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16、薬師の弟子と、対決の結果

本日は二話投稿しているため、15話からお読みください。

 シーナは手渡された紙を見る。するとそこには見知った薬草が書かれていた。


「ティーロバ、ランシア、ユーカリア、マキノ、バーデン……え、バーデン? バーデンってあの珍しいって噂のですか……?!」


 慌てて机に置かれた原料を見るシーナ。何度もバーデンを手の上でくるくると回し、観察しているその顔は頬が紅潮し、いまにも涎が垂れそうな……少々だらしない表情だ。薬師室見学三人は、彼女の顔に少々引き気味だ。

 マシアとリベルトは慣れたもので、「そうなるよね」という表情でシーナを見ていた。一方、隣では黙々とサントスが材料を選んでいる。


「リーネ……そしてフィーシャまで……やっぱり薬草を見るのは楽しいなぁ……」


 ぶつぶつと呟きながらシーナは楽しそうに原料を選ぶ。そしてひと足先に選び終えていたサントスが、「失礼」とラペッサに声をかけた。


「ラペッサ様、このレシピは不完全なものではありませんか? 所々記載されていないのですが」

「ええ。それを考えて作るのが二人への課題ですわ」

「……承知しました」


 シーナはその話を聞いて、持っていたバーデンをテーブルへと置き、紙を見る。

 書かれていないのは、材料の粉砕の仕方と煮込む際の注意事項についてだろう。そこに何かが書かれていた事が分かるように、四角で囲まれていたからだ。薬の質は粉砕と煮込みにかかっていると言っても過言ではない。シーナは今までの知識を総動員しつつ、材料を手に取り考え始めた。


「マキノは根と茎を利用していて、これは茎だから……」

 

 呟きながら自分の手帳にメモを残していく。シーナは原料が置かれている場所と自分の道具がある場所を何度か行き来した後、材料を刻み始めた。その様子を見ているマシアとラペッサは、表情を変える事なく微笑んでいる。

 その一方で、首を捻っているのは見学組だった。


「あ……室長はもう粉砕が終わったみたいだね」

「手際の良さが俺たちと違いすぎるな」

「私もあんな風になれるといいなぁ〜。あ、シーナさんはバーデンの粉砕に取り掛かるみたいね!」

「シーナさんも手際がいいよなぁ……あのバーデンって薬草、結構硬そうに見えるけど、すんなりと刃が入ったな。もしかして俺でもあんな感じでできるんじゃないか?」

「お兄様も刃を入れるくらいならできるでしょ。でもシーナさん達と同じような質の薬が作れるかと言ったら……ねぇ?」


 カリナの言葉にトニョは無言である。残念ながらそういう事だ。


「あー、まあそうだよな」


 兄であるセベロの言葉に、妹のカリナが突っ込み、トニョは無言で返すという実況中継をしながら、三人は二人の薬作りを見ていたのであった。


 


 しばらくしてサントスは粉砕した材料を窯へと入れ、煮込み始めていた。強火で水をすぐに沸騰させた彼は、一旦休憩も兼ねて飲料用に置いておいた水を口に含む。乾いた喉にすんなりと入っていく水は、身体を潤してくれた。

 そんな中、サントスはふと右奥で薬を作成しているシーナを見る。彼女のテーブルの上は、サントスのそれと違い非常に物が多い。見ると奥側には釜が四つも置かれている。先程見学組の三人がラペッサの指示で動いていたのを思い出したが、どうやら彼女のテーブルに置くよう指示されていたらしい。何故四つも必要なのかと疑問に思っているのか、首を傾げるサントス。だがその後すぐに彼女の呟いた言葉が耳に入り、彼は目を見開いた。


「これは茎、ここは根……こっちは弱火、こっちは強火……」


 そう、シーナは作るからにはより良いものを作りたいと考えたのだ。そのため、四パターンもの薬を作成するために釜を貸して欲しいとラペッサに依頼していたのである。先ほどから手帳に書いていたメモは、その結果を忘れないようにするためのものだったようだ。彼女は効能が高いと考えられる組み合わせを全て作成する事で、どの方法が一番効能の高い薬になるかを把握しようとしたのである。

 それに気づいたサントスは呆然とした。()()()()だと考えていた自分が恥ずかしい。

 勿論、サントスも今までの知識を総動員した上で、今作成している方法が一番良いのではないかと判断したのは間違いない。だが、それは本当に効能が高いのかなど確実ではないのだ。シーナは全て作る事で、より効能の高い薬を作ろうとしているのである。


 シーナの探究心、そして薬に対する情熱……それを目の当たりにした彼は、彼女への態度を恥じた。と同時に尊敬の念を抱いた。彼女こそが王宮薬師としてのあり方を示していると。

 彼は自分の薬を作りながらも、シーナの様子を観察し続けた。まだまだ手帳に何かを書きつけているシーナ。眉間に皺を寄せていた彼女が、次の瞬間には花が開いたように笑ったり……彼女のコロコロと変わる表情に目を奪われる。


 サントスは既に敗北を感じ取っていた。例えサントスの作成方法が一番効能の高い薬だったとしても……薬師の在り方としての格が違う。それを見せつけられた彼だったが、嫉妬に煽られるどころか意外にも心は凪いでいく。

 そして二人の薬が完成した頃にはサントスが、口角を上げて微笑んでいたのであった。

 

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