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3、薬師の弟子と、お披露目直前

 シーナはリベルトと対面に座る。

 屋敷が見えなくなると、彼女は手を振るのをやめてリベルトへと向いた。


「リベルト様、本日はよろしくお願いいたします」


 以前王宮の授業で習った礼を執る。リベルトはそんな彼女の様子に最初は目を丸くするが、それがよそ行きの彼女だと気がついたらしい。


「こちらこそ。私を選んでくれて嬉しかった。それに……ドレスも……とても似合っている」

「あ……ありがとうございます……」


 リベルトはシーナを褒めた後、照れ臭くなったのかそっぽを向いた。シーナも恥ずかしくて俯いてしまう。その中で、シーナはちらちらとリベルトを見る。リベルトの正装は、貴族の着ているような正装ではなく、どちらかといえば軍服に近いような気がした。

 黒地に金の刺繍や金のボタンが映えている。いつも前髪を下ろしているリベルトだが、今日は前髪を後ろに撫でつけているのも斬新だった。

 シーナは普段より何故か早い鼓動を抑えながら、リベルトに話しかけた。


「あの……リベルト様の服は、軍服ですか?」

「ああ。普通は正装をするべきなのだろうが……今回は殿下からこの服で良いとお達しがあったからな」

「そうでしたか……」


 そこから無言の時間が始まる。シーナもリベルトも照れていたのだ。しばらくしてから、リベルトはシーナに手を差し出した。


「今日は私が、シーナさんを守ろう。無事このお披露目会を終えて……君が薬の研究に集中できるよう、露払いしよう」

「……ありがとうございます」

 

 シーナは差し出された手に自分の手を乗せる。そしてにっこりと微笑んだ。



 王宮に到着した二人は、使用人によって別室へ案内された。今回シーナのお披露目もあるという事で、公爵家の入場が終わった後に入場するのだとか。部屋に入ると、そこには着飾ったマシアもいる。


「おや、シーナ。馬子にも衣装だねぇ」

「師匠もお似合いです」


 そう笑ってシーナが告げれば、マシアは一度言葉に詰まった後、ため息をついた。

 

「リベルト殿、あたしゃここに閉じこもってちゃいけないかい?」

「駄目ですね」

「なんだい、ケチだね」


 肩を竦めるマシアに、シーナは笑う。彼女は本当に変わらない。

 

「サントス殿がマシア様をエスコートしますし、表彰以外は自由にしてほしいと国王陛下の言質も取ってありますので、ご安心ください」

「それじゃあその間は二人で薬談義でもしてようかね。いいアイディアが浮かびそうなんだよ」


 あ、いいな、それ。とシーナは思う。自分も加われないだろうか、とそわそわし始めた事にリベルトは気がついたようだ。


「残念だが、シーナさんは侯爵家の養女になったお披露目もあるからな……薬談義には参加できないかも知れない」

「えっ……」

「あはは! そうだったねぇ。シーナは養女になったんだったねぇ! 大丈夫さ、あたしらで話した内容は、後でシーナにも教えるからね。思う存分目立っておいで!」

「師匠、面白がってますよね……?」


 笑いを堪えているマシアを見て、シーナは少しだけ緊張がほぐれたような気がした。



 その後サントスも現れて揃った一行。

 しばらく雑談をしていたが、案内の者が現れて、全員は広間の扉の前に集まっていた。


 順番は、サントスとマシアの後にリベルトとシーナだ。


 サントスとマシアは全く緊張がないのか、薬草談義をしている。

 一方で、普段であればその話に入っていきそうなシーナは、扉を目の前にして緊張したのか……動きが固い。


「大丈夫か?」


 リベルトが声をかけると、シーナはまるで操り人形のように、首を縦に動かした。側から見れば、大丈夫でなさそうな状態である。シーナはリベルトに向けて笑顔を見せようとするが、やはり緊張からかぎこちない。

 頭の中でこれから何をすれば良いか、を繰り返し呟いていると、手を誰かに包まれたような気がした。

 顔を上げると、彼女の右手をリベルトが両手で優しく握っている。


「そこまで硬くならなくても大丈夫だ。何かあれば、私が耳元で囁こう」

「リベルト様……」


 彼の温もりで、少しずつ緊張が溶けていく。シーナは自然と笑みを見せていた。




 

 その様子をじっと見つめていたのは、サントスだった。

 

「おやぁ、やきもちかい?」


 マシアに揶揄われ、サントスは眉間に皺を寄せた。


「そんな事、ありませんよ」

「そうかいそうかい、サントスも若いねぇ〜」


 面白そうに話すマシアに、サントスはため息をつきながら告げる。


「私はシーナさんの義兄ですから。そこは弁えますよ」

「ははは、まあ、あの子を守ってやってくれ」


 そう話しているマシアの眉尻が少し下がっている事にサントスは気が付く。先程の揶揄っているトーンとは違う、心配そうな……。

 サントスは意を決して彼女に尋ねた。


「マシア様、彼女に何かあるのですか?」

「んー、いや何もないさね。おや、サントス。そろそろ呼ばれるんじゃないか?」

「……そうですね」


 マシアの言葉に正面を向いたサントスだったが、彼の頭では彼女の寂しそうな表情がしばらく渦巻いていた。

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