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4、薬師の弟子と、ラペッサの心配事

後半はラペッサ視点です。

 その後リベルトと相談し、発熱・腹痛・傷薬、そして虫除け・虫刺され用の薬など、調査隊で必要な薬を作成する事となったシーナ。それ以外にも、リベルトからは個人用にとシーロ用の鼻水とくしゃみを軽減させる薬の依頼も受ける事となった。

 個人用の薬に関しては患者の話を聞く必要があると、リベルトとの話し合いを終えた後、シーロに話を聞く。聞くと以前露店で購入したシーナの薬がよく効いているらしく、外出時も辛くないようだった。だが今回向かう場所はポルニカが大量に生えている場所である。ならばと調合の分量を少しだけ変えて、多少ではあるが効果を高くした薬も調合することにした。


 こんなに大量の薬を作って持っていけるのだろうか、個人の薬を作成して良いのだろうか、と最初シーナは不安であったが、その心配はシーロの聞き取り後に解消される事となる。


 話し合いが終わると、シーナとリベルトはロスの執務室へと向かった。

 そこにいたのはロスと側近二人、そしてラペッサだった。ラペッサは現在、ファルティア王国の文献を書き写している最中との事。どうやら伝手で新たな文献を手に入れたらしく、写し終えたら薬師室の本棚に並ぶのだと言う。その話を聞こうとして、リベルトに止められたのはご愛嬌だ。


 リベルトはシーナとの会議の内容をロスとラペッサに伝え、彼女が調査隊のために薬を作成する許可を得た。勿論、個人用の薬の作成も同様だ。

 その事を聞いたラペッサやロスは二つ返事で許可を出す。それだけではなく、ロスはマルコスに言ってある鞄をシーナに手渡した。


 渡された鞄を見て彼女は固まる。彼女に支給された鞄は、魔法袋であったためだ。しかもシーナが使用しているような、時を遅らせる魔法袋ではなく完全な時間停止が施されている魔法袋だったのだ。

 驚きでロスの顔を凝視してしまった彼女に、ロスはこう告げた。



「その魔法袋は容量もある程度大きいと思うから、思う存分採取してきてよ」

「……ですが、私にこれを渡してもよろしいのですか? 非常に貴重な魔道具では……」

「まあ、貴重ではあるけれど、所詮道具だから。ちゃんと要所で使わないとさ。これなら君が作成した薬の効能も落ちることはないし、薬草の標本も傷むことはないだろうからね。それにその袋は現在地が分かる魔法もかけてある。もし盗難されたり落としたとしても、見つけられるから問題ないよ」



 それこそ国宝と言っても過言ではない魔道具である。平民であり一介の薬師であるシーナが持つには過分だ。そんな魔道具を持つ彼女の手が少々震えている事に気がついたリベルトは、シーナの肩にぽん、と手を置いた。


 

「余り心配しなくて良い。もし心配であれば、帰宅の際にこの執務室へ寄って、袋を預ければ良いだけだ。道中も調査中も最悪私が持っていく事もできる。だから気負う事もないさ」

「……ありがとうございます。そうですね、準備の間は預けさせて下さい。そして道中は……最悪それでお願いします」

「ああ、任された」



 そう話して微笑み合う。なんだか彼に「大丈夫」と言われると、本当にそう思えるから不思議である。周囲の視線をひしひしと感じはするけれど、別に敵意のある視線ではないので気にしない。


 シーナはロスに袋を預ける許可を得たため、頭を下げて執務室を出ようと踵を返そうとした。その背に声をかけてきたのはラペッサだ。



「シーナさん、隊の薬は最優先で作成して良いわよ。サントスにはそのように伝えておくわ。もし手が空いていたら、通常の業務に入ってくれるかしら?」

「はい。承知しました!」



 魔法袋を手にしたシーナは、 再度礼を執る。そして調査の関係で話をするというリベルトを残し、彼女はロスが指示してつけてくれた護衛と共に部屋を後にした。

 


**


 


「……シーナちゃんは全く気にしてなさそうだねぇ〜」


 

 彼女が部屋から出た後、無言の部屋に響いたのはダビドの声だ。ラペッサもその言葉に同意する。彼女が首を縦に振っていると、マルコスが額に手を当てて話し出す。



「いやはや、本当に良かったです。王宮薬師からすれば、『薬作成以外の業務=戦力外通告』のような雰囲気がありますからね……。早々に調査業務を彼女にさせてはどうかと進言したサントス殿は……何を考えていらっしゃるのやら」

「意外と嫉妬だったり?」

「殿下……流石にそんな理由ではないと思いますよ」

 

 

 今回の調査業務を進言したのは、サントスだ。シーナが勤務し始めてから一週間ほど経った頃に、サントスがラペッサへ提案したのだ。

 彼が推した理由も尤もで、元々彼女がリベルト隊と共に調査に参加しており、その時に非常に素晴らしい功績を残した事、そして現在薬作成が落ち着いており彼女が数日いないところで業務に支障はない事、ならばその時間で周囲の薬草の分布を把握した方が良いと言う理由だ。


 確かにサントスが話す通り。今後自国でも薬草の育成を手広く行いたいと考えているロスやラペッサからすれば、彼の提案は納得できるもの。

 だが、『薬作成以外の業務=戦力外通告』という雰囲気が漂っている中で、早々に調査隊へと行かせて良いものかとラペッサは頭を悩ませていたが……その背を押したのは、リベルトだった。



「ラペッサ様。シーナさんは周囲の雰囲気を気にして過ごすような女性ではありません。薬に関することであれば、喜んで協力してくれます。それに、そもそもそのような空気が、暗黙の了解のように流れている事が問題ではありませんか? きっと彼女ならその空気すら離散してくれると思いますよ」



 そう告げられたラペッサは、自信を持ってそう告げるリベルトを二度見した。あのリベルトが女性を褒めて……、暗にシーナが図太い性格だと言っているような気がしなくもないが……褒めているんだろう。彼に言われて思い直す。確かにシーナは周囲の空気に呑まれるような人ではない。だからきっと大丈夫だと。


 

「そうね……今のうちに変えなくてはならないわね」



 そう告げると、リベルトは頷いた。まだまだ問題は山積みであるが、シーナを王宮薬師として迎えた事は王宮薬師室にとって良い事であるとラペッサは信じている。今、サントスも含めてシーナ以外の薬師は「薬を作る事だけ」が仕事になっているが、ラペッサとしては薬の作成だけではなく、将来は新薬の開発や既存薬の研究がこの薬師室でもできるようになって欲しいと思っていた。そのためには薬草の生態や効能等を詳しく知っておく必要がある。

 薬の作成自体はサントスたち薬師でも問題ないし、むしろ他に比べて高品質のものができていると思われる。だからそろそろ彼らには次の段階に進んでもらいたいのだ。


 シーナのこれからの行動に期待をしつつ、ラペッサは文献を書き写すべく机にかじりついた。

 

 

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