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1、薬師の弟子は、目をまたたかせる

 そこから月日は流れ……お披露目の一週間ほど前まで迫っていた。

 その前より国王陛下に招かれたマシアが渋々滞在していた事もあり、王宮薬師室は今日も議論の声が響く。サントスやシーナ、ラペッサだけでなく、カリナたち三人も加わり薬師室は盛り上がっていた。


 そんな時に、シーナはロス(第二王子)に呼び出された。


「え、ヴェローロの王太子様がお披露目にいらっしゃるのですか?」


 シーナは目をぱちくりさせた。ヴェローロの王太子、と言えばシーナを追い出した人物だ。彼女の記憶では、ゴッテゴテの服を着て高笑いしている男と、その後ろで彼女を睨みつけていた男が思い浮かぶ。


「そう。ヴェローロの王太子……ああ、イーディオって言うんだけどさ。イーディオと側近のアコルドは使節団と一緒に来るんだって」

「まあ、あの様子であれば……使節団に無理言って付いてきたのだろうと予想しますが」

「やっぱり、マルコスは辛辣だねぇ〜」


 イーディオは既にナッツィアにたどり着いているのだそう。元々使節団の役割が、ナッツィア王国の視察の意味もあり、他の使節団よりも早く王宮入りしているのだとか。

 使節団は視察を行なっているけれど、イーディオはアコルドと共に部屋でふんぞり返っているようだ。


 対して興味もなかったので、ふーんと聞き流していると、ダビドが首を傾げた。


「あれ、シーナちゃん。イーディオの事、あまり良い印象はないでしょ? だって、追い出されちゃったし」

「まあ、そうですね」

 

 関わりたくない人種ではあるなと思う。けれど、感謝もしているのだ。


「ですが、王太子様が追い出して下さったことで、私は今自由に研究もできていますし、野外の調査もさせていただけていますから……個人的に言えば、有り難かったです」


 あのままだったら、きっとここまで楽しく研究はできていなかっただろうとシーナは思う。シーナ以外の者たちは顔を見合わせる。そして、声を出して笑った。あのリベルトまでも表情が崩れている。


「シーナちゃんってブレないね!」

「そうですか?」

「そういうところ、良いと思う! ね、リベルト」

「ああ」


 リベルトに微笑まれて、シーナも釣られて笑う。ただ……もしこの場所でなかったら、心からそう思ただろうか。皆が力を貸してくれるからこそ、今の場所の居心地が良いんだろうなとシーナは感じていた。

 

 部屋は温かい空気に包まれる。しかし、急にロスが真剣な表情で問いかけてきた。


「ただねぇ。あちらさんはそう考えていないかもしれないみたいでさ。シーナ嬢を連れ戻そうとしているんじゃないかって噂があるんだよね」

「……連れ戻す?」


 追い出したのはイーディオである。それが何故シーナを連れ戻そうとしているのかがわからない。首を傾げていると、ロスは肩をすくめた。


「今、ヴェローロでは薬の品質の低下が問題になっているらしい」

「薬の質? ……でも……! あ……」


 シーナは声を上げたが、思い出したのだ。良質な薬を作る事のできるマグノリアは、現在家を追放されているという事に。


「エリュアール侯爵家お抱えの薬師たちの退職が相次いでいる、と報告書にはあったね」


 ロスの話によれば、エリュアール侯爵家はマグノリアを追放してから、薬師の退職が多くなったという。しかも辞めていくのは、主力となっていた薬製作部隊の薬師たちだ。言い方を変えれば、下っ端の者ともいう。

 現在薬を作っていた者たちが相次いで退職してしまうために、慌てて侯爵家お抱えの薬師たちが薬を作成しているらしい。だが、どうしても何度も作っている者とたまにしか作らない者ではどうしても質に差がついてしまい、侯爵家は混乱に陥っているとか。


「マグノリアの実力を認めずに、追い出した事で雇われている者達の不信感に繋がったとも言われているね。話によれば、マグノリアがあの屋敷の中で一番調合が上手だと言われていたらしいし」

「そうでしたか」


 彼女は今帝国にいるはずだ。帝国の市井で暮らすある薬師に会いたい、と目を輝かせて言っていた事を思い出す。

 

「シーナさんは今回の薬の件での功労者でもありますので、もしかしたら連れて帰ろうと考えている可能性も否めないかと」

「え、ですが私……今はこちらに籍がありますよね? それでも……?」


 薬師長であるサントスの実家であるロマディコ家。その養子となっているシーナを、普通であれば連れていくなんて事はないはずだが……。


「あの男は自分の願いを叶えるためなら、常識はずれの事を行うからね。当日はリベルトもいるけれど、シーナ嬢も気をつけてもらえると助かる」

「分かりました」


 シーナは神妙に頷いた。

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