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5、薬師の弟子は、赤面する

 ラペッサの指示があったからか、そこからシーナは調査隊用の薬の作成に取り掛かった。サントスも通常業務の薬作成の仕事をシーナに振り分ける事なく、思う存分薬作りに精を出した。

 

 そして三日後、彼女は今回の目的地であるルアノ村と呼ばれる場所を訪れていた。ここはルバルカバ山脈という広大な山脈の麓にある村である。

 ポルニカは木材として非常に優秀らしく、この村の名産品とされている。廃材から刃物を使って木彫刻と呼ばれる像を作る者もおり、それも名産品のひとつとなっているそうな。


 現在リベルトとエリヒオ、フラビオはこの村の村長であるスニガという男性の元を訪れている最中だ。山に入る許可を得る事と、注意事項の確認のためだ。


 全員で聞きに行くのも、相手の負担になるだろうからとシーナたちはお留守番組なのである。

 そんな彼女は初めて見る大量のポルニカに、圧倒されていた。

 


「わあ、ポルニカが大量に生えていますね! シーロさん、調子はどうですか?」



 と言っても、シーナの今一番の関心事はシーロのポルニカ症についてだ。彼女は道中にも何回か彼に話を聞いていた。彼も彼で非常に協力的なので、聞かれた事には素直に答えてくれた。


 

「シーナさんのお陰でだいぶ楽っす! シーナさんから貰った当て布? ってやつが効いているような気がするんすよ!」



 そう言ってシーロは口を覆っている布を指差した。この布は彼女の師匠であるマシアがまだヴェローロの薬屋にいた時に二人で考えたものだ。

 ポルニカ症の話を聞いた時、マシアとシーナはその症状が発症するのは花が咲いている時に多い、と患者から話を聞いた事があった。そこから、「花が咲いた際に、症状を誘発する物が出ているのではないか」と仮説を立てた事がある。

 その際試しに口と鼻を覆う布のようなものを作成していたのだ。それが残っていた事もあり、以前試行錯誤した事を思い出しながら新しい物を作成していた。


 シーロにはその事を告げて、使用してみるか確認したところ、「実験体っすね」と楽しそうに承諾してくれたのだが。

 効果はあるらしい。



「シーロ、良かったね〜。昔からポルニカ症に悩まされていたもんね」



 そうアントネッラが声をかける。とても嬉しそうにシーロを見ている彼女を見て、シーナは作って良かったと思うと同時に疑問が浮かんだ。



「ん、昔?」

「あ、そっか。シーナさんには言ってなかったっけ? シーロと私、幼馴染で、婚約者なんだよね」

「婚約者?!」

「私もシーロもこう見えて貴族の生まれだからさぁ。元々シーロの実家と私の実家はより親……うーんと、私たちを庇護している上位貴族とでも言えばいいかな? それが一緒なんだ。元々私なんか男爵家の3女だし、シーロも4男だから、家を継ぐわけでもないからさ……将来の食い扶持のことを考えて二人で騎士団に入隊したわけ。その後ロス殿下に誘っていただいて、このリベルト隊で活動しているんだ」

「本当に拾ってもらって助かるっす」



 平民だったシーナからすれば、知り得ない世界である。貴族様も大変だな……そう言えばリベルト様は婚約者がいるのかな、と思ったのだ。

 我に返ったシーナはシーロとアントネッラの口角が少々上がっている事に気づく。ニヤニヤと擬音が入りそうな笑みを湛えていた。



「隊長には婚約者はいないね」

「いないっすね」



 そう言われてシーナは安堵した。胸を撫で下ろして、あれ、と首を傾げる。何で自分は彼に婚約者がいない事でホッとしたのだろうか、そして二人は何故考えていた事がわかったのだろうと。その疑問もすぐにアントネッラが解消してくれた。



「声に出てたよ?」



 そう満面の笑みで言われたシーナは、恥ずかしくなって顔を両手で隠す。そんなやり取りをしている間に、シーナの後ろにはリベルトがいた。

 

 

「どうした? 体調でも悪いのか?」

「本日は日差しが強かったですからね。もしかしたら、一日中歩いて疲れてしまったのかもしれませんね」

「確かにエリヒオの言う通りか。シーナさん、ちょっと済まない」



 顔を伏せていた彼女の耳にそんなやり取りが聞こえたと思えば、ふと身体が地面から離れたような気がした。

 何が起こっているのか分からず、シーナは慌てて手を外し周囲を見渡す。すると眼前にリベルトの顔が映る。

 しかも彼の顔は普段見る時以上に近い。どうしてこうなっているのだろうか、と助けを求めて目を彷徨わせるが、皆ニコニコとこちらを見ているだけで言葉を発しない。


 

「体調が悪いようなので、私が連れて行こう」



 その言葉で自分がリベルトに持ち上げられている事を理解する。その状況に焦ったシーナは、狼狽えながら彼に告げた。



「だ、だ、大丈夫です! リベルト様のお手を煩わせるわけには……」

「問題ない。むしろ君をそのままにしておく方が問題だ」



 そう言い切られてしまうと、自分の言葉に恥ずかしがって顔を覆っていたなんて言う事ができなかった。周囲の温かな視線と共に、シーナはリベルトに抱きかかえられながら、今日の宿泊場所へと向かったのだった。

 


 

 翌日。

 リベルトに対する羞恥は残っていたが、それ以上に新たな薬草へと出会う事への楽しみが上回ったシーナの元に訪れたのは、アントネッラだった。

 満面の笑みで踊っているかのように歩くシーナを見て、何とも残念な子を見るような視線を送っているが、本人は気づかない。


 彼女に連れられて食事を摂った後、昨日伝えられていた集合場所へ向かうとそこには既に二人以外の全員が揃っていた。

 大急ぎでシーナは彼らの元に向かい、頭を下げた。



「遅くなりまして……」

「問題ない。時間前には来ているし、昨日シーナさんは体調を崩していただろう? むしろ少し遅く来ても構わなかったが」

「えっと……ありがとうございます」



 事情を知っているシーロは彼女を見て口角を上げている。最終的にシーナはリベルトに本当の事を告げる事ができず、身を委ねたまま宿まで送ってもらったのである。

 どう言葉を紡ごうか、と冷や汗をかいていると後ろから歩いてきたアントネッラが彼女の代わりに言葉を紡いだ。



「隊長、シーナさんは大丈夫だと思いますよ! 先程までシーナさんは『新しい薬草が〜』って、楽しみにしていましたから。私から見たら踊っているようにしか見えませんでした!」

「アントネッラさん……」



 助けてくれたのは嬉しいが、先刻の自分の様子をバラされると……それはそれで恥ずかしかった。

 シーナは恥じらいながらも、彼女の言葉に同意する。


 

「それなら良いのだが……もし、体調が悪くなったら私に言うように」

「ありがとうございます。そうさせていただきます……」



 そんな二人を見ていたリベルト隊の面々は、微笑ましい視線を二人に送っていたのだが……シーナもリベルトもそれに気づくことはなかったのだった。

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