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19、薬師の弟子は、決意する

 その後薬師試験の話が蒸し返される事なく、薬草についてラペッサとシーナが語り合っていると、時々ロスが質問を投げかけるという形で会話は弾んでいた。

 一時間程して、マルコスが「殿下、そろそろ時間です」と話に入ってきた事から、この会は解散となる。


 最初は一人で帰ろうと考えていたシーナだったが、ロスから「王宮は複雑だからリベルトに送ってもらって」と言われ、二人で廊下を歩いていた。

 現在シーナは調査団の面々がいるであろう会議室へと向かっている最中だ。


 先程、リベルトから「宿を取っておいた」と告げられただけでも驚いたのだが、なんとシーナが王宮に来る前、アントネッラに指示を出し宿を確保するよう依頼していたらしい。

 シーナとラペッサが薬草や薬について話し始めたら止まらないだろう、と考えて先回りさせたとの事だった。

 それを聞いたシーナはお礼を告げた。



「リベルト様、ありがとうございました」

「いや、こちらこそ中途半端になって済まない。本当は宿まで送りたいのだが……」

「殿下の護衛が王宮から離れてはいけないと思います。むしろここまで手配してもらえて、助かりました」

「……いや、本当に済まない。宿へはアントネッラに案内するよう指示しているから安心してくれ。それにもし疲れていなければ、彼女に街を軽く案内してもらうと良い。特に商業ギルドや商店の場所は知っておいた方が良いと思うからな」

「良いのですか? アントネッラさんもお仕事があるのでは……」



 リベルトの話によれば、現在彼女たちは調査で採取した薬草の仕分けを行っている、という話だったはずだ。その業務を抜けても良いのか、とシーナは心配になった。



「ああ、そこは問題ない。今はエリヒオを中心に薬草の仕分けを行っているだろうから、一人抜けたところで問題ないはずだ。シーナさんの話も色々と聞いていて、薬草への理解も深まっているだろうからな。うちの隊は殿下の選抜という事もあり、女性が一人しかいない。いつも笑顔ではいるが、シーナさんと話す時のアントネッラはいつも以上に楽しそうに見えたから、彼女も気分転換にいいだろう」

「……本当にありがとうございます」



 リベルトの表情がふと和らぐのを見て、シーナは彼を部下思いの優しい人なんだな、と思っていた。

 

 実はリベルトの瞳が彼女を捉えて微笑んだのだが、シーナはそれに気づかない。リベルト本人もその事を把握していないのだから当然かもしれないが。


 無言のまま廊下を二人で歩く。だが気まずいという空気はなく、二人の間に穏やかな空気が流れている。

 

 そんな空気感の中で、シーナは以前作成した薬をグエッラ商店で販売する事を考えていた。グエッラ商店はラペッサの話す通り、薬が強い。だから、そこで売り出されている商品を見れば、露店で売り出す際の参考になるかも、と思ったのだ。


 シーナは一旦考えを止め、リベルトを一瞥した。普段であれば、そのまま他の薬のことについて考えていたシーナにとっては珍しい事なのだが、それを指摘する人はいない。

 

 調査隊の面々が集まる会議室まで二人の心は温かなものに包まれていた。

 



「首尾は?」

「前半二日分は既に薬師室のサントス様にお渡ししています」

「分かった。では、アントネッラ。シーナさんを宿へ送ってくれると助かる。我々はその仕分けが終わったら休憩に入るぞ」

「「「はっ!」」」



 会議室内に入ってリベルトが進捗を確認する。どうやら順調に進んでいるらしい。彼は全員の敬礼を一瞥した後、アントネッラの方へ顔を向けた。



「アントネッラはシーナさんが望むのなら、街を案内してやってくれ。くれぐれも無理はさせないように」

「承知しました! シーナさん、行きましょう」

「リベルト様、本当に何から何までありがとうございました!」

「あ、ああ……」


 シーナは彼に向けてお辞儀をしてから微笑む。その表情にリベルトは息を呑んだが、すぐに彼女は背を見せてアントネッラと肩を並べる。

 リベルトはシーナの背が見えなくなるまで見守った。



 二人は王城の門を抜ける。

 門の先には川があり、そこに架かっている橋を渡っていた時の事だった。

 


「さて、シーナさん。これから宿に案内しても良いんだけどね……宿までの道のりに重要な建物が多いから、折角なので案内しながら宿へ向かおうと思うんだけど良いかな?」

「うん、ありがとう! 助かるよー」

「ちなみに今のところ、商業ギルドと日常用品を販売している店舗、薬草を販売している店舗と……後知りたいところはある?」

「あれば図書館の場所と、グエッラ商店の場所と……あと……王宮薬師試験の申し込みをしようと思うのだけど、どこですればいいかな?」



 そう告げたシーナに最初は目を瞬かせたアントネッラだったが、満面の笑みで「案内するね!」と声をかけた。



 アントネッラに連れられて訪れたのは、商業ギルドの一角だった。そこにはギルド職員らしき女性が一人座っている。


 アントネッラが言うには、王宮薬師試験の申し込み期限は後一週間ほど。受付はギルドに委託しているらしく、受付時間も決められているらしい。

 幸い王宮を早く出たからか、まだ受付時間は過ぎていなかったようだ。


 シーナとアントネッラが歩いて向かえば、女性がこちらに振り向いてにっこりと微笑む。



「私に御用でしょうか?」

「あ、はい。王宮薬師試験の申し込みに来たのですが……」

「そうでしたか。では、お名前を教えていただけますでしょうか?」

「シーナと申します」

「ではシーナさん。受付の前に、ですが……まず自分で作成した薬をお持ちですか?」



 あれ、とアントネッラは目を瞬かせた。



「薬師試験の申し込みは、申し込み用紙に記入して提出するだけだと思っていましたが……」



 そう彼女が尋ねると、女性は納得した表情で話し始めた。



「最初はその予定だったのですが、予想以上に申し込み希望の方が殺到しまして……一度でも薬を作成した事のある方に限る、とさせていただいています。薬なら何でも問題ありません。こちらの魔道具で薬にある魔力と貴女の魔力が同様のものかを判断するだけですから」

「シーナさん、ごめんなさい。また改めて来る?」

「大丈夫。薬も持ってるから、ここで申し込んでおくよ」


 

 シーナは以前トッレシアの街で作成していた薬を取り出し、女性へと渡す。彼女はシーナから受け取った薬を魔道具の左側へ置いた。



「では、申し訳ございませんが、こちらに手を乗せていただけますか?」



 言われた通りに右手を乗せると、一瞬魔道具が光った。これで判定が終わったのだろうか、と疑問に思っていると、女性が首肯している。


 

「問題ございません。それでは、こちらに必要事項をご記入下さい」


 

 申し込み用紙に必要事項を記入後、シーナは一冊の本を渡された。



「これは今回の試験に必要な基礎知識が書かれている本です。受験される方にはお配りしております。こちらの本は王宮薬師顧問のラペッサ様が編纂した本であるため、売却が禁じられています。試験当日に回収しますので、無くさないようにして下さい。書き込みも禁止です」

「自分で本の内容を別紙に書き写すのは可能ですか?」

「可能ですが、それを他人に譲渡、販売する事は禁じられています。あくまで利用は自分に留めて下さい。この本は図書館にも数冊置いてありますので、もし試験後に再読したい場合は、図書館を利用して下さい。図書館の本は持ち出し禁止ですから、お気をつけ下さいね」

「分かりました」

「それでは、こちらに関しては手続きをさせていただきます。試験の詳細については、一ヶ月後くらいを目処に、彼方にある掲示板に紙が貼り出されると思いますので、そちらをご覧下さい」

「ありがとうございます」



 こうしてシーナは二ヶ月後。王宮薬師試験を受ける事を決めたのだった。

 

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― 新着の感想 ―
今まで王宮(国)に搾取されてきた人間が、折角自由を得たのにまた王宮薬師という枠に嵌ろうとしてるのは違和感しかない。
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