表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/98

10、薬師の弟子と、試験結果

 ネーツィの謝罪というシーナにとっては目が飛び出そうなほどの事件は起きたが、それ以外では露店の販売や勉強は進んでいた。たまにミゲラの連れ添いとして図書館に行き、彼女以上に熱中して本を読み進め呆れられる事もあったが、順調だ。

 たまにアントネッラやシーロ、リベルトが訪れ、お菓子や軽食などを差し入れしてくれる事もあり、熱中する事もあるがなんとか倒れる事なく日々の生活を過ごしていた。


 そして試験当日。

 試験場所は王宮の一角、大講堂と呼ばれる場所で行われる。非常に奥まった位置にあり、アントネッラに案内されていなかったら辿り着かなかったのではないかと思われるようなところだ。シーナは一週間ほど前にギルドで渡された試験票を入り口で渡し、番号の書かれている席へと向かう。席は申し込み順らしく、シーナは申し込みが遅かったのか、大分後ろの席のようだ。左端の列の後方に席を見つけ座った。

 

 開始時間になり改めて周囲を見回すと、ポツポツ空席はあるがほぼ全ての人が席へと座っていた。


 ミゲラが話していたが、宮廷薬師試験は薬をひとつでも作成できれば、試験を受ける資格を得る事ができる上、受付で手に入る本を読んで必死で勉強すれば、誰でも合格できる可能性があると思われているらしい。現在密かに人気の職業なのだそう。

 二人でその話をしていると、ソフロニオは「そんな簡単な訳あるまい」と呟き、黙々と食事をしている一方で、ミゲラは「そうよねぇ。シーナちゃん頑張ってね!」と応援されたものだ。


 ふと正面を見ると、見覚えのある男性が舞台袖に立っている。眼鏡をかけている彼はマルコスではないか。そうシーナが考えていると、彼の声が周囲に響いた。よく見ると手元に箱を持っている。拡声魔道具なのかもしれない。



「王宮薬師試験にお越しの皆様、本日はご足労いただきありがとうございます。これより、試験を開始いたします。試験を始めるにあたって、この試験の責任者であるロス第二王子殿下より、注意事項と激励をいただきます。殿下、よろしくお願いいたします」



 その言葉を受けて舞台上に現れたのは、ロスである。彼はまず試験における注意事項を述べた。そして注意事項が終わった時、ふとロスがこちらを向き、目が合った……ような気がする。一瞬の事なのでシーナの気のせいかもしれないが。

 その間にもロスは言葉を紡いでいる。

 


「王宮薬師試験は一次筆記、二次が実技と分かれております。本日は筆記のみ、筆記に合格した方だけが二次に進めるという仕組みです。まずは本日今までの努力の成果を出し切ってください。健闘を祈ります」



 そして試験は始まりを迎えた――。





 

 それが一ヶ月ほど前の話。シーナは一次試験突破後二次試験を受け、本日通知が届くという話をリベルトから伝えられていた。暇を持て余し、納戸でヴァイティスの水やりをしていたところに、入り口の扉を叩く音がする。「少々お待ちください」と声をかけ、手を洗って急いで扉を開けると、そこにはリベルトが。


 

「おはようございます、シーナさん」

「リベルト様、おはようございます。あの、もしかして……?」

「そのもしかして、だ。シーナさん、これを」



 そう言って手渡されたのは一通の手紙。裏にはバッテンバーグ家、つまり王家の紋章が入った封蝋印が付いている。

 彼に促されて封を開けてみると、そこには二通の手紙が入っていた。一通目はリベルト曰くロス殿下直筆の手紙らしい。先に二通目の通知を手に取った。


 緊張するものだな、とシーナは思う。薬師になる、と決めたのは彼女ではあるが、その道筋は師匠マシアの跡を継いだもの。

 自分が決めた道へと進めるかどうか、この手紙一通で決まる。


 緊張から無意識に手が震えている事に気づく。早く開かないと! と焦る彼女を落ち着かせたのはリベルトだった。

 リベルトはシーナの頭に手を乗せた。



「落ち着くんだ。合格であれば喜べば良いし、不合格であってもまた次の試験に挑戦できる。道が閉ざされるわけではないのだから、そこまで重く感じる必要はない。殿下も『さて、今回の試験も無事終わったから、次の試験の準備だ〜』と先程言っていたからな」

「……ありがとうございます」



 リベルトの言葉を聞いて心が軽くなったシーナの手の震えはもう既になく、開きにくかった通知書も難なく開く事ができた。

 そして目に入ってきたのは「合格」という文字。シーナは無事合格したのである。


 

「成程、そういう事だったか。シーナさん、先程の一通目にはロス殿下直筆の言葉と、ラペッサ様の総評が書かれているはずだ」



 なんでも、リベルトが言うには、「合格通知」が入っていた者には、ラペッサの直筆の手紙がロス殿下の文面の下に入っていると話があったらしい。

 手紙を配達する者にはその話が聞かされていたそうな。ちなみにリベルト以下通知書を配達する者にも合格者が誰であるかを伝えていないそう。知っているのは責任者のロス、試験監督ラペッサ、マルコスだけだと言う。


 シーナは改めてロス殿下の手紙を読む。試験を受けてくれた事に関する感謝と労い、最後に一言「これからもよろしく」と書かれていた。

 そして次にラペッサの総評を確認する……簡単に言えば、「すぐにでも欲しい人材です!」と書かれており、シーナは嬉しさから頬を染めたほどだ。


 手紙を読み終えて顔を上げると、リベルトと視線がぶつかった。彼女が手紙を読み終えたと判断したのだろう、彼は微笑む。



「シーナさん、良ければまた調査隊に加わってもらえるだろうか? 今度は王宮薬師として」

「……! 勿論です!」



 彼から差し出された手を握り返す。握った手から温かさを感じたシーナは、この合格が現実である事を改めて実感していた。

 試験について書いていると長くなりそうだったので、省きました。

 次より第三章に入ります。


 次の投稿に少々お時間をいただきます。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ