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12、薬師の弟子は、報告する

 リベルトに起こされたシーナは薬を完成させた後、エリヒオの持つ毒の有無を鑑定できる魔道具と、彼女の持つ品質を鑑定できる魔道具の鑑定へとかけてみた。勿論、作った二種類共だ。

 シーロの結界を利用した薬も、シーナが本通りに作った薬も大して変わりがない数値であったので、今後もし大量に根を使用する場合にはシーロへとお願いできるかもしれない。数値を手帳へと記しておき、この件は後でラペッサやサントスへと報告する事になるだろう。結界を利用して作成した薬は魔法袋へ入れて持って帰ることにする。

 そして大分和らいではいるがまだ鈍い頭の痛みがあるため、シーナは試しに飲んでみようとしたところ……。


「シーナさん、私も試したい!」

「え、でもこの薬は私が初めて作った薬だよ? ちゃんと効くか分からないし……」

「シーナさんの作った薬だから大丈夫だよ!」

「なら、せめて私が飲んで少し経ってからにしてもらえると嬉しいな。万が一の事があるかも知れないからね」


 そう告げて、まずはシーナが、そしてしばらく経ってからアントネッラが薬を飲む事になった。暫くすると薬の効果が現れたのか、特に頭の痛みが軽減したらしい。二人の顔色が良くなったため、全員で食事をとる事になった。


 そしてその日は早めの休憩をとり、翌日フラビオと合流して数日間周辺の探索を行った。その際、先々にある小屋を休憩所とし、こまめに休憩を取りながら行ったためか、シーナやアントネッラのように不調を訴える者はいなかった。

 シーナとリベルトも探索後に薬草の絵や内容で話し合ってはいたが、リベルトが目を光らせていたのでシーナもしっかりと睡眠を取ったのが良かったのかも知れない。


 こうしてシーナたちは無事下山し、王城へと帰っていった。



 王宮に帰宅した翌日、シーナとリベルトは朝一でロスの執務室へと足を運んでいた。そこにはラペッサもおり、目を輝かせている事から、シーナたちの報告を楽しみにしていた事が窺える。

 今日は珍しくマルコスの姿が見えなかった。なんでも今日、ロスと面会する人がいるらしく、その人を迎えに行っているらしい。改めて報告へ来ようとしたが、また執務室へ来るのも大変だろうと言う事で、そのまま報告することになった。

 基本の報告はリベルトが行い、不足があればシーナが付け加える形で話は続く。図鑑に関してはフラビオから報告されているので、シーナはアルパン病の症状を和らげる薬を作成した事を伝えた。


 初めて作成した薬だと告げると、ラペッサは驚きで目を見開いている。


「シーナさんはアルパン病の薬を作った事が無かったのね」

「はい。ヴェローロではこちらのように標高の高い……いえ、そもそも山がありませんでしたから。薬辞典等で存在は把握していたのですが、作成は後回しにしていたのです」

「そうよね。売れなければ作らないわよね」

「はい。ですがラペッサ様に戴いた本のお陰で問題なく薬を作る事ができました」

「それは良かったわ!」


 ラペッサ曰く、 アルパン病の薬は年に数度要望が出るらしく、現在作成できるのはサントスのみ。あの時は丁度直前まで行われていた魔獣退治で全て材料を使ってしまっていたため、薬草がなかったらしい。


「成程、材料が不足していたと……今まで輸入に頼ってきた弊害だね」

「仕方ありませんわ。次はこうならないようにしていきましょう」

「そうだね。ラペッサの言う通りだ。あと二週間ほどすれば薬草畑も整うだろう。それまでに薬師室内で何を植えるのか、をサントスとラペッサ、シーナ嬢の三人で考えておいて欲しい。それと、結界による原料の裁断、という項目を見つけたのだが……結界で裁断ができるものなのかい?」


 ロスは首を傾げる。


「はい問題なく。こちらは隊員の一人であるシーロによる発案です。結界を格子状に張り、そこへ薬草の根を潜らせると細かく裁断できるという手法です。高度な技法なので、できる者は片手で数えるほどしかいないと思いますが……」


 そう言ってリベルトはチラリとダビドへ視線を送る。


「そうだねぇ。結界を自由自在に操れるのは僕も含めて片手ほどしかいないね〜」

「はい。そのような方たちがいる事前提にはなるのですが……結果として、手で裁断しようが、結界を利用して裁断しようが、品質に変わりない事が判明しました」

「大量に根を利用する薬を裁断する時には使えるかも知れないわね。ただ、これに関しても検証は必要かも知れないわ。ロス、今後この研究も進めていこうと思うから、手が空いている時に派遣してくれると嬉しいわ」

「ああ。時間がある時には協力するよ。この図鑑の件も協力しているわけだし」


 そう告げてロスはヒラヒラとリベルトの描いた薬草絵をラペッサに見せた。

 

「これね! フラビオに聞いたけれど、確かにその土地専用の薬草図鑑があっても良いわよね! 作るのに時間はかかるけれど、今後野生の薬草を入手したい時があれば、地図とその本を渡して依頼すれば良いもの!」

「私もそれに同意です。そのため、分かり易いように番号を振り、絵を大きめに描いてもらっています。大抵の薬草図鑑は草の一部しか載っていないものが大半ですが、基本根まで載せるようにしたいと思いまして」

「良い考えね!」

 

 シーナが書いた説明文を読みながら、ラペッサは必要事項が書かれているか、足りない部分はないかの確認を行いながら話を続ける。


「後は幾つか索引を作りましょう。薬の原料の索引と、名前順があると良いかしら」


 そう呟き、ラペッサはまだ見ぬ自らの手で作った薬草図鑑に想いを馳せているのか黙っている。その様子を見てロスは微笑む。そしてシーナとリベルトへ視線を送った。


「私への報告は以上で問題ない。後はシーナさんからサントスへ報告を頼む……そうだ、リベルトもその件で関わるのなら、行ってやってくれ」

「承知しました」

「ラペッサ、このままサントスに報告するのか? それならリベルトにもそちらを優先してもらおうと思うのだが」

「それはありがたいわ! じゃあ今から薬師室に行くから、リベルトは借りて行くわね」


 そして三人が退室しようとしたところ、執務室の扉からノックの音が聞こえる。声の主はマルコスで、どうやら面会の人をこの執務室に連れてきたらしい。先に退出する前に、マルコスと客人が入ってくる。そして客人の姿が見えた時、シーナは息を呑んだ。

 客人の女性と視線が交わる。そしてシーナは思わず呟いていた。


「師匠……」


 そう、マルコスの後ろから現れたのは彼女の師匠であるマシアであった。

 

 

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