幕間 リベルト
本日2話目です。
1話目からお読みください。
――どうしてこうなった?
リベルトは困惑していた。
気がつけばシーナの部屋で、何故か向かい合って食事をとっていたのだ。
彼は何故こうなったのかを思い出す……。
シーナと街へ戻った後、リベルトは彼女に告げたようにロスへの報告書を書いていた。一時間ほどで書き終え、見直すだけとなった頃。ふと外を見ると陽が完全に落ち、空には星が輝いていた。よくよく耳を澄ませれば、仕事終わりの者たちの喧騒がうっすらと聞こえる。
シーナもリベルトも、今泊まっている宿は食事をつけていない。そのため食事にありつくためには、一階の食堂で注文するか、外で購入して食べるかのどちらかだ。彼が一階へと降りると今が一番混雑する時間らしく、満席な上……外には待っている者もいるようだ。席が空くのにも時間がかかりそうな雰囲気だった。
そのため彼は一階で食べる事を諦め、外で軽食のサンウィッチや他にもいくつか購入して戻ってきたわけである。
ちなみに食堂ではなく購入を選択したのは、シーナの事もあった。
彼女は薬草の整理に夢中だろうな、とその時リベルトは判断したのだ。昼食の時に話を聞いたが、今回ラビアータ以外に採取した薬草は最低限の物に絞ったらしい。そのため、シーナにとって重要度が高い薬草ばかりだ。
彼女にとって大切な薬草、それを宿について彼女が整理しないわけがない。まあ、彼女なら整理はすぐ終わるとしても、薬草を眺めているだけで一時間は悠に使う可能性だってある。三度の飯より薬草な好きな彼女のことだ。きっと食事をとっていないだろう、と判断してリベルトはサンウィッチを購入した。
リベルトはシーナの邪魔をするつもりなど毛頭なかった。
ただ明日も朝早く王都へと向かう予定だったので、食事と睡眠だけは取って欲しいと思っただけ。睡眠は一言告げるだけしかできないが……サンウィッチは片手で食べる事ができるので、持っていけば食べてくれるだろうと思ったからだ。
そう考えシーナへと購入した物を持って行ったのだが……。
「え! それは申し訳ないので……自分で買いに行きます!」
と言われてしまう。その後の話を聞くに、ヴェローロで薬屋を切り盛りしていたからだろうか、お金の事については厳しいらしい。だが、リベルトとしては自分の購入したサンウィッチを食べて欲しい理由というのもあった。
「もう露店は閉店しているのではないか? 陽が沈んでだいぶ経つ。開店しているのは食堂だろうが……非常に繁盛していて食事にありつくのにも時間がかかる可能性は高い」
「あ……」
シーナはそれを聞いて、窓へと視線を送る。窓の景色とたまに聞こえる一階からの喧騒を耳にしたのか、ありがたくサンウィッチを受け取る事にしたようだ。
「お金を――」
「いや、要らない。自分の食事のついでに購入しただけだ。高い物でもないし、食べてくれるだけで俺は嬉しい」
「ですが……」
「なら何かあった時に薬を作ってくれるか?」
そう告げると、シーナは少し考え事をした後に「わかりました」と話す。これで用事は終わったと思ったリベルトは、「それじゃあ」と彼女に背を向けようとしたのだが、その前にシーナが声を上げる。
「ありがとうございます……、そのお礼と言っては何ですが、一緒に食べませんか? せめてお茶を淹れさせてください」
その後なんと言ったか、リベルトは覚えていない。気づけば、目の前にシーナがいてお茶を淹れていたのだから。
リベルトは感謝を述べた後、目の前に出されたお茶を一口飲む。心を落ち着かせる必要があると思ったからだ。一口飲んでから首を傾げる。あまり飲んだ事のないお茶だったからだ。
「このお茶はどこの物だろうか?」
「帝国の北側にある村で作られているお茶だそうです。師匠がこの間来た時にお土産として私にくれたのですが……他のお茶と比べて食事と合うので、一緒に飲めればなぁと思いまして」
そう言ってにっこりと笑うシーナに、リベルトは胸が高鳴る。一緒に飲むとは、食事を摂る時に飲みたいという意味なのだろうが……自分と共に飲みたいという意味にも聞こえてしまう。
リベルトは思わず頬を染めるが幸い部屋の明かりは薄暗いため、シーナには見えていない。楽しそうにお茶を飲むシーナにリベルトは少しどもりながら尋ねた。
「師匠……マシア様から貰ったお茶だろう? 私が飲んでいいのか?」
「勿論です! 丁度リベルト様にも飲んでもらいたいなぁ、と思っていたんですよ」
「えっ……」と期待を込めた瞳でシーナを見てしまうリベルト。そんな彼の様子に気づかないシーナは話を続ける。
「今日サンウィッチを食べていた時、『口の中が脂だらけだ』と言われていましたから、このお茶ならさっぱりするのではないかと思いまして! いかがですか?」
「……確かにこれなら口の中に残る脂物も流せそうだ」
「ですよね! 良かったぁ〜!」
彼の言葉に喜ぶシーナ。そしてお茶を紹介されただけだと気づいたリベルト。「まあ、そんなもんか……」と少し嘆きながら黙々と食べるリベルト。彼の気づかないところで、シーナは一瞥した。
「またこうやって一緒に食べられるといいなぁ……」
その言葉はリベルトに届く事はなかった。二人はお茶とサンウィッチを食べながら、薬草の話について盛り上がったのだった。