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11、薬師の弟子は、養父の目の前で倒れる

 サントスと馬車に乗り、ロマディコ侯爵家にたどり着いたシーナ。彼に手を差し出されて最初は首を傾げるが、エスコートだと気づき右手を乗せる。そして馬車から一歩降りると、そこには彼女の背の何倍もある扉が立っていた。

 どうやら馬車で屋敷の前までたどり着いたらしい。この家の中に入るのか、とドギマギしていた彼女だったが、目の前に現れた執事は扉ではなく左手の庭に案内するようだ。

 執事と侍女の後について歩いていくサントスとシーナ。転ばないよう一歩一歩地面を踏みしめて歩いていると、目の前にガゼボが現れた。よく見ると、そこに何人か待機しているようだ。


 近づいていくと、皆がこちらを向いている事が分かり、シーナはさらに緊張する。前にいるサントスはそんな彼女の様子に気づく事なく、家族に話かけた。


「お待たせしましたか?」

「いいえ〜! もう少しゆっくり来ても良かったのよ?」

「そうだな、久し振りにのんびりとできたからなぁ……ありがたい事よ」


 サントスの母親である侯爵夫人はにっこりと微笑んでいる。侯爵についても、久し振りの休暇なのかのんびりとくつろいでいた。

 

「さて、後ろにいるのが例のお嬢さんだね」


 侯爵の言葉にシーナは固くなる。


「おや、そんな緊張しなくて良いのに。とって食べはしないからね」

「父上……」


 頭を押さえるサントスに笑う侯爵。どうしたら良いか分からず固まったままでいると、夫人がサントスへと声を掛けてきた。


「ほら、サントス。シーナ()()()を困らせているじゃない。早く私たちに紹介して頂戴」


 そう言われたサントスは、ひとつため息をついた後、シーナへと身体を向けた。


「彼女が侯爵家の養女となるシーナ嬢です。薬に精通し、薬師室の主力として働いております」


 シーナは緊張しながらカーテシーを取る。そのため、サントスの言葉は頭に入っていない。もし彼の言葉を聞いていれば、彼女は「そんな事ない」と告げていただろう。

 ガチガチに緊張している彼女は、いつ頭を上げれば良いのかと疑問に思った。緊張から周囲の言葉が耳に入ってこない事に気づく。どうしようかと、頭を下げたままになっていると、急に何か温かいものに包まれたような気がした。

 ふと上を向くと、そこにいたのは侯爵夫人だった。シーナは彼女に抱きしめられていた。


「え、ええ?!」


 混乱する頭で、何故自分が侯爵夫人に抱きしめられているのかを考える。けれどもこうなった理由は思い浮かばない。

 一人でワタワタしていると、サントスが声をかけてきた。


「母上、シーナ嬢が混乱しています」

「えー! だって、こーんな可愛い子がうちの子になるのよー! 抱きしめたって良いじゃない! ね、シーナちゃん」

「あ、義母様ズルいですわ! 私も〜」

 

 もう一人の女性が反対側から抱きしめてくる。そしてシーナの頭を撫で回していた。


「有能で可愛いなんて最高の義妹よ!」


 その言葉を最後に、シーナの記憶はない。


 目が覚めると見知らぬ天井が見えた。

 シーナは上半身を起こし、周囲を見渡す。どうやら寝ていたようだ。

 彼女は直前の記憶を思い出す。


「確か、侯爵家に来てめん……!!!」


 今日は顔合わせである。ここで寝ているという事は、シーナは倒れたのだ。

 顔から血の気が引いていく。顔合わせになんという粗相を……と震えていると、そこに現れたのはサントスだった。


「シーナ嬢、大丈夫でしょうか?」

「あ、室長……」


 大丈夫です、と言いたいところだが、彼女は粗相をした身。何が起こるか分からないと顔を真っ青にしている。

 少々震えている彼女の様子から、なんとなく心中を察した彼は、頭を掻く。


「大丈夫です。あなたが思っているような事にはならないと思いますよ?」

「いえ、ですが私は粗相を……」


 そう言いかけた彼女の元に現れたのは、侯爵夫人と先程抱きついてきた女性だった。二人は心配そうな表情でこちらに近寄ってくる。再度サントスにシーナは視線を送るが、彼は「大丈夫です」としか言わない。シーナは「申し訳ございませんでした」と告げて、頭を下げた。すると――。


「謝罪なんて良いのよ! それよりもシーナちゃん、身体は大丈夫?」

「義母様の仰る通りよ! 私たちも無理させてしまってごめんなさい、シーナさん」

 

 思った言葉と違う言葉が相手から出て、目をぱちくりさせるシーナ。サントスを見ると、「だから言っただろう」と言わんばかりの表情だった。そんなシーナとサントスの様子を気にする事なく、女性二人の話は進んでいく。


「義母様! 顔合わせはまた改めていたしません? シーナさんの様子も心配ですし」


 いつの間にか顔合わせが延びようとしていた。シーナは思わず声を上げる。


「いえいえいえ! 私のために皆様の時間を使うなんて、そんな……!」

「たまには良いじゃない! 旦那様も息子も外交官としてこき使われているんだから、もう少し休みがあっても良いと思うの」

「シーナさんの顔合わせという大義名分があれば、夫も休ませる事ができますわ! さすが義母様です!」


 二人の話が結論へと達しそうになったその時、彼女たちの話を止めたのは侯爵だった。


「流石にシーナさんもサントスも、忙しいだろう。今や薬師室は噂の中心だからね」

「あなた!」

「義父様!」


 侯爵の後ろには先程ガゼボにいた男性もおり、二人とも部屋へと入ってきた。


「シーナさんにはここで自己紹介をして、顔合わせという事にしようか」

「それが良いと思います、父上。シーナさんもお忙しい中来ていただいていますからね。それに母上、ミリィ。ここからはきちんと休みを取りますから、落ち着いて下さい」

「まあ、あなたがそう言うなら、今回は信じるわ」


 ミリィと呼ばれた女性は彼の言葉で納得したらしい。シーナに近づいていた夫人と彼女は、使用人が持ってきた椅子へと座る。

 

「さて、改めて紹介しよう」

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