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16、薬師の弟子は、勘違いに気づかない

「……え?」


 間抜けな声だな、とリベルトは思った。自分がまさかこのような声を出すとは彼も思っていなかった事だろう。


「私、パートナーとして歩くのなら、リベルト様にお願いしたいのです」


 頬を真っ赤にしてそう告げるシーナは可愛らしいな、そうリベルトは思った。

 きっと緊張もしているのだろう、と。


「ああ、私で良ければ喜んで。だが、侯爵家は大丈夫なのだろうか?」


 もしかしたら侯爵家では、サントスと一緒に社交パーティへと参加すると決めているのではないか、とリベルトは心配になったが――。


「侯爵夫人にお聞きしたところ、リベルト様であれば問題ないと仰って下さったので……」


 シーナが教えてくれた。

 夫人が「良い」と言うなら問題なさそうだ、とリベルトは考える。


 嬉しさで頬がにやけそうになるのをリベルトは引き締めた。


「では、練習として……今、私にエスコートをさせていただけますか?」


 普段の表情とはどんな表情だっただろうか、と思うほど……リベルトの口角が下がっていく。

 この状況に自分が慣れておかなくては、と彼は考えた上で、シーナに訊ねた言葉だったが……いざ差し出した手に彼女が触れると、緊張してしまう。


 普段のように冷静を装い、リベルトは微笑む。

 だから、彼は気が付かなかったのだ。彼の表情をシーナが頬を軽く染めて見ていた事に。


 

 「待たせた」

 「隊長、シーナさん! お疲れ様……です……?」


 いつもの部屋に入ると、入り口付近にいたアントネッラが声を上げたのだが……途中から失速する。


 彼女は口をあんぐりと開けてこちらを見ていた。何か可笑しい事でもあるのだろうか、とシーナが首を捻っていると、アントネッラの様子に気がついたリベルト隊の皆が、不思議そうな顔でこちらを見ている。

 そして全員が一様に目を丸くしていた。


「どうした?」


 その光景にリベルトも訝しがったらしく、全員の顔を見回しながら訊ねる。すると、エリヒオがニコニコと手を叩いてこちらにやってくるではないか。


「いえ、お二人の様子を見る限り……何かしらの進展があったのかと思いまして。皆、驚いていただけだと思いますよ?」


 その言葉で気がついた。私たちは今、腕を組んでいたことに。

 リベルトもシーナもその事を思い出し、顔が真っ赤になる。そして思わず手を離した。その様子を楽しそうに観察するエリヒオ。

 

「おやおや、別に気にしませんよ。むしろシーナさんが隊長と仲良くしてくださるのは、大歓迎ですよ」

「ああ、こんなに面白――いや、嬉しい事はないなぁ!」

「これでまた山の調査も楽しくできそうっすね!」

 

 皆口々に喜びの言葉を言い合っている。半分は面白そうな表情で見ている気がするけれど、まあ、いいかとリベルトは思った。

 面白がっていても、リベルトを祝っている気持ちが皆にあるのは明白だからだ。まあ、少々からかいすぎている気もするので、後で訓練を厳しくしておこうと思うが。


 隣ではアントネッラとシーナが二人で色々話していたのだが、何かを思いついたのかシーナがリベルトを見た。

 その表情は普段と一緒のように見える。


「そう言えばリベルト様! 虫除けの薬もお持ちしました!」


 そう言って満面の笑みで取り出すシーナに、一瞬リベルトは怯んだ。その様子に目ざとく気がついたエリヒオは、「おや?」という表情を見せる。

 

 虫除けの薬はまだ在庫があるはず、と彼は思った。

 何を隠そう、必需品の管理をしているのはエリヒオなのだ。


 そう考えて、リベルトとシーナの話が噛み合っていなかったのではないか、という事に気がついた。エリヒオは笑って告げる。

 

「残念ですが、隊長の話す『悪い虫()』にはその薬が効かないと思いますよ?」

「えっ! そんなすごい虫がいるんですね! 私、もっと強力な虫除け作りますね!」

「ええ、期待しております」

 

 悪い虫の本当の意味を知ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。


「いやぁ、楽しみですね」

「エリヒオ様? どうしました?」

「ああ、失礼。独り言ですよ」


 エリヒオは面白そうに微笑んだ。

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