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幕間 イーディオ

 いつの間にか目の前からシーナはいなくなっていた。

 ロスから耳元で「この件は私と君の仲だから」と言われて我に返ったイーディオ。彼が改めてロスの顔を見ると、にっこりと微笑んでいた。


 その後、イーディオはシーナへと声をかける事はしない。イーディオは「今は」大人しくするべきだ、と思ったからだ。断じて、ロスの笑みに圧倒されたという訳ではない。

 しばらくするとロスの告げた通り、マシアとシーナとサントスが壇上に立った。この三名で新薬を作成した、と大々的に発表され、会場は盛り上がりを見せる。そしてシーナがロマディコ侯爵家の養女となった事も発表された。


 イーディオとアコルドは、すでに彼女が「貴族」であった事に驚きを隠せない。

 自分たちの切り札が、この時点で失われてしまったのだ。そもそもシーナにとっては全く興味のない褒賞なのだが、残念かな……彼らは今だ、その事に気づいていないが。


 発表が終わり舞踏会に入ると、イーディオとアコルドは控室へと戻る。


 二人は焦っていた。

 アコルドの妻としてシーナをヴェローロへと連れて帰る、という作戦が失敗する……その可能性にたどり着いたからである。


 部屋に戻った二人。イーディオは顔を真っ赤にして声を荒げた。


「既に貴族籍に入っていただと?! そんな話、聞いてないぞ! アコルド!」

「申し訳ございません。私の調査不足でした」


 頭を下げるアコルドを見て、イーディオは落ち着きを取り戻す。


「いや、いい。どうせ、ナッツィアの者が我々に知らせないようにと、この事実を隠していたのだろうな。全く、これだから小国は――」

 

 自分の都合の良い方へと話を進めていくイーディオ。彼らは知らない。シーナが侯爵家の養子になる件は、使節団にも事前に伝わっていた事を。もしこの時点でイーディオたちが、使節団に確認を取っていたら……自身の行動を省みる事もできたかもしれない。


 ――けれども、彼らは突き進む道を進んでしまった。


 イーディオとアコルドはナッツィア王国の者がこの件を隠蔽していた、と判断し話を進めていく。

 

「ですが、どういたしましょうか? 我々が与える前に貴族の地位という褒賞に飛びついていたとは……やはり平民女は権力が欲しかったのでしょうね」


 ロマディコ家と言えば、ナッツィアでも有力な貴族である。何度でも言うが、ナッツィアが小国であるとは言え、アコルドの実家と比べれば月とすっぽんほど違いがある。

 切り札は無くなった。ではどうすれば良いのだろうか。

 

 イーディオは彼の言葉に首をひねる。しばらくすると、何かを思いついたようだった。


「いや……チャンスが巡ってきたとも考えられる。あの平民女が貴族、という事は……逆に考えれば、あの女と結婚しやすくなったと思わないか? 平民ではなく、貴族になったのだ。それ相応の家へと嫁ぐ必要があるはずだ」

「言われてみれば……殿下の仰る通りですね」


 アコルドに肯定され、イーディオは得意げに続きを話す。


「ロマディコ家と言っても、あの女は養子だ。あの侯爵家の面々が平民女を受け入れているとは思わない……つまり平民女を政略の手駒にするための見せかけにすぎないのではないか? 元は平民の血が流れている女だ。良い嫁ぎ先など見込めないであろうな」


 勿論そんな事実は一切無いのだが……残念ながらここに二人を止める者はいない。

 アコルドも、イーディオの言葉を絶賛していた。


「あの平民女をヴェローロへと連れて帰る事ができれば、私は王太子として返り咲く事ができるはずだ。父上も分かってくださるだろうな」

「殿下の仰る通りかと。ですが、あの平民女へと帰国を促すにはどうしたら良いのでしょうか?」


 アコルドの言葉にイーディオは腕を組んで考え込んだ。そして――。


「あの平民女に『ヴェローロへと帰りたい』言わせれば良いのではないか?」

「それは名案でございますね!」

「本人が言えば、ナッツィアの者たちも文句を言えないだろうな」


 自分の考えた案に満足げな表情のイーディオ。アコルドもその案が最善だと考えている。


「さあ、平民女を迎える準備をしようではないか!」


 自信満々な表情でイーディオは胸を張って言い放った。

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