表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/98

14、薬師の弟子は、薬師長に敵視される

 サントスはヴェローロの王宮へと薬を納入していたマシアの弟子が、追い出されたという話は風の噂で知っていた。だが、詳細な話は知らない。彼は無能な薬師が追い出されただけだろうと思っていたし、マシアの弟子としてみっともないと思っていた。自分が彼女の弟子であれば、もっと上手くやれただろう。

 その弟子がまさかのシーナだったと聞いて、何故そんな娘が王宮薬師になれたのかと苛立ったのだ。


 「どういう事だ? サントス殿」


 サントスの悪意のある言葉に苛立ったリベルトが彼を睨みつけた。

 彼としてはシーナを追放したイーディオ(ヴェローロの王太子)が元凶であり、それに巻き込まれたという認識だ。だが、彼女が追放されて一番助かったのはリベルト隊でもある。リベルト含め彼女を信望している隊員がここにいれば、全員サントスを睨みつけていただろう。一番の圧はリベルトだろうが。

 一方マシアとマルコスはサントスの言葉に動じる事もなく、微笑みを絶やさない。むしろマシアに至っては、「面白い事が始まりそうだねぇ」と言わんばかりの表情である。

 そして最後にシーナはサントスの言葉に同意するように頷いた。彼女としてもそこは気になっていたところではある。


「言った通りだ。向こうから追い出されたのに、何故そんな者が王宮薬師になれたのか、分からん。不正でもしたのか?」


 追い出される者に知識があるとは思わない、そう凝り固まった思考だったサントスは思わず「不正」という言葉が口をついていた。リベルトがその言葉に真っ赤になり、反論しようとしたその時だった。


「サントス、口を慎みなさい」


 テーブルを叩く音と同時に強い口調で言葉を遮ったのは、ラペッサだ。彼女は眉間に皺を寄せ、サントスを睨んでいる。


「あの試験に不正があった、とどの口が言うのですか? 不正がなかった事は貴方が一番分かっているはずでしょう?」


 それはそうだ。サントスも試験監督として関わっていたのだから。

 

「……申し訳ございません」

「貴方がシーナさんを敵視するのは別に構いませんが、試験結果にまで難癖をつけないでほしいわ。もう少し冷静さを身につけないと、王侯貴族たちに良いように使われるわよ?」


 一触即発な雰囲気になってしまう。だが、その空気を破ったのはシーナだった。


「不正は、してませんと言って信じてもらうしかありませんが……王宮薬師の資格については薬師長の仰る通りだと思うんです。私は一度追い出されてますから、そう思われるのも仕方ないですよね」


 まさかのシーナ本人からサントスの援護が来てしまい、サントス本人は困惑している。同意しているシーナに話しかけたのはリベルトだった。

 

「だが、君は嵌められたんだろう?」

「うーん、どうなんでしょう? マグノリア様と王太子様から言われたのは、私の薬がマグノリア様のものより品質が悪いと言われて追放されたので……マグノリア様の方がすごかったのかなと思ってます」


 彼女の言葉にマシアが考え込む。

 

「その薬の品質は確認したのかい?」

「いえ、ただそう言われて契約書を破られました」

「マグノリア様、と言うのはもしかしてエリュアール侯爵家の令嬢の事か?」


 サントスがそう尋ねると、それに答えたのはマシアだった。


「ああ、そうさ。()()侯爵家の長女さまの家は私を嫌っていたからねぇ……」


 肩を竦めるマシアに、シーナは告げる。


「本当にあの時は『追放』と言われて驚いたので何も聞けませんでしたが……今思えば、どうやって薬を作ったのか根掘り葉掘り聞けば良かったです。本当にそれだけが心残りです……」


 そう寂しそうにするシーナに周囲は唖然とする。ここでも薬の事しか考えていないのか、と思ったのだろう。マシアはその言葉に笑った。

 

「それを聞き出していたら確かにボロは出たかもしれないが……その前に首が切られていたかもしれないさねぇ」

「メレーヌにもそう言われました」

「流石メレーヌ。世話好きのお姉さんだ。本当にあの子にはお世話になったよ」

 

 今までの事を思い出したのかケタケタ笑うマシア。その様子にサントスは呆然としている。彼が見る限り、マシアがあそこまで楽しそうに笑った事はないからだ。

 ひとしきり笑い終えた後、マシアはサントスに視線を送る。


「うちの弟子のシーナの実力を知りたいのなら、薬の品質で比べたらどうだい? 薬師なんだから」

「薬の品質で、ですか?」 

「ああ。ラペッサ殿下と私で二人が作成した事のないであろう薬を指定しようじゃないか。それを作成して品質を比べてみれば良い。そうすれば二人とも公平だろう? シーナは新しい薬が作れる、サントスはシーナの実力が見られる、私は弟子の成長が見られる……一石二鳥じゃないか」


 そう面白そうに告げたマシアを支持したのはラペッサである。


「あら、マシア様、面白い試みですね! どの薬にいたしますか?」


 それが決定事項であるかのように手元にある薬辞典を二人で捲りながら、楽しそうに見る。すでに薬を作成する事は決定らしい。シーナは新たな薬作りができると聞いて、興奮していた。一方で、サントスとリベルトは話の展開の早さについていく事ができず呆然としていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ