


じいちゃんも何も。


『伝えることが近い人ほど難しいこともあるわ。』


「お前も理由を知ってるのか!」


『お前じゃないわ、マイヤよ。ほんと今の時代の子供って失礼ね。』


『失礼なのは、あなただと思いますが?』


ゴホゴホと咳き込みながら僕を抱き締めてルカは言った。


『あら、ロボットには効かない魔法なのだけど?』


『残念ですが、私は人間ですので。それに、マイヤ様、あなたが出てきたおかげで私の言葉が目立たなくなってしまっているんですね。私は大変困っております。』


ルカ?何言ってるんだ?


『マイヤ様、響きいいわね。私、あなたのこと気に入ったわ。ごめんなさい、私も人間じゃないから言葉を物書きが目立つようにしたのね。前のスペス村の物語もそうだったのよ。あの時は、幽霊と一緒だったから。』


『何度も言いますが私は人間ですよ。ですが、マイヤ様から大変良い話を聞けました。あの誘いをしていただけるのですね?』


「ルカ?さっきから何を話してるんだ?」


天使のような微笑みで目の前にいた彼女は、大きな姿になり白い光を放った。


そして願うように言ったのだ。


『照らすことが出来るのよ、夜の世界を。光を探す旅に出ましょう。』



マイヤは、僕とルカの周りを楽しそうに跳び跳ねている。


ルカは、何やら急いでリュックの中に必要なものを声に出しながら詰め込んでいる。


じいちゃんは、どうやら自分の部屋に入って愛用のキセルを吸っているのかもしれない。


「でも、光を探しに行くって勇者じゃあるまいし一般人でも大丈夫なの?」


『ほんと、今の時代の子供ってこんなに自信がないこと思い付くの得意なのね。あなたは、光がこのスペス村にないと困るから私を探していたんでしょう?目的のために頑張るのは当たり前じゃない。』


見た目は小さないや、外見で判断してはいけないってじいちゃんに怒られたことがある。


『マイヤ様の言う通りですよ。やってみないと分かりません。みんなで探しに行くんです。何とかなりますよ。』


「でも、じいちゃんには何て言うんだよ。旅に出るなんて分かってもらえるかな。」


『それなら大丈夫よ!』


マイヤは、ポケットから自分の背よりも長い杖を空に掲げた。


『えい!』


じいちゃんの部屋めがけて、虹色の光が伸びていく。


「何したんだよ!」


『幻を見せているのよ。キセルを吸っていたみたいだから、そのまま幸せを感じてる。』


幻?まさか!


『大丈夫ですよ、歩夢坊っちゃん。じい様はしっかり生きています。』


過呼吸のように心臓が苦しくなっていく。顔も青ざめているかもしれない。気分が悪い。


『歩夢…』


肩に小さな柔らかい感触がある。マイヤだ。


ツインテールの髪が揺れてほっぺがくすぐったい。


『ごめんね。』


「大丈夫だよ、勝手に勘違いしただけだから。遠くに行ってしまったような気がしたんだ。」


暗闇の中に消えていくお母さんとお父さんが子供の頃に見えたことがあった。


あれは、現実なのか幻なのか今でも分かっていない。


知ることが死ぬことよりも怖いんだ。


『マイヤとか言ったな。歩夢にこれ以上変なことしたら引っ掻くからな。』


『ごめんなさいルカ。あれ、違うわね声が凄い低い。誰?』


『俺はここだ。』


『見えないわよ、どこにいるの?』


ルカも辺りをキョロキョロ見渡している。


僕の足元にまたくすぐったい感触がある。


ふわふわした癒されるようなこの感覚、ゴロゴロとした甘えている音。


「ベオ、こんなところにいたのか。」


僕は、いつものように彼を抱き締める。


お腹に顔をうずめる。くんくん、はあ、癒される。


『今日は、珍しいですね。見たことがない方がいるのに自分から姿を見せてくれるなんて。』


『じい様の横で寝ていたら虹が見えたからな。あの世に行ったのかと思ったが違ったな。俺は生きてる。』


マイヤは、そんなベオを不思議そうに近くで見ている。


『シャー!!!!!』威嚇されているが気にしていない。


「そんなことより、何かさ違うよね今の状態。」


『えぇ、まずこのようなことが起きていることが信じられないですね。』


ベオは、僕やルカの驚きの表情にフン!と怒ったように警戒して辺りを見渡している。


『俺は、いつだってお前らと話をしていた。通じないのは気持ちが足りないせいだ。』


じいちゃんもベオとよく同じことを話していた。


言葉が通じなくても気持ちまで伝わらないわけじゃないと、どんな形でも想いは必ず届くのだから諦めるなって。


『失礼致しました。ベオ様、じい様の近くで坊っちゃんも守りながら私と共に時間を過ごしたそれは、仲間です。マイヤ様、分かっていらっしゃったのですね!パーティーは4人でなければならないですからね!えぇ、私はとても激しい躍動感に心をつき動かされています!』


ルカは相変わらずじいちゃんが作った勇者のゲームのやりすぎだな。


「ベオが話せるようになったのは、マイヤの力なんだよね?」


『えぇ、でも話せるようになる魔法じゃないのよ。おかしいわ。』


マイヤは、ずっとベオを興味深げに見つめていた。


引っ掻くのをもう彼は諦めたみたいだ。毛繕いを始めている。


『幻見えたのよね?』


『ああ、虹だろ。幸せな気分にはならなかったよ。』


『あなたもしかして。』


その時だった。ルカが表情を強張らせ僕の目をふさいだ。


「何でだよ!ルカ前が見えない!」


『ベオ様、おいたわしや…』


泣いているのか? 心が読めるのほんと状況がよく分からなくなるから嫌だ人間は!


『俺のことはいいだろ、そうか、線を超えたやつは見えないんだな。』


『凄い経験あなたしてるのね。』


僕だけが事情がよく分からない。何も見えないし。


でも、ベオはお母さんお父さんが光を探す旅に出てからも一緒にいてくれた。


あれ、広い世界を見たいからじゃなかったっけ。


ベオはずっと一緒じゃないか。


記憶が分からなくなっていく。


ベオの昔のことも知らない。だけどベオのこと何も知らないわけじゃない。


「ベオ、僕は何も分からない。でも大好きだよ。」


何も見えなくても一緒に過ごした時間があるから。


思い出せばそこに彼はいるんだ。


ルカが僕に大切なものを見せてくれた。


『ありがとう、歩夢。俺は今とても幸せだよ。』



それから、僕達は暗い世界に足を踏み出した。


翌朝から出発しても良かったのだが、マイヤに一分一秒も無駄には出来ないのよと言われて彼女が魔法で作り出した小さな星の光を道標に光を照らす灯台を目指して歩き始めたのだ。


『マイヤ様の魔法で光は作り出せないのですか?』


マイヤは、僕の肩に座って星の光を魔法で保っている。


『ずっと魔力が必要なのよ。永遠じゃないの。』


『じい様が作り出した方が確かに人間が想いを受け取れますし、簡単ではないことも伝わると言いたいのですね。』


『魔法なんて大したことないの。人間の技術の方がよっぽど価値があるのよ。』


じい様や、頑張って毎日毎日働いているみんなが褒められて僕はとても嬉しかった。


伝説の妖精マイヤに人間が魅力的なのだと思ってもらえているなんて不思議な感じだ。


『人間からすれば、魔法という不可思議なものの方が魅力があるに違いない。そんなのそれぞれだからな。』


『人間になりたいと思うの?』


マイヤの質問にベオはへっと笑った。彼女もそんな彼を見て可愛らしい笑顔を浮かべている。


『人間になりたい物好きはルカぐらいね。』


『人は、大変素晴らしい生き物です。悪口になってはいませんか?』


ルカの言葉にマイヤもベオも口を揃えて話してくれた。


『魅力的なのは認めるけど人間として生きたいとは思わ(ねぇよ。)ないわね。それだけ技術が素晴らしいなら努力も必要な(んだぜ。)のよ。生きてる時間があっという間だ(ぜ。)わ。』


僕は、マイヤやベオが話していることがよく分からなかった。当たり前だと思ったから。


でも、ルカだけは頷きながら星の光を見つめ『美しいですね。』と想いを伝えたのだ。



少しずつ日の光が僕達を照らし始めた。


長く歩いた道中に、不思議な足跡があることに気付くことが出来た。


『何これ、人間のものではないわね。』


『獣臭いな。』


マイヤとベオが穴みたいな足跡を覗き込んでいる。


『これほど深い足跡を残せるなんて相当重さがないといけませんから。もしも私達を襲うような獣だった場合、戦いになるそれもかなり苦戦すると思った方が良いですね。』


『戦うってマイヤがいるから大丈夫だろ、魔法で何とかならないの?』


幻を見せたり星の光も出せるのだから、物凄い大きな獣が出てきても大丈夫って思っていたのに、マイヤは、急に体をびくびく震わせていた。


『わ、わたしは、た、戦えないわよ!』


『魔法があるじゃないか!』


『ゲームやアニメの見すぎなんじゃないの?魔法は、戦うためにあるわけじゃないの。私の場合は、敵を倒すためにある魔法は存在しないわ。』


ルカは、僕の手を掴んでいる。


じいちゃんに護身術をルカは習っていた。


でも、獣はさすがに無理だろうと感じるレベルだ。


『坊っちゃん、不可能なことなどないのですよ。』


『可能になれば人間じゃないぞ。』


『ベオ様もマイヤ様も戦う術はないのでしょう。私が人間を超える必要がありますね。』


僕は、本当に何も出来ないのだろうか。


いつも守ってもらってばかり、こんな時もマイヤやルカに頼りっぱなし。


人間だからって大きな獣に立ち向かえないわけじゃない。


人間にも知恵はあるんだ。


『キィィィィィィィィィ!』


その時だった。


空から、大きな岩が僕達をめがけて降って来たのだ。


それは一つじゃない、何十もの巨大岩が道をふさいでいく。


『足跡じゃなくて岩だったの!?』


『変ですね、なら何故今道に岩がないのです?』


『そんなの後だ!みんな岩の下敷きになってあの世に行ってもいいのか!先に進め!』


ベオの素早さは物凄いものだ。


マイヤはすぐに機転を利かせて魔法を唱えた。


ベオの姿がどんどん大きくなる。


『へっ、考えたなマイヤ!行くぞ!』


大きな姿となった黒い姿の美しい猫は、頭上にいる赤い鳥を切れ長の瞳で見つめながらまるで風のように駆け抜けたのだ。



『何とか助かったな。』


ベオの姿がゆっくりと変化していく。


全力で走ってくれたのだろう、その場に倒れ込み顎を地面につけてヘナヘナしている。


「ありがとうベオ。」


僕は、そんな彼を優しく頭をポンポンした。


顎が良かったのか必死に地面から離したそうだが、体力不足だ。


僕は、ベオを抱き抱え膝の上でお求めの場所を撫でまくった。


『しかし、何だったのでしょうか。あれは赤い鳥でしたが岩をしかもあんなに大きなものを落とすモンスターがいるなんて聞いてませんよ!』


『あいつ、追いかけて来ないといいけど。心配だわ。』


森から抜けたことで、もう目につかなくなればいいけど相手は鳥だ。


空の上からなんて森に入った方が見つけにくいはずで、そんな状態でも攻撃をしてきたんだ。


外に出た自分達なんていつでもどうにでもなるだろう。


『ベオ様の体力回復が先決ですね。近くに見えるあの小屋で休ませてもらいましょう。』


そこには、バオバブの木の形をした家がある。


誰が作ったのだろう。不思議な感じだ。


『家にしたいの?バオバブでありたいの?』


マイヤは、語りかけている。


『どっちでもいい。疲れた、寝る。』


ベオは、僕の腕の中でもう寝息を立てている。


扉に手をかけると、ドアノブがガチャリと音がなった。


中から光が漏れる。


【歩夢、いつかバオバブの小屋を見つけたら奇跡の灯台のことを尋ねるんだ。中には面白い小人がいる。私の友人でな、お前のお母さんもお父さんもお世話になったんだ。】


どこからかじいちゃんの声が聞こえた気がした。


真っ白な先に見えるその小さな人は、こちらに手招きをしている。


『来たね、待っていたよ。歩夢君。』



そこは、どことなく自分達が住んでいる部屋のようだった。


お母さんやお父さんがまだ一緒にいた頃、僕も見ていたそんな記憶があるのだ。


『胎動が多かったからね。やはり見えるもんなんだね。』


白髪の小さな姿をした貴婦人がその場に立っていた。

正確には、ティートローリーの上に置かれているコーヒーカップの中にすっぽり入っていたのだ。


『歩夢坊っちゃんをご存知なのですね、マダム。』


ルカは、一礼し彼女に手を差しのべる。


『久しぶりだね、立派になったもんだ。知ってるのは地球にいた時のご両親のことさ。』


『地球に住んでいたの?あなた小人でしょう?私達妖精と同じ地球では夢の世界にしか現れない存在だって一緒に何かをするなんてありえないはずよ。』


マイヤは、シルクの美しいスパンコールドレスを着た彼女の回りを飛びまくっている。


自分のピンク色のフリルのついたワンピースを見せびらかしたいのか優雅に飛んでいるように僕には見えた。


『あはは。マイヤのドレスは綺麗だね。まるであの時出会った歩夢の両親の想いのようだ。』


マイヤの栗色の髪を優しく撫でながら彼女は、僕の目をじっと見つめ話してくれたのだ。


『歩夢君、私があなたのご両親に会ったのは歩夢君が生まれる前に二人が私の夢を見てくれたからなんだ。光を求めていてね。地球に行くことに成功したんだよ、でも不思議なことにねスペス村に持ち帰れなかったんだよ。魔法の力だったからね。』


彼女は、ルカの手に乗りフラワリウムと書かれた部屋を指差した。


そこにはたくさんの植物が瓶の中に入った美しいものが並べてあったのだ。


『何ですかこれは!』


『うわあ、おばあさん魔法使えるの!』


マイヤとルカははしゃぎまくっている。


勝手に触ろうとしているので、先程まで寝ていたベオが起き、二人の動きを引っ張って止めている。


『ベオ、大丈夫だよ。触っても人に害はないさ。』


『アルスが良くても俺が嫌なんだよ。大切なものなんだろう?』


僕は耳を疑った。ベオのことまでまるで彼女が知っているみたいでそれに名前まで教えてくれるのが僕と一緒に住んでいた家族で。


色々考えていたらパニックになってまた呼吸が荒くなってしまった。


すると、アルスがお花の形が刺繍された小さな袋を開けて匂いを嗅がせてくれたのだ。


『落ち着くよ、大丈夫。ごめんね、フラワリウムは綺麗だけどここにあるのは全てマイヤが言ってくれたように魔法なんだ。でもね。』


一つだけ豆電球のような形をしたフラワリウムをアルスは指差して言ったのだ。


中には見たことのない綺麗な花が咲いていた。


あの小袋にあった形に凄く似ていると思った。


『かわいいお花ね!私のドレスみたいじゃない!』


『これは、ペチュニアですね。』


マイヤとルカは、ベオの説得もむなしく目を輝かせてその美しいものを四方八方から眺めている。


『心の安らぎという意味があるんだ。お母さんとお父さんは確かに地球に行ったけどそれは気持ちを落ち着けるためにじいさんに頼まれて私が連れて行ったんだよ。夢の世界としてね。』



「お母さんとお父さんが地球に行きたかったという記憶を僕は曖昧になっていて、でも思い出したんだ。スペス村に奇跡の灯台の光を届けるために地球に行きたがってたって。」


何故記憶が違っていたのか、きっとそれは魔法の力なのかもしれない。


お母さんのお腹にいた時にもしアルスの夢を見たのなら僕も体がなくてもその世界に行ったことになるのかもしれないからだ。


『マイヤの魔法は人に幻を見せる、そんなに違いはないけれど私の場合は人の願いを形にしてまるで現実のように誘うことが出来るんだ。』


『幻ではないのですか?』


ルカの問いかけにアルスは首をかしげ、目を細めた。


『幻はないものだろう?願いはあるものなんだ。夢という世界で見せたけどね、努力すれば必ず手に入るものさ。そういう想いがないものを私は人が幻として話しているように感じるんだよ。』


『何か難しいわね。じゃあ、私はそういうものを全て魔法だと思っているわ。』


マイヤは、得意気にお気に入りなのか杖をクルクルッと背の後ろで回しベオに吠えられている。


『私も見せた力は魔法だと思ってる。でも、それは人が無意識に使った想いの強さで私はそこに少しだけ触れただけなんだ。フラワリウムに入っている植物は、マイヤにある背中の羽の一部をわけてもらったものだ。瓶の中に閉じ込めると外に出たい気持ちから妖精の羽は植物のように上に成長していくんだ。その願いと気持ちの強さを持った人間がフラワリウムを見れば眠った時に行きたい場所に行ける、そんな魔法さ。』


アルスは、引き出しから分厚い本を取り出した。


うらめしや~と言いたげな少女が今度は表紙になっている。


『わ、わたしのおばあちゃんだわ!』


『羽をわけてもらったよ。人を救うためにね。小人としての生を受けたのは彼らを助ける役目があるからだと考えているよ。』


ベオは、小さな姿をしたアルスをいつの間にか咥えて背中に乗せて座っていた。


ペロペロと自分の体を綺麗にしている。


『小人も妖精も動物もロボットも人間も姿は違っても変わりなんかねぇさ。』


『ベオ様が仰る通りですね。では、私達も地球に行くことが出来るのですか?』


ルカは目を輝かせて薔薇の入ったフラワリウムを見つめ続けている。


アルスは笑っていた。


『そんな願いじゃ無理だね。奇跡の灯台はスペス村の近くにある、光を見たいという大きな気持ちは歩夢君のお母さんお父さんはもっと強かったんだよ。』


じいちゃんもよく話していた。


叶えたい気持ちが強ければそれは必ず現実になる。


努力すれば未来は変えられるんだ。


『想いを大切にしてほしかったんだ、だから私はここに歩夢君のお父さんとお母さんを連れてきた。やっぱりフラワリウムの魔法の力によって地球に行けた、それからのことは私にも分からないんだ。』


急にアルスの表情が曇る。


ルカは見逃さなかった。


『光を持ち続けることが出来た彼らは必ず希望の灯台を目指したはず。なら、その道中で?』


僕はそれ以上聞きたくなかった。


きっと、父さんと母さんの最期を受け入れることが出来なかったから記憶が曖昧になっていたんだ。


『旅を続ければ嫌でも知ることになるさ。』


ベオは、身支度を終えたのか扉の前に立ちみんなを見ている。


『そうね、私達の想いは残念ながら希望の灯台には届かないみたいだしここにいても道は開かないわ。』


マイヤもそんなベオの後を追いかけた。


『私達の想いが別にあるとこの世界にはバレてしまっているようですしね。』


ルカは、震えている僕の手を強く握り締めてくれている。そしてゆっくりとみんなのところへ足を一緒に進めてくれた。


『希望の灯台は、きっと探せば見つかる。ルカ、マイヤ、ベオ、歩夢君のことを頼んだよ。これは分かる気持ちだろう。』


アルスの言葉に口を揃えてみんなは『行ってきます。』と僕の背中を支えてくれたのだった。



~アルス、バオバブの部屋の中~

彼らが去った後、マイヤとあの時の出来事を語り合う。


『歩夢君、大きくなっていたね。』


『マイヤもずいぶん逞しくなっていた。』


『自分のドレスを自慢するなんて性格も遺伝するのかい?』


『知らないよそんなことは。』


一つのフラワリウムが音を立てて光を帯だす。


そこには、二人で使った力によって取り上げた赤ん坊の姿があった。


『希望の灯台までは辛い道のりだもの。赤ちゃんをお腹に抱えたままは厳しいわ。』


『えぇ、希望の灯台が歩夢君のご両親にとっては別のところにあった。だって彼を置いて行ったのだから。』


『危ないからよ。置いたんじゃない預けたのよ。』


『私達が守って歩夢君は成長した。希望の灯台が私達、そして歩夢君の仲間に見えないのはあの灯台が彼だからよ。』


険しい道のりをまた歩き始めた姿を二人の妖精はずっと見守っている。


いや、今は一人は幽霊、一人は小人の姿だ。


『大切な羽をありがとう。』


『お互いにそう思いましょう。人の気持ちの希望のために。』


ツインテールにカールがかかった若い女性がアルスの近くに駆け寄り手を合わせる。


その瞳は青く輝くダイヤモンドのように美しかった。



次第に辺りは一面真っ白になり風も強く寒さも肌を切るように感じられるほどだった。


『希望の灯台まで誰も行こうとしない気持ちが分かります。辿り着く前にこの世にいませんよ。』


『それでも歩夢の両親は進んだんだ。弱音吐くと本当にそっちの世界が見えてくるからやめとくんだな。』


ベオは泣きながら前に進んでいるルカの足にピトッとつきながらマイヤを見た。


彼女は、何やら頭の中でどこかに行っているように微動だにしていない。


『マイヤ大丈夫?』


僕の問いかけで我にかえってくれたのかすぐ杖を取り出し震えているルカを見た。


『あんたしっかりしなさいよ。人間の歩夢は全然寒さなんか気にせず灯台目指してんのよ。ロボットなら何とか対策出来るでしょ。』


『マイヤ様、私はロボットではなく人間です。体も寒いですが今心も寒くなりました。』


『物理的にあたためてるだろうが。』


ベオは、ピトッとくっつくのを諦め爪を研ぎ始めた。いつ用意したのか不思議だが、恐らくマイヤの魔法の力だろう。


『ベオ様、物理的とは?』


『ひっかけば、寒いって気持ちよりも痛みの方が強くなる気がしてよ。』


『本当に逝きますよ。』


『冗談だよ。』


マイヤは、ベオの爪研ぎを魔法の力で火に変えた。


『摩擦?』


『努力してそうしたように見せてみたのよ。』


『努力も何も凶器ですが?』


僕は、マイヤがアルスのようにただ魔法を使うという気持ちにならないようにしたいのだと思ったのだった。


魔法はとても便利だが便利すぎて頼りすぎてしまう。人やその他の動物は必ず楽な方に行く。


それは努力がない世界なのだ。


『あたたかいです。色々あったおかげで骨身に染みます。』


ルカはベオの手を掴みながら離さない。


完全にカイロ代わりだ。


『ベオは、まだ疲れが取れていないかもしれないからあんたが連れて行きなさい。』


マイヤはふんっと音が聞こえるぐらいプリリとした表情で飛んで行ってしまったのだった。


『マイヤ悩んでいるのかな。』


『素直になれないだけだろ。誰かに心から優しくしたいと思ったんだ。アルスが人間を無償で助けていたみたいにな。』


ベオの言葉がマイヤに聞こえていたのか吹雪の中、道標となる虹が僕達の元へ現れたのだ。



希望の灯台と思われる建物が空高くに連なっているガラス張りの円柱の不思議な様相をしている。


「雪が降っているというのに、しっかりしたものですね。誰が作ったのでしょうか。」


『さあな、人間が作った噂は聞いたことがあるがな。』


ルカとベオは、遠目に見える姿に感嘆の声をあげていた。


「お母さんとお父さんはここまでやって来れたのかな?」


上を向いて歩いていたからか前方に立っていた大男に気づかなかった。


ドンッ!!!


かなり硬かった。重量も相当なものだろう。


大きな斧を持ち、毛皮のパンツに顔には包帯のようなもので半分の目が隠れていた。


上半身はこんなに寒いのに裸である。


「おいっ!!こんなところに何のようだ?」


「あなたは、何をしているんです?ぶつかってごめんなさい。」


すると大男は、大きな斧をぶんぶんと頭上で回し僕達の前に立ちふさがったのだ。


「希望の灯台を守るものだ!光を求めに来たやつらだな?10年ぐらい前にも男女のカップルが来たがあいつらは運が悪かった。やつが来てしまうなんてな。吹雪の中あの岩は即死だな。」


よく分からない単語がたくさん聞こえてきた。


男女のカップルはお母さんお父さんのことなのか?


即死?岩?守る者?


「光を求めたらいけないの?」


大男は、ガハハハハハと吹雪の中でも聞こえるほどの大きさで僕を笑った。


そして、大きな斧を構えて後ろで希望の灯台に想いを馳せるルカとベオ目掛けて投げたのだ。


ブンッッッッ!!


「ルカ!ベオ!」


爆発したんじゃないかと感じるほどに凄まじい雪崩が起き始めていた。


地面が崩れていく。


「そうさ、光はなくていいんだ。あの二人、知り合いだったのか?お前と同じ目に合った後に空には大岩、死ぬところは見ていないがまず生きてはいないだろう。スペス村で何の変わりもない生活を続けた方がいいんじゃないか。」


また笑っている。


落ちている間あいつはずっと笑っていた。


その時だった。


マイヤが大きな黒猫に乗って僕を助けてくれたのだ。


間違いなく大きな斧によってルカとベオは即死だったはずだ。


どうして?


『歩夢、俺はな、幽霊なんだ。』


その時、ベオの体が透明に輝き始めた。


『どういう意味?』


『歩夢のお母さんお父さんは、赤い鳥の大岩、大男からの攻撃から俺とアルスが守った。当然体を大きくして止めたからな俺は助からなかった。』


大男の悲痛な声があたりに響き渡っている。


なんだこの声、背筋がゾッとするような。


「歩夢坊っちゃん、戻りましたよ。」


血に染まる大斧を持ったルカが笑いながら瞬時に姿を見せたのだった。


「本当にルカなの?」

「怖がらせて申し訳ありません。しかし、方法がありませんでした。私は何があっても歩夢坊っちゃんを守らねばならんのです。」


その言葉には強い心が刻まれているようだった。


今までとは違う、まるでルカではない別の誰かだった。


『歩夢、俺もだ。お前の両親に頼まれてる。現世にまだ体があるのはアルスの力によるものだ。そのせいであいつは妖精ではなくなってしまったがな。マイヤのおばあさんさんにも世話になった。』


『話は聞いているわ。禁じられている魔法を使ったからおばあ様ともう一人の妖精が魔力を持たない姿になったって。でも、嘘だと思ってたわ。』


『俺なんかに力を使ってくれたのさ。もう返せないほどのものをな。だから俺には時間がない。希望の灯台は見えてる。急ごう、歩夢、スペス村に光を届けよう。』


ベオは自分の体に僕達を乗せている時間、透明になる頻度が増えている気がした。


「大きくなれば天に行ってしまうの?」


『魔法なんだよ、全て。この姿は特に魔力を使ってる、しかも俺は幽霊だ。とんでもない姿なんだ。しかも誰かを頼りまくって天に行けるかも分からん。』


『同じく私も、もう本当に人間にはなれないかもしれませんね。』


マイヤの魔法によってルカについていた赤い人間の血液は綺麗に洗い流された。


だけど、見えない部分はどうしても難しいのだろう。


「ルカ、さっきは怯えてごめん。僕のために、僕が頼りないから、ベオもマイヤも。みんな力を使って僕だけが。」


みんなのために何も出来ない自分が歯がゆかった。


いや、何もしないと自分自身で決めてしまっているだけなのかもしれない。


「行こう、希望の灯台に。僕は諦めないよ。」


今度は、僕が世界に光を、優しさや大切な想いをもらった僕が出来ることをやり遂げるんだ。


希望の灯台の頂上に僕達は導かれた。


そこに幻覚があるとも知らないで。



雪が辺り一面に降り積もっている。


希望の灯台の頂上は、凄く綺麗な円が描かれていてガラス張りで出来ていた。


僕達は、その場に足をついた。


その時、地面がまるで万華鏡のように光輝きある人物が浮かび上がってきたのだ。


『歩夢…大きくなったわね。母さん会えて嬉しいわ。』


『お前を置いていってしまったこと許してくれ。』


そこには悲しい顔をしたお母さん、お父さんの姿があったのだ。


本当に生きているように見えた。


お母さんが差し出してくれた手は握り締めるとあたたかい。


「生きているんだよね?」


『えぇ。ベオに救われてね。』


『歩夢、ここで父さん達と暮らさないか?』


光がそこにあるように感じられた。


ずっと温もりを抱いていたかった。


傍にいてほしかった。


話を聞いてほしかった。


でも、今そんな願いが叶っている。


本当にここは希望の灯台なんだ。


僕にとっての希望…


『歩夢ダメだ!戻ってこい!』


『幻覚です!お母様、お父様はこの世にはもう…』


『歩夢!あなたのご両親は妖精の魔力が一番強かった彼女が…』


その時だった。


母さんと父さんの姿がガラスの一辺となって散り散りになった。


輝きが失われていくように見える、その中から不気味な笑い声が聞こえてきたのだ。


寒い…冷たい…心臓が止まりそうだ…


『私が閉じ込めた、もう戻れないようにした。』


耳元でそう囁かれた気がした。


寒気がする、寂しい、悲しい、僕はもう光なんて…


『求めてはいけない、人間は本当に弱い。私はアルスとは違う。弱い人間が大嫌いだ。力も何も持たない無力な人間が大嫌いだ。だから綺麗なまま閉じ込めた。想いを輝かせたその姿のままここにね。』


僕の目の前に現れた小さな妖精は、雪で出来たドレスを着ていた。


硬く冷たく何も通さない、自分の手から溢れている火があたっても溶けない。


『ティティ…あなたここで何をしているの?』


マイヤが凄まじい魔力を内に秘めていることが僕でも分かった。


戦うために魔法はないと話していたけどもう彼女の全てから力が飛び出しそうなぐらい怒りに満ちている気がしたのだ。


『あぁ、マイヤか。おばあさんになったマイヤは妖精じゃないんだったね。みんなアルスにすがっていく。馬鹿になったんじゃないか?人間なんて無価値なのに。魔力が全てだ。』


氷のように鋭い瞳に黒髪の首元で綺麗にカールをしている赤い瞳の彼女を僕は、どんな形でも超えなければならないのかもしれない。


魔力がダメなら気持ちで超える。


『歩夢…』


ベオが足元に来てくれた。ティティがいつの間にか円の周りをスケートのように軽やかに滑っている。


『あの時のペットか。動物はみんな誰かのそういう存在だ。お前は亡くなったからな。亡くなれば姿は変幻自在。だから閉じ込められない。まあ、猫には興味はないがな。私には赤い鳥の姿と大男の人間の姿をした下僕がいる。』


『それはあなた以外の誰かを無価値とは思っていない証拠では?』


ルカはそんな心を持たない彼女の動きを腕力で遮った。


『人間らしくないぞ。ロボットのバカ力が。』


『構いません、私はあなたを止めるために自分が終わっても良いのです。歩夢坊っちゃんがスペス村で笑って過ごすためには必要のない存在だ。』


『ロボットには興味がないと話しただろう。私には勝てない。無理だ。私は最強なんだ、妖精界でも一番と呼ばれるほどの魔力を持っている。お前達をここで閉じ込めて終わりだ。コレクションにはいらんがな。』


ティティは、ルカの心臓に手をあてた。


そして、何か唱えると信じられない光景が僕の目の前で広がったのだ。


『ルカ…!』


『歩夢…坊っちゃん…』


そこには、見えないもので心を奪われてしまったルカの姿があった。


そんなの人間の僕に見えるはずがない。


でも、分かるのだ。


あれは、心臓を貫かれてる。


ルカは、おじいちゃんが作ったロボットだ。


頑丈にとても大切に。


これからも生きる権利があるんだ。


どんな誰かにだって。


こんなことあっていいはずないんだ。


ルカとの楽しかった思い出が頭をよぎる。


みんなを守らないといけなかったのに。


僕が…人間である僕が…


「マイヤ!魔法を使ってくれ!ルカがこのままだと時間がない!」


『分かってる!!』


蘇生の魔法はたくさんの星が宙を舞うと本で読んだことがある。


あれは、ファンタジー小説だったかな。


現実もそうなんだと思った。


『羽を無くすぞマイヤ!』


その時だった、ベオが最大の魔力を使わんとしているマイヤを口の中に入れたのだ。


『…何…のよ!…あ…て!!』


『歩夢!妖精は羽を無くしたら生きていけない。こいつは、マイヤばあさんやアルスのように心が育ってない、まだそういう人達に憧れているんだ。そんな状態で生きる希望を失くしてはいけない。』


僕は何をしようとしているのだろう。


こんなことマイヤのために良くない、本人がいいと話していてもその先に光がなきゃダメだ。


今まで使えていたものが無くなればそれは幸せではないのかもしれない。


でも、じいちゃんが言っていた。


考え方は変えられるんだ。


どんな時でも、どういう形になっても誰でも笑えるはずなんだ。


『マイヤ!ルカの蘇生魔法を唱えてくれ!羽が失くなったら僕が作る!それで魔力が宿る可能性なんてないかもしれないけど作り上げてみせる!だから、ルカを救ってくれ!』


その言葉にベオは、うつむき少しの時間考えていたが僕を見て頷き口を開けたのだ。


無数の星が今にも倒れしまいそうなルカを支え始める。


そして、一つの星にピンクのツインテールをブインブインと風のように靡かせながら青い瞳を持った彼女は答えてくれたのだ。


『任せて!私の役目よ!』



マイヤの蘇生魔法は、間一髪ルカの命を繋ぎ止めた。


虹色に光輝く姿を見てティティは嘲笑う。


『ふん、そんなことまでしなくても。結局早く死ぬわよ。』


『いいのよ、それが彼の願いなのだから。』


虹色の中にいるルカは、姿に異変があるのかこの世のものとは思えないほど高速で周り続けていた。


そして、動きが止まった時彼は産まれたのだ。


「ルカだね。」


異変はある感じはしなかった。


見た目は変わっていない。


長髪の銀色の色白の美しい青年だ。


身長も高いまま、だけど何だろう僕ともっと近い何かを感じる。


これは、心?


「今までもありましたがやはり心の音は違いますね。マイヤ様あなたの最後の魔力、こんな形で使いきってしまって良かったのですか?」


『いいのよ。まあ、私が魔力を使わなくてもあなたは旅の途中で本当に人の心を持つようになっていたわ。』


「見ていたのですね。ありがとうございます。」


ルカは、マイヤに膝まづき敬意を伝えている。


『ルカ、良かったな。』


ベオは、物凄く喜んでいるのか跳び跳ねている。


「危ないよ、ベオ。」


そう僕が思った時だった。


ベオの姿が透け始めたのだ。


綺麗にみるみる瞳の中まで白く薄くそして見えなくなってきていた。


「ベオ!ベオ!」


僕は何度も呼びかけた。


マイヤもルカもその様子を悲しげに見守っている。


『歩夢…俺はもう時間のようだ…ルカが人間になれて分かったんだ。願いは絶対に叶うんだ。無理だと諦めるな。両親は確かにお前を置いて光を求めた。でも、その先に幸せが必ずあると信じていたからだ。守りきれなくてごめんな。俺もお前のことが大好きだよ。見えなくなっても傍にいると感じてほしい。歩夢やルカ、アルス、マイヤ、じいさんが思い出してくれればいつまでも俺はこの世で生き続けられる。一緒にこれまで歩いてくれてありがとう。』


天には行けないとベオは、話していたけど絶対に行くことが出来たと確信できた。


頂上に向けて光が見えたからだ。


ベオは、天国に行けるって信じることが出来たんだね。


『歩夢…私達はそこにはいない。』


『母さん達は、ずっと見守っているからね。』


空から声が聞こえる。


そうだ、母さんと父さんはベオを迎えに来てくれたんだ。


ここにいるのはそうだよね、違うってちゃんと思わなきゃティティには敵わない。


『気付いたら一人は何も力を持たない人間に、一匹はなにもしなくても消えてるし、一匹は魔力失くして意味分かんないんだけど?』


「ティティ!僕はスペス村に光を届けたい!確かに人間は魔力が使えない姿を見たら弱いと感じてしまうかもしれない。でも、想いの強さは君がコレクションしたいぐらいに価値があることは分かるだろう!」


ティティは、ふんっと鼻息を荒げ不機嫌になった。


少し何かが動いているのだろうか。


「僕は、ずっと気持ちを灯していたい!そのためには、一番分かりやすい手段としてまず光を届けたいんだ!夜道を照らす光を作りたい!そうだ!僕達は、自分達で作り上げる!魔力はないけど時間をかけて生み出すことは出来るんだ!君だけのコレクションにするなんて勿体ない!僕達に光をもっと大きくするチャンスをくれないか?」


『大きくする?』


『そうだ!どうせコレクションにするなら気持ちの果てをしてみた方がいい!そこまで僕はたどり着く!約束する!』


その言葉を聞いて、ティティはクスクスと笑い始めた。


本当におかしかったのだろう。


長い時間彼女は笑っていた。


『久しぶりだよ。こんなに笑ったのわ。へぇ、私のコレクションになるためにもっと気持ちを想いを強くさせるから大きくさせるから見てろと、言いたいんだな?』


僕は強く頷いた。


もう、振り返らない。


決めたからには後は前に進むだけだ。


「僕は一人じゃない。ルカ、マイヤ、ベオ、父さん、母さん、アルス、マイヤのおばあさん、じいちゃん、そしてスペス村の人々がいる。そして君もだ、ティティ。」


『私も?』


「そう君もだ。みんなで光を強くする。だから、どうか人間が自由でいることを許してもらえないだろうか?」


僕は、ティティの羽に触れた。


冷たくて心まで凍りつくそんなものを背につけている彼女が僕達を受け入れてくれるかは分からなかった。


でも、戦いでは解決しないと感じたのだ。


『歩夢…待つよ。私はお前が光輝くのを待つ。どんな人間よりも価値がありそうだ。最高のコレクションになる。』


マイヤは、ティティを睨んでいるがルカは微笑んでいた。


「その時は、是非私も一緒にお願いしたいです。」


『お前もコレクションになりたいのか?』


「人生というものを楽しみたい自信は誰にも負けませんからね。」


『面白いやつらだ。』


ティティは、何やら魔法を唱え始めた。


物凄く長く念じている。


『希望の灯台なんてそもそも存在しない。あるのは光だ。楽をすると呑み込まれる幻覚だ。せいぜい努力を続けるんだな、弱い心を強く硬く仲間がいれば輝くことの出来る人間達よ。』


僕達は、目映い波動を受けた。


そして、ティティの優しい瞳の中で意識を失った。



僕はあれからじいちゃんに未完成ではあるものの途中まで作り方を教えてもらい後は長い年月をかけて独自に作り方を模索して、スペス村に光を届けた。


「さあさあ、今日は夜道も照らす持ち運びの出来る灯りを売りさばくよ!」


ドカァーンとまるで爆発でもするかのように人がたくさん駆け寄って来てくれる。


あれから、マイヤの一人言によって僕達はマイヤのおばあさんが昔作った灯台の話と作り方を知り、手始めにルカに頼み外には街灯をつけた。


伝説はどうやらマイヤのおばあさんだったようで、旅に出かけたのも彼女ではなかったのだ。


でもマイヤに悪気は全くないと僕達は分かっている。そんなことでマイヤを嫌いにはならない。


灯台は今、人手を集めて作り始めている最中だ。


家の中に光が届かないことの方が僕達にとっては大問題なのだ。


だけど、もう大丈夫。


「みんなの希望の灯台になりますようにと願いをかけて、50ペニーでどうかな!」


「地球で言うところの5000円ですね。」


「だから、何でその説明がいるんだよ。」


「分かりやすくするためですよ。」


ルカとこうやって話が出来る時間も大切にしたいと僕は思ってる。


心を読めなくなってからルカはそのことで悩んでいた。


だけど、人間はそれが普通のことなんだと知ってもっと心が柔らかくなっているような気がするのだ。


ティティが言うように強く硬くも大事だけど、そういう部分も心には大事だよね。



「マイヤ、遅くなってごめんね。」


僕はルカと一緒に家の地下にある自称図書館に向かった。


本棚には今でも『うらめしや~』という表情のマイヤがいる。


『遅いわよ!』


僕の呼びかけにすぐ彼女は応えてくれた。


『普通は、出来上がらなくても来るのよ!』


「おやおや、マイヤ様寂しかったのですね。」


『寂しくなんかないわよ!私はよ…に…私ってそうマイヤよ!』


そうなのだ、彼女は今、アルスと同じ小人の状態なのだ。


一度彼女のところへ相談に行ったのだが魔力が戻ることは難しいと言われてしまったのだった。


だが、奇跡というものは存在すると僕は信じている。


「マイヤ、妖精の羽を作ったんだ。シルクって生地で塗ってね周りはベオの毛玉を使っているんだよ。」


「ベオ様もきっと喜んでくださっていると感じたいですし、仲間ですからね。」


羽、というよりはマントのように見えるがその姿は、マイヤが笑顔を取り戻すには十分だった。


「やっと笑ってくれたね。」


「いくらのマイヤ様でもずっと元気がありませんでしたからね。」


『あなた達、私を見ていたの!?はっ、まさかあの話を!バレても私の魅力は変わらないから!』


マイヤはプリプリしているが、もらったマントを持ち上げたり揺らしたり高いところから飛んでみたり凄く喜んでくれた。


だが、やはり魔力が戻らないことは変えようがなかった。


でも、僕はアルスから一つのフラワリウムを託されていた。


この中にはマイヤのおばあさんの魔力が僅かだけど入っているらしいのだ。


うまくマイヤの中に入ることが出来れば魔力が復活する可能性はあるがとても難しいことなのだと教えてくれたのだった。


「マイヤ、一つやってみたいことがあるんだ。みんな手を繋ごう。」


僕とマイヤとルカは座って円になった。


手を繋ぐ前にポケットからエレムルスという花達が入ったフラワリウムをマイヤの目の前にソッと置いた。


『何よこれ。』


彼女は首をかしげているが事情は深く話さない方がいいとアルスの助言だった。


叶わなかったらショックだからと、ルカは話すべきだと言っていたけどね。


「信じる力が減ってしまうような気がしたんですよ。」


「心を読んだみたいに言うなって。みんなで願おう。」


『何を!?』


「魔力が戻りますように!」


「こらっ!ルカ!」


「言葉は本当になります。信じて。歩夢。」


その時、フラワリウムから光が溢れだしマイヤの体を包んだ。


希望の灯台でルカが人間に生まれ変わる時見た光に近いものを感じた。


『こ、これって!』


マイヤは、僕達が見えている場所にはもういなかった。

あちらこちらを飛び回り地球や妖精界に行き自慢しているのかもしれない。


「アルス様にお礼を言いに行かれたのかもしれませんね。」


「そうだね。…ルカはさ、心が読めなくなってもまるで分かっているみたいに僕の心と繋がるんだよ。それはどうして?」


「そんなの決まってるじゃないですか。」


ルカは僕の頭を撫でようとしてやめて昔、母さんと父さんが熱がある時にやってくれていたみたいに体調を気にするようにおでこを僕のおでこにくっつけたのだ。


「子供じゃないぞ!」


「だから頭は撫でませんでしたよ。」


「母さんと父さんにやってほしかったことだって話したことあったっけ。」


「私は分かるんです。歩夢が考えていることが、いえ、一番理解したいと思っているんですよ。」


『私もよ?』


急にふんっという鼻息と共に自信に満ち溢れたマイヤが帰ってきてくれていた。


「おかえり。マイヤ。」


「早い帰還ですね。」


『だって、私はここが一番好きだもの。ねぇ、何でティティにコレクションになりたいなんて言ったの?私、魔力使えるみたいだし努力はした方がいいのかもしれないけど手伝うわよ!』


「見守ってくださいマイヤ様。」


『何でよ!私を仲間にしたくないわけ?』


ルカはマイヤを手の中で優しく抱き締めた。


「違います。こうやって気持ちを伝え合えることがもう仲間である証拠だからです。ティティ様はなかなか難しいようでした。人の気持ちを理解したい部分がどうしてもかけているように見えた。だから、歩夢はコレクションになりたいと話したのですよ。」


『そうなの?』


マイヤの問いかけに僕は笑顔になった。


いつかきっと届くと思ったんだ。


僕の強く揺るぎない想いが。


「ティティも仲間だからだよ。コレクションになりたいなんて仲良くなりたい相手にしか言わないよね?」


それが僕の中の光だと信じてこれからも歩み続けるんだ。

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2025/02/08 10:50 退会済み
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