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15、薬師の弟子は、実験結果を確認する

 その後陶器釜の中身が無事に煮詰め終わると、シーナは普段のように布で濾し瓶へと入れる。多めに作成したからか、瓶は二本になった。瓶の蓋を閉めた後に持ち上げて中身を振ってみれば、薬のように見える何かができていた。


 一本だけシーナは魔力を込めておく。

 

 普段は葉の部分を使う事が多いため、薬は薄らと緑がかる。だが、今回は赤い実を使用したためか、ほんのり赤い。



「これは薬……なのか?」

「分かりませんね……。鑑定してみましょう」

「はぁ〜、俺の世紀の発見が正しいかがこれで分かるっすねぇ……ドキドキするっす!」



 三人が首を捻る間に、シーナは薬屋から持ってきていた鑑定機を取り出した。彼らはそれを初めて見たようで、鑑定機の周囲をジロジロと見つめている。


 

「シーナさん、これどうやって使うの?」

「これは、円い石の上に瓶を乗せるだけだよ。乗せた後、ここにある棒が光るんだ。ここに縦線が引かれているでしょう?この線が商品として店に出せる最低ラインだね」

「光っている所がこの縦線を越えれば良いんだね」

「そうそう。ただ、この薬に使えるかどうかは分からないけど……」



 そう言いながら石の上に瓶を乗せる。が、棒が光ることはない。



「壊れてるんすか?」

「そんな事はないと思うけど……念の為」



 シーナは魔法袋から昨日作成した薬を取り出し石の上に乗せると棒が反応し、縦線の先まで光っている。

 これで鑑定機が故障している事はあり得ないと判断できた。



「うーん、薬じゃないのかな?」



 何度も置いては反応がないことを確認し、薬草ではないのだろうと誰もが思ったその時。


 

「シーナさん、シーロに触れさせてみたらどうだ? まずは雑草で作った薬を触れてみてくれ」



 テーブルの上に置いてあった瓶にシーロが触れると即座に首を振った。

 当たり前の事であるが、魔力は含まれていない。



「じゃあ次はこれに触れてみると良い」



 彼の前に置かれたのは、残っていた魔力を込めていない方の瓶である。シーロは恐る恐る触れた後、すぐにリベルトの方へ振り向いた。



「隊長! 魔力を感じるっす!」

「最後はこれだ」



 前二つと同様にシーロが触れようとしたその時――。



「うわっ! 何だこれっ!」



 シーロが動転し、手を離す。気分を害してしまったのか、少しむくれている。



「どうしたのよ、シーロ?」

「……もうこれ以上触れたくないっす。魔力量が多すぎて酔いそうっす」

「つまり、この液体はシーナさんの込めた魔力を増やしたという事か?」

「どうっすかねぇ……これは確証がないので何とも言えないんすが……増えた、というよりはシーナさんの込めた魔力が全て残っているような気がするんすよね」

 


 シーロの話を聞いてシーナも考える。

 薬を作成する際、最後に魔力を込める行動。あれは魔力を込める事で薬の効能を上げる効果がある。

 

 だが、ここで注意すべき事はシーナが込めた魔力全てを薬は吸収できていない事である。薬草にも魔力を含む量の限界があるらしく、彼女も限界量は見極めているがどうしても少しは漏れてしまう。

 今回は魔力の限界が分からなかったので、とにかく込められるだけ込めてみたのだが……言われてみればすんなりと魔力が通っていったような感覚を思い出す。

 

 そこで頭に浮かんできたのは、ニアミーラから預かった一冊の本である。


 シーナは鬼の形相で魔法袋から本を取り出し、目にも留まらぬ早さで(ページ)をめくり始めた。



 鬼気迫る表情で本を見ている彼女に気づいた三人は、呆然と彼女の様子を見守るしかない。

 本も後半に差し掛かった頃、彼女から「あった!」という声が上がった。



「こちら、見てください!」

「ん、これはマティア語ではないか。シーナさんは読めるのか……」

「隊長。マティア語って、薬師の国の第一言語ですよね?」

「ああ、そうだ」



 薬師の国の論文は読めるように、とシーナはマシア(師匠)から教わっていた。ニアミーラから託された本もマティア語で書かれており、王国内の馬車移動の際に読んでいたのが功を奏したのだ。

 シーナが指差している場所は、文字が小さい上に手元を見ないで記したのか字体が崩れており、隅々まで読んでいなければ見落としただろう記載だ。


 リベルトは差し出された箇所を読む。



「何々……大昔に執筆されたであろう本の中に『魔力を溜め込む事のできる植物がある』と記載されていた。薬に溜め込む魔力量が上がれば、効能も上がる。薬師としては喉から手が出るほど欲しい植物であろう。だが、その植物の姿形は判明していない、幻の植物だ……」

「隊長、それって!」



 本から視線を逸らしたリベルトと、シーナの視線が混ざり合う。

 そう、この本に書かれている植物が今回発見した実なのではないか。

 

 シーナは本へと視線を落とし、続きを読んだ。

 


「植物の名前はヴァイティス、大昔に生きていた放浪薬師が付けた名前だそうです」



 シーナも含めた全員が、息を呑む。

 流石のリベルトもまさかの事態に考え込み、しばらくして顔を上げた。

 


「その本に記載されている内容は事実なのか?」

「事実……かどうかは分かりません。ですが、一通り読んだ限り、こちらに書かれている内容は筋が通っているものばかりです。数年前にファルティア王国が発表した新薬についての研究もありますので、全くの出鱈目ではないかと」

「その本はどこで?」

「えっと、ヴェローロ王国のとある街である方にお世話になったのですが、その時に譲り受けました。十数年前とある夫婦から受け取った本だと聞きましたが、当時受け取った方はお亡くなりになっていて、詳しくは聞いていません」

「……これはラペッサ様に直接お話しした方がいいだろうな。シーナさん、大変申し訳ないが、この調査が終わり次第、我々と共にラペッサ様と会ってはくれないだろうか?」

「え、むしろよろしいのですか? 私平民ですよ?」



 様が付いている方だ。きっと貴族に違いない。無意識にヴェローロでの反応を思い出して、少し眉を顰める。貴族に良い思い出がないであろう事を悟ったリベルトは、腕を組む。



「ラペッサ様は身分で人を見るような人間ではないから安心してくれ。万が一、ないとは思うが……王宮内で君を馬鹿にするような輩がいたら、私が守る」

「そうっすよ〜。こう見えて隊長は顔が広いんで! 隊長が何とかしてくれるっす!」

「……ありがとうございます」


 

 リベルトなら本当に何とかしてくれそうだ、と思ったシーナは、感謝を込めて頭を下げた。

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