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15、薬師の弟子は、お願いする

 ドレスを試着した翌日。

 シーナは朝、ラペッサから声をかけられる。


「ねえ、シーナ。社交パーティが終わったら、また山の調査をお願いしたいの」

「調査ですか?」

「ええ。今度は北側ね。ファルティア王国の下あたりにある山の調査をお願いしたいの」


 最初にリベルト隊の依頼を受けた時は南側、王宮薬師となった後に調査したルアノ村は東側だ。現在その二ヶ所では山に生息している薬草が、村でも育てられるかという実験が行われているらしい。特産が少なかった村にとって、貨幣を得る生命線となりうるかもしれないという期待が込められている。

 今回の調査もその一環だと言う。


「そう。でね……今回早く伝えた理由は、パーティの直前だと忙しくなるから、その前にリベルトたちと打ち合わせだけでもお願いしたいなって思って」


 リベルトの言葉に小さく肩が跳ねる。いけない、返事をしなければ。

 

「そうなのですね……分かりました! いつ打ち合わせになりそうですか?」

「聞いたら、今日の昼以降だったら時間が開くらしいのよ。その時間、シーナは空いているかしら?」


 新たに支給してもらった予定を記入している手帳を開き、シーナは確認する。

 

「……あ、午前中にソラナ殿下(王太子妃)より依頼を受けている薬を作成して届ける予定が入っているので、もしかしたら……」

「分かったわ。先方にはそう伝えておくわね」

「お願いします」


 手を振って去っていくラペッサを見送ったシーナは、ほっと胸を撫で下ろした。少し緊張していたらしい。胸に手を当てて深呼吸をしていると


「あ、シーナさーん! ちょっと教えて欲しいのだけどー!」

 

 後ろからカリナの声が聞こえる。シーナは頬を軽く両手で叩いて、彼女の元へ向かった。



 

 ソラナへの薬の配達も無事午前中に終わり、シーナは薬師室の共有スペースで軽食をとっていた。この後のことを思うと食事のスピードも少し遅くなってしまう。

 人生でこんなに緊張した事、初めてかもしれない……そう彼女は思った。


 食事が終わった頃、薬師室の扉がノックされる。リベルトが迎えにきてくれたらしい。シーナは返事をした後、すぐに扉を開ける。


「こんにちは、リベルト様」


 緊張しないで言えただろうか? うまく笑えているだろうか? 緊張で頬が強張っているような気がする。幸い彼はシーナの不自然な挙動に気がつかなかったらしい。申し訳なさそうな表情でシーナを見つめていた。


「急な事ですまない。この後大丈夫だろうか?」

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」


 そう頭を下げると、リベルトは優しい表情でシーナに微笑んでいた。


「こちらこそ、よろしく頼む。では、行こうか」


 手を差し出され、シーナはドギマギしながら彼の手に触れた。そして唾を飲み込んで気合を入れ直す。


「行きましょう!」


 二人は連れ立って歩いていった。


 しばらくして、人気のない場所に訪れる。そこはリベルト隊の会議室がある別棟に繋がっている廊下であるため、関係のない者でここに来る人はほぼいないのだとか。

 ふと廊下の外を見ると、青々とした木々が風に揺れてサラサラと音が鳴っている。自然に目を奪われていると、どうやら足も止めてしまっていたらしい。リベルトに声をかけられた。


「どうした?」

「あ、いえ。綺麗だなって思って……」


 緊張していた身体を少しだけほぐしてくれたのか、無意識に笑っていたようだ。


「……良かった」

「え?」


 リベルトの言葉に首を傾げる。


「いや、先程までいつもと違う雰囲気だったから、心配していたのだが。もう大丈夫なようだな」


 彼は気がついていて、そっとしてくれていたらしい。シーナは恥ずかしさも相まって、慌てて声を上げた。


「だ、大丈夫ですよ! むしろ心配かけてすみませんでした……あの!」


 シーナはここで言おうと決意を固める。

 

「……どうした?」


 彼女の雰囲気が変わった事にリベルトは気づく。もしかして、以前お願いした虫の薬ができたのだろうか――そう思ったリベルト。

 だから、心の準備ができていなかったのだ。


「お披露目の時のパートナーになってください!」

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