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死体を薪に、兵士よ進め  作者: かきあつ
前線奪還戦
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従軍の理由

今回は短めでの投稿になります。

 あぁ、そうでした。僕が従軍した理由を言ってなかった。


 これまで話したことでもわかるでしょうが、決して愛国心や忠誠心からではありません。ただ、毎日がつまらなくてたまらなかったからです。


 僕は開戦時、モスクワの神学校の生徒でした。その前は郊外の小さな村で、牧師の息子として産まれ、暮らしていました。

 故郷はつまらない場所でしたよ。延々と変わらない日常が繰り返され続けます。それに、田舎の子供には自由な未来がありません。牧師の子供に生まれたら牧師になるしかない、そのことに誰も疑問を抱いていませんでした。僕にはそれが嫌でたまらず、神学の勉強なんて全く手につきませんでした。


 故郷を捨て、父親の伝手で神学校へ行きました。流石に身一つで都会に行くわけにいかなかったので、取り敢えず神学校へ入学したわけですが、そこは規律云々が口煩くて往生しました。スプーンの上げ下げにまで教育されるのですからたまったものではありません。かといって、それ以外に僕が行くことのできる場所はどこを探してもありませんでした。


 血気盛んな年頃の僕が、聞きたくもない神学をさせられていたのですから、そりゃ腐り切って励めるわけもありませんな。

 いっそのこと何もかも捨ててやろうかと思いましたが、流石にそこまでの親不孝は気が咎めました。


 入学して間もない頃に独ソ戦が始まり、ソビエト中が戦争の熱に浮かされていました。街を歩けばプロパガンダ放送が流れ、兵舎には兵士へ志願すべく集まった市民たちが毎日のように列を成していたものです。

 国中が戦争に浮かれている中で、それを横目にしたくもない神学をやらされる。これは腐りますよ。


そんな時間が一年ほど経った頃に従軍聖職者の話が舞い込んできたのです。

 神学校の生徒の反応は大体が否定的でした。厳しく躾けられた彼らにとって汝、殺すなかれ、に反することが許せなかったのでしょうね。僕だけが胸を躍らせていました。これまでのつまらない人生から抜け出せると思い、僕は親や教師に相談もなく志願し、とんとん拍子で戦場へやってきたのです。

 まさかいきなり部隊の将校になるとは思っていませんでしたがね。


 僕は中隊の皆と親しくしておりました。先の賭けなんかではずいぶん手荒に扱われているようでしたが、それは忌避されている故の扱いではなく、距離が近いが故の気兼ねのない言葉をかけられていたに過ぎません。


 僕の根っこが剽軽だということもありますが、何よりも上官に臆することのない兵士というのが珍しかったのでしょう。

 先に言いましたが、僕は軍人で聖職者でした。教会から派遣されている立場でいわばお客様だったのです。

 客が来れば茶を出しますよね、煙草を求められれば差し出しますよね。それと同じで、僕には軍人としての階級に似つかわしくない待遇を受けていました。

 我儘を言っても理由を問われる事はありませんでした。例え聞かれたとしても、信仰に必要な事だと言えばそれまでですしね。

 そういう訳で僕の要望はほぼ通りましたし、それをいいことにあれやこれやと軍部からの指示にはけちをつけてやりました。

 こういうところも神を笠にきた生臭坊主ですね。

 その様子が一兵卒からすると愉快で痛快だったのでしょう。気がつけば僕が一兵卒達の中での旗頭のようになっていました。

 している事全部が全部正しいことではありませんでしたから、隊の上官からはよく顰蹙を買っていましたが。 


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