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3、薬師の弟子は、守られる

「貴方、テランスと言ったかしら? それはどういう事かしら?」


 ラペッサは眉間に皺を寄せ、手に持っていた扇子で口元を隠しながらシーナに聞こえないよう話しかけた。


「申し訳ございません、私もよく知らないのですが……」


 どうやらテランスは伝言だけお願いされたらしい。テランスが困惑し、ラペッサが眉間に皺を寄せている姿を見て、ネーツィが二人の元にやって来た。


「そうでした、こちらをお渡ししていただけるでしょうか? 内密にお願いいたしますね」


 そう人差し指を口元に立てるネーツィを見て、ラペッサは手渡された手紙を裏返す。するとそこに押されていた封蝋は、見覚えのあるものだ。なるほど、色々と事情があるらしい。

 ネーツィはニコニコと微笑んでいたが、ラペッサの側へと近づいてきて囁いた。テランスはその様子を見て、後退りをする。なんとなく嫌な予感がしたのだ。既にマグノリアという侯爵令嬢と関わっているのに、これ以上厄介ごとを増やしたくない……それが彼の本音である。


「私が入手した情報で恐縮ですが……今回の件でイーディオ殿下は王位継承権を白紙にされたそうです。それが関わっている可能性もありますね。何にしろ、こちらを見ていただければ、問題ないかと」

「こちらは責任を持って私が預かりますわ。で、ひとつ気になるのですが……何故彼がそのような伝言を受け取っているのかしら?」

「こちらの予想でよろしいでしょうか? 念には念を押しただけかと。テランスさんの上にはある方が関わっておりますから」

「そう、分かったわ。ありがとう」


 そう告げた後、ラペッサは離れて話していたシーナとマグノリアに声をかけた。


「二人とも、よければここで話していて良いわよ。テランス、貴方もね。ちょっと私は出掛けてくるわ。セベロそこにいるのでしょう? トニョとカリナも呼んできなさい。貴方たちもリアさんとテランスさんの話を聞くと良いわ。勉強になるでしょうから」


 扉が少しだけ開いている事に気づいていたラペッサはセベロに声をかける。彼はバツが悪そうな表情で扉を開けた。

 

「覗き見をして申し訳ございませんでした」

「良いのよ。中の声が聞こえて気になったのでしょう? まあ、お行儀は悪いから次からは止めなさい」


 実際ラペッサが見ていた限り、セベロはネーツィとの話が終わった後から覗いていただけだ。怒る理由もない。が、貴族としてはあまり褒められたものではないのも確かである。


「ちょっと私はサントスに声をかけて出てくるわ。皆は薬師室にいて頂戴……まあ、用事があれば出ても構わないから、そこは臨機応変に。他の皆にも伝えておいてもらえるかしら?」

「はい!」


 セベロの敬礼を見て、ラペッサはニコッと微笑む。そして彼女はネーツィとマグノリアに声をかけた後、サントスを連れて部屋を去っていった。


 **

 

 ナッツィア国王陛下宛の手紙はすぐに彼の手に渡り、ロスの父である陛下が手紙に視線を送る。そして読み終えた、と思ったら右手を目に当てて大笑いし始めたのだ。周囲は目をまん丸くしていたが、次に手紙を読んでいる宰相も笑いを堪えている。何がそんなに面白いのだろうか、と首を捻った侍従たち。その様子に気がついた陛下が笑いながら告げた。


「いやー、面白い事になりそうだな、これは!」

「ええ。まさかヴェローロの子獅子(こじし)が猪だとは思いませんでしたね」

「あの、手紙にはなんと……?」


 一人が手を挙げて訊ねると、陛下は済まん、済まんと笑いながら告げた。


「最近我が国の王宮薬師になった娘がいるのは、知っているな?」

「はい。確かベルナルド伯爵令息が登用して、調査を大成功に収めたという……」

「そうだ、彼女だ。彼女は元々マシア殿の弟子であり、ここ五年以上は一人でヴェローロ王宮の半数以上の薬を作り続けていた娘だ。そしてイーディオ殿下によって数ヶ月前に追放された、な」

「そうですね。我が国に来て、試験を受けてくれたのは本当に幸運でしたと話していましたが……それが何か?」


 シーナとヴェローロ王国からの手紙が結びつかず首を傾げるが、それを聞いていた一人が「まさか」と声を上げた。


「もしかして、彼女を返せ、という世迷言(よまごいごと)ではありませんよね? 流石にそこまで厚顔無恥ではないと思いたいのですが……」

「ははは! 厚顔無恥! 確かにピッタリの言葉かもしれん。なぁ、宰相!」

「ええ、その通りで」


 陛下と宰相以外の者たちは唖然とするが、一人だけ考え込んでいる者がいた。そしてその者が手を挙げて発言の許可を得る。


「もしかして……ヴェローロの国王陛下ではなく、第一王子がそのシーナさん、という方を取り戻しにくるという事ではありませんか?」

「ああ、その通りだ。自分で追放したにもかかわらず、彼女を取り戻せば全てが元に戻るとでも思っているらしい」

「なんと浅はかな……」


 目をぱちくりさせている者が多い中、陛下は上機嫌である。

 

「ははは! あちらも面白い事を考えよる! 宰相、この話に乗ってやろう! 楽しそうじゃないか!」

「そう仰ると思いました。では、この件は――」

「いや待て、ロスに全権を与える。この件はあやつに任せよう」

「ロス殿下でございますか? よろしいと思います」

「よし! では、ロスを呼べ!」


 彼は上機嫌で楽しそうに指示をする。その様子を見た宰相は、ひとつため息をついた。

 

 **

 

「……というわけだ」


 薬師室からはラペッサとサントス、そしてロスの側近であるリベルト、マルコス、ダビドが集まり顔を突き合わせていた。そして先程国王陛下より全権を委任されたロスは、苦笑いでことの顛末を伝えていたのである。


「はあー、思考がお花畑なやつだな、とは思っていたけれど……どうしたらそんな思考になるわけ? 子獅子じゃなくて、単なる馬鹿じゃん」

「ダビド、言葉遣いが悪いですよ……と言いたいところですが、私も今回は同意します」

「わぁ、マルコスが同意するなんて珍しいねぇ」

「ダビドの言う通りだ。どうしたらそんな思考の王太子が出来上がるのか、私も知りたい」

「あれ〜? サントスも珍しく言葉が荒いじゃん」


 サントスとダビドは実は幼馴染である。サントスは常に顰めっ面であるが怒っているわけではない。だが、ここにいるサントスは明らかに憤怒していた。ここまで他人の事で憤慨している彼をダビドが見たのは、初めてだった。

 

「当然だ。ラペッサ様に次いで我が薬師室の主軸だからな。むしろ薬を作る事に関しては、私よりも経験がある。今更手放すことはできない」

「……ほ〜ぅ」

 

 新たな玩具を見つけたと言わんばかりに笑みを湛えるダビド。彼は一度ちらりとリベルトを見てから、サントスを見る。二人とも同じように眉間に皺を寄せており、ダビドは「これは面白い事になったかも〜」と小声で呟いた。

 そんな彼を他所に、ロスは告げた。


「現状、その馬鹿な事をやらかそうとしているのがイーディオだ。ヴェローロの国王陛下はもう既に彼を見切っているのかもしれないな」

「確かに、そんな事をすれば『私は何も考えられない馬鹿です』と自分で言っているようなものですからね」

「マルコス、結構辛辣だねぇ……」


 ダビドは口の悪いマルコスに少々引き気味だ。それを気にする事なく、マルコスは話を続ける。

 

「私たちに話が来ている、という事は……ヴェローロの国王陛下は、イーディオ殿下が高い確率で行動に移すと考えているのでしょう……あの殿下の事です。シーナさんを力づくで……って、リベルト、貴方大丈夫ですか?」

「わぁ……リベルト、ガチで怒ってるぅ……」


 先程から無言を貫いていたリベルトだったが、マルコスの言葉に怒りが治らないようだ。その様子を見たラペッサがふふ、と笑った。


「リベルト、シーナの事を心配してくれてありがとう。きっと貴方の力を借りる時もあると思うの。その時は力を貸してほしいわ!」

「承知しました。私の力になれる事であれば、全力で遂行します」


 そうラペッサが告げると、リベルトは彼女に頭を下げた。彼女はふふふ、と笑ってロスへと向き直る。


「それで、ロスはどう考えているのかしら?」

「それなのだが……」


 全員がロスの次の言葉を待った。

 いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

本日、『追放された巫女姫は、竜人に溺愛される』と言う作品も投稿しております。

よろしければそちらもご覧ください!

(上記の作品は、ネオページ様で公開しているものの転載となります)

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