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幕間 リベルト

*後半リベルト視点となります。

「シーロ、貴方はまた結界の腕を上げたようですね」

「あざっす!」

「ああ。この調子で期待している」


 シーナはジオモとランシアの根をすり潰しながら、三人の会話を聞いていた。ジオモの根の後、シーロにはランシアの根も同様に結界で切ってもらう。まるまるひとつ切り刻むよりは時間も短縮されて、有難い。

 結界で切ったものとそうでないものに分けて乳鉢に入れて音を立ててすり混ぜ、その後にケヒとポリポルスを細かく裁断し薬研で粉砕した。


 そして普段と同様に浄化した水と細かくなった薬草を入れ、ゆっくりと混ぜ始めた。今回は量が少ないので、一番小さい釜を使用した。竈門の上にふたつの釜を置き、左側はシーロの結界で裁断したものを、右はシーナが本の通りに裁断したものを入れて、両手を使って棒で混ぜる。

 水が沸騰した頃。シーナは手を止めて煮詰め始めた。


「後は煮込むだけか?」

「はい。少々お時間をいただくと思いますが」


 リベルトが釜を覗き込む。弱火で煮込んでいるからか、泡は細かいものが上がってくるだけだ。この状態を保つのが大事だが、火を弱火にしておけば問題ないとシーナは告げる。

 ふむ、と何かを考えているようなリベルトが、彼女の方へと向いた。

 

「ひとつ聞きたいのだが、目視で煮込み終えたのが分かるものなのか?」

「そうですね……今は薬草の成分が抽出されている時なので水が濁っているように見えますが……もう少しすると水が段々透き通ったように見えてきます。それが一つの目安でしょうか」

「成程、以前もそうだったな。ならシーナさんは休むと良い」

「え? ですが薬の番はしなければ……」


 煮込みすぎて悪影響が及ぶ事はないだろうが、今回は実験の一環でもある。できたら自分の目で確認したい……と思っていたのだが、リベルトは眉間に皺を寄せてシーナを見ている。

 

「もしかして君は顔色が悪い事に気づいていないのか?」

「そうなのですか?」


 そう言って周囲を見回すと、偶然エリヒオと目が合った。彼も「顔色が悪いですよ」と告げた後、少し考えて言う。

 

「シーナさんは研究者によくある興奮状態なのかもしれませんね。初めて作る薬作りに集中していて、身体の痛みや不調に気づかない現象です」

「あ……」


 倒れてメレーヌに助けられたあの時もそんな感じだった事を思い出す。あの時も徹夜明けの眠さはなかった。むしろ寝なくても、何日でも研究ができそうだと思っていたのだ。あれと似たようなものなのだろう。

 一旦深呼吸をする。すると、昂っていた気持ちも落ち着いたのか、忘れていた頭痛に襲われた。痛さに片目を瞑り、額を手で抑える。リベルトはその行動で気づいたらしい。渋るシーナを問答無用に空いている寝床へ連れていき寝かせた。


「ここで少し休むと良い。今の状態と少しでも変化があるようだったら、また声をかける。安心してくれ」


 彼の大きな手がシーナの頭や額を撫でる。その気持ちよさと、寝床の温かさも相まってすぐに瞼が重くなる。そしてしばらくすると、シーナは瞼が完全に閉じて小さな寝息を立てていた。


 


*sideリベルト

 

「眠りましたね、リベルト隊長」

「ああ」


 リベルトとエリヒオは釜の内部を見ながら、椅子に座って休憩を取っていた。目の前にはアントネッラとシーナが眠っており、アントネッラの側にいたシーロは先ほどの場所で触れてない植物があるからと、外に出掛けている。

 部屋は釜の中の煮込む音が響いている。その音も規則正しく聞こえるため、心地よい。


「薬を作ると言い出した時には、どうしたら良いかと思いましたが……まさか隊長が許可されているとは思ってもみませんでした」

「あそこで無理に止めたところで、彼女は休めなかっただろうからな。だったら作らせて休ませたほうがいいと思ってな」

「成程」


 リベルトは寝ているシーナを一瞥する。彼女は規則正しい寝息を立てている様子を見ると、休めているのだろうと安堵する。その際口角が少し上がっている事に気づいたのは、目の前でお茶を飲んでいるエリヒオだけだ。リベルト自身ですら気づいていない。

 そんな彼の様子に思うところがあったのか、エリヒオはリベルトに声をかけた。


「リベルト隊長、ひとつよろしいですか?」

「ああ、いいが」

「リベルト隊長は、シーナさんの事をどう思っていらっしゃるのでしょうか?」


 え、とリベルトから声が漏れる。


「ああ、深い意味はありません。ただの好奇心です」

「ただの好奇心……」


 そう言えば、他の令嬢と比べて……比べることも失礼かもしれないが、シーナに嫌悪感を抱く事はないなとリベルトは思った。改めて彼はシーナの事を考えてみる。


「そうだな……どこか放っておけない……いつも元気で前向きではあるが、どこか危なっかしく感じる女性だろうか?」

「シーナさんは集中力が凄まじいですからね。寝食忘れて薬草研究をしていそうな雰囲気はありますね」

「ああ、エリヒオの言う通りだ。だから目が離せないのだろうな。これで良いか?」

「ええ、興味関心があったとは言え、失礼いたしました」


 何故ここで彼がシーナの事を聞いてきたのか分からないが、思うところがあるのだろうとリベルトは考える。そしてもしかしたらエリヒオは彼女に好意を抱いているのではないかと思い至った。

 そう考えた時にズキっと胸が痛んだような気がする。この痛みの意味が分からず困惑しつつも、リベルトはエリヒオへ逆に質問をした。


「ちなみにエリヒオはシーナさんの事をどう思っているのだ?」

「私、ですか?」


 自分が質問されると思っていなかったエリヒオは目を丸くしていたが、やがて少し考え込んで言った。


「そうですね。優秀な薬師、でしょうか。それ以外に思うところはありませんね……ああ、カリサに会わせてみたいとは思いますが」

「婚約者殿にか?」

「ええ。カリサは園芸が趣味でして。私が薬草探しに行くと言った時、可愛らしい花の咲く薬草があれば教えて欲しいと言っていたので」

 

 エリヒオの言葉を聞いて、先程まであった胸の痛みは引いていく。自分がいないから忘れがちだが、彼以外の隊員は全て婚約者がいるのだった、と思い出す。結局リベルトにはその胸の痛みがなんだったのかは分からなかった。


「それについては改めてシーナさんに尋ねるといい。彼女の了承が得られたら、ラペッサ様に確認を取ってみよう」

「よろしいのですか?」

「まあ、薬草の普及のため、という大義名分も使えるだろうからな」

「ありがとうございます。そのようにカリサには伝えておきます……そろそろ起こしますか?」

「そうだな」


 釜の中の水が透き通り始めているのを見て、リベルトは椅子から腰を上げた。


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