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9、薬師の弟子と、初めての病

 翌日、フラビオと別れたリベルト隊は、花畑より先へ進んでいた。幸い芋虫は花畑にしかいなかったため、シーナが我を忘れることもなく、順調に進んでいく。


「これはジンバーという薬草ですね。根を利用します。嘔吐の症状を軽くしたり、解毒作用に使用したりします。基本は乾燥させて使用しますが、生でも利用できる薬草です」

「これは特徴のある薬草なのだな」

「これだったら私でも見分けがつきそうです!」

「今まで見分けが付かないものも多かったっすから、ありがたいっすね〜」

 

 シーナが道中で説明した事は、アントネッラが書き留めていた。後でその書き留めも利用して説明文を書いたらどうか、とリベルトから提案されていたからだ。

 引き続き説明をしつつ、見本用と栽培用に使用するための採取も忘れない。

 

「はい。根だけですね……リベルト様、このジンバーを栽培するには根が必要なのですが、どのくらい採っていって良いのでしょうか?」

「花畑より先には入らない、と村長は言っていた。幸いジンバーの生息地のようだから、少し多めに採取しても問題ないだろう」

「でしたら、ここにまとまっているジンバーを採取するのは如何でしょうか?」


 エリヒオの提案にシーナとリベルトは頷き、全員でジンバーを掘り返す。そして掘り終えたら土を戻し、先へと進んでいく。


 標高が高くなると、岩がだんだん増えてくる。これは以前調査したトッレシアの山々と似ているが、違いがあるとすれば、あちらよりも標高が高そうであるというところか。

 シーナは熱い日差しと少し息苦しさを感じながら、薬草を見つけつつ歩いていく。


 そして岩の側に生えていたティーロバと呼ばれる薬草を見つけた時だった。


「これは、ティーロバと言います……えっと、あれ?」


 ふと頭痛を感じて額を押さえるが、その勢いにより身体が倒れそうになる。足で踏ん張ろうとして左足を開くも、踏んだ石が転がってしまう。

 身体が前へ倒れる。もうダメだ、と思い手を前に出すが、いつまで経っても衝撃が来ない。顔を上げればそこにあるのは心配そうな表情でこちらを見ているリベルトだった。


「大丈夫か?」

「あっはい……」


 問題ない、と告げようとするが、どこか力がないのは瞭然だ。それを見ていたエリヒオが言った。

 

「これは休ませた方が良いと思います。そう言えば、そろそろ討伐隊の利用している小屋があるはずです。そこに向かいましょう。アントネッラ、貴女もあまり調子が良くなさそうですから」

「そんな事……」

「いや、シーナさんほどではないけど、アンも顔色が悪い。俺が肩を貸すよ」

「シーロ……ありがとう」


 アントネッラ自身も自覚していたのか、素直にシーロの肩を借りていた。ふと、普段の彼と雰囲気が違うな、とシーナは思ったところで彼女の身体が浮く。またリベルトによって抱き抱えられている事に気づき、頬を染める。だがすぐにリベルトは彼女を座れる程度の大きな岩へと座らせた。ちなみにアントネッラもまた別の岩に座っている。

 二人が座ったところを見て、エリヒオが敬礼した。

 

「ではリベルト隊長、私は先行して小屋の周辺に異常がないか、確認して参ります」

「ああ、よろしく頼む。もし問題がなければ、小屋の中の状態も確認しておいてくれ」

「畏まりました」


 エリヒオは足早に小屋のある方へと歩いていく。その背を見送ると、リベルトは全員に告げた。


「我々は少々休んでから向かう。多分二人の体調不良の原因は、アルパン病に関連するものだろう」

「……アルパン病」

「山などでよく見られる病気だ。この山のように標高が高いと疲労や頭痛などが起こりやすくなるようだ」

「聞いた事あるっす。討伐隊でもこの場所で体調不良を訴える者が多いからと、休憩用の小屋を建てられたんすよね」

「そうだ。アルパン病に必要なのは、休息だと言われているからな」

 

 そうリベルトたちが話している間、シーナはアルパン病用の薬について考えていたところだった。

 実はアルパン病を改善する薬はあり、シーナは作成方法を知っていた。作り方を知っていたのは、薬師室で読んでいたラペッサが編纂した本に書かれていたからだ。元々ヴェローロ周辺には標高の高い山がないため、一度も作成した事はないが。

 材料は何だったか、と痛む頭でそんな事を考えていた時だった。


「シーナさん、体調不良のところ申し訳ないが……これはティーロバ、と言っただろうか? 採取の仕方を教えてほしい」

「あ、これは根が薬になりますので、掘り起こしていただけると助かります」

「承知した」


 手際良くリベルトが採取をし、シーナの魔法袋へと入れていく。その様子を見ていたシーナだったが、ふとその後ろにある白い花が目に入った。


「あ、ランシアもありますね」

「ランシアってどれっすか?」

「リベルト様のいる場所よりも下に白い花が見えませんか?」

「あれっすね! 採取は俺がするっすよ」

「ありがとうございます。あれも根っこから抜いていただけると助かります」

「了解っす」


 そう言ってシーロはリベルトに声をかけてからランシアを採取しに向かう。ランシアはアルパン病の薬に使用する薬草のひとつだと思い出したところで、魔法袋の中に本を入れてきた事に気づく。

 リベルトへ声をかけ、本を袋から取り出してもらったシーナは、鈍い痛みに耐えながら本を(めく)る。そして該当項目を見つけた時、彼女の瞳は輝いた。


「材料が揃っている……!」


 アルパン病の薬を作成するために必要な薬草は五種類、その最後のひとつがランシアだったのだ。


「これは薬師として、作らなければ!」


 そう声を上げるシーナ。目を輝かせている彼女が何を考えているのか、一瞬で察したリベルトは頭を抱えそうになったのだった。


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