番外編 メレーヌ
仲良し三人組:セベロ・トニョ・カリナ
カリナ:セベロの妹で、シーナ以外で唯一王宮薬師試験を突破して入ってきている。
王太子であったイーディオがヴェローロ王国へと帰り、シーナの周辺は落ち着きを取り戻していた。
そんなある日、彼女が依頼していた薬草が薬師室に届く。届け人はナッツィアにあるグエッラ商店の店員パメラである。彼女はあの件の後、ネーツィの抜擢により副店長へと昇格したが、この配達だけは常に彼女が死守しているという。
「シーナさん、本日もお届けに参りました」
「パメラさん、ありがとうございます!」
シーナは薬草を受け取ると、早速手触りを確認したり、匂いを嗅いだりして鮮度を確かめる。パメラはいつもその姿をニコニコとした表情で眺めているのが、通常運転となっていた。
しばらくして満足したのか、シーナはパメラに満面の笑みで話しかける。
「本日も素晴らしい薬草をありがとうございます! やっぱりグエッラ商店の品質は素晴らしいですね!」
「ありがとうございます。次のご注文もお待ちしておりますね」
「もちろん、また頼みます!」
後ろでは、パメラも強かになったな……と笑顔で見守る仲良し三人がいた。最初の頃、王宮だからと青ざめた表情で挙動不審だった彼女はもういない。
慣れってすごいな、と三人が思っていると、パメラは「あ」と何かを思い出したのか、懐へと手を入れた。
「そうだ。ネーツィ様からこれをシーナさんに渡すようにって言われておりました」
「手紙?」
差し出されたのは一通の封書だった。表にはシーナの名前が書かれている。シーナは何気なく裏を見ると、そこには懐かしい名前が書かれていた。
「メレーヌ……!」
そう、そこに書かれていたのは幼馴染のパン屋の娘であるメレーヌ。以前は侯爵家の養女になったというところまでしたためて送ったはずだ。
一応侯爵家の住所も記載したはずなのだけれど、何故パメラが届けたのだろうか。
シーナは首を傾げていると、後ろからカリナが顔を覗かせてくる。
「シーナちゃん、メレーヌって誰?」
「ヴェローロにいた時お世話になった、パン屋の娘さんです。朝ごはんと夕ご飯を届けてくれて、一緒に食べてました」
「あー……」
カリナは察したのだ。きっとシーナの食事のお世話をしていたのだろうと。シーナはカリナの様子に気づかずに呟く。
「あれ、宛先はちゃんと書いたんだけどなぁ……どうしてパメラさん経由だったんだろう?」
そう言いながら封を開けるシーナ。後ろにいたセベロも手紙が気になったのか、カリナの後ろで一緒にシーナの手元を見ている。
トニョは彼女をチラチラと見つつも、人の私的な話だからとこちらに来る様子はない。
シーナは手紙に目を通す。
一行目にはこんなことが書かれていた。
『ちょっとシーナ! 平民の私が侯爵家に手紙を送れるわけないでしょう?!』
後ろで文面を見ていたセベロが、「流石に侯爵家へ手紙を送るのはできないよ……」とメレーヌに同情するように呟いている。
そんなもんか……いや、普通はそうか、とシーナは心の中でメレーヌに謝罪しつつ、次を読み進める。
『ネーツィさんに、手紙を届けるにはどうしたら良いか相談して、この形になったの! 次は送れる場所を教えてね!』
と書いてある。今回は近況報告も何もない、これを伝えたいがために綴った手紙らしい。顔を上げると、目の前にいたパメラが苦笑いでシーナを見ていた。
「ネーツィ様曰く、相当困ってらっしゃったようですよ? 次があれば私が受け取りますので、ご安心ください」
「ありがとうございます!」
パメラの言葉にカリナは引っかかりを覚える。今、「次があれば」とパメラは言った。どういう意味だろうか。
そう思っていると、パメラとカリナの視線が合う。そしてパメラは人差し指を唇に当てた。
「そうそう、シーナさん。最近人気のお店があるらしいですよ? 是非行ってみてくださいね」
そう告げると、パメラは店の地図をサラサラと書いてから、シーナへと手渡した。
数日後、カリナによって薬師室から引っ張り出されたシーナ。
あまりにも外出しないから、と気分転換に外へと出るように、とサントスに命じられたのだ。ラペッサもそのことに同意しているのか、微笑んでいるがシーナに声をかける様子はない。
シーナは諦めて、カリナと一緒に外に歩いていく。そんな時。
「あ、シーナさん。パメラさんが言っていた店に行こうよ!」
そういえばそんな話があったなぁ、とシーナは思い出す。隣でもカリナが「この時間であれば空いてると思う!」と言っているので、せっかくだからと着いていくことにした。
そして店に着いた時、そこには見覚えのある女性がいた。
「メレーヌ?!」
「あ、シーナ。久しぶり〜!」
そこにはヴェローロにいるはずのメレーヌの姿が。どうやらこの場所は、カフェが併設されている軽食屋として営業しているらしく、カウンターには沢山のパンが並んでいる。
パンは惣菜系だけでなく、甘いデザートになりそうなものまで。そして焼き菓子も置いてあった。
「なんでここにいるの?!」
目を丸くして驚くシーナに、メレーヌはしてやったり顔だ。
「ふふふ、シーナのその顔を見られて良かった!」
どうやらカリナも以前の手紙の主が目の前の女性だということに気がついたらしい。シーナとメレーヌの顔を交互に見ている。
呆然としているシーナを差し置いて、メレーヌはカリナへと声を掛けた。
「ヴェローロでは、シーナが暮らしていた薬屋の隣に住んでいたメレーヌと申します。今日は連れてきてくれて、ありがとうございました。食事をきちんと摂っているか、心配していたんです」
「あ、それは大丈夫ですよ! 薬師室の長がきちんとそこは管理してますから」
「あ、やっぱり管理されてるのね……シーナらしいわ……」
全然変わらないな、と苦笑いをするメレーヌ。その表情を見て、シーナも我に返る。何故ここにいるか、と訊ねれば彼女は教えてくれた。
「ネーツィさんに二号店を開かないかって提案されたのよ」
話によると、ネーツィはメレーヌのパン屋の商品を食べて、これは売れる! と判断したらしい。メレーヌの両親にパン屋を開かないかと相談したのだ。
けれども、人手がないということで最初は二人も断ろうとしていたのだけれど……。
「そこに私が手を挙げたの。私が行きたいって」
最初は渋っていた二人だったが、メレーヌの決意が固かったためそれを許可したのだ。そして、それに着いてきたのがもう一人――。
「メレーヌ」
「あ、フランさん! ねえ、前話したシーナが来たのよ!」
二号店に着いてきたのはフランだった。彼もメレーヌの両親からパン作りを習い、お墨付きを得てこの場所に来ている。
実は彼はネーツィの弟で、最初その話を聞いた時にはメレーヌも心配していたのだが……ネーツィはこう言ってのけたのだ。
『弟は責任感で業務をこなしていましたからね。こんなに楽しそうに働くのを見るのは初めてです。……フラン、お前は手先が器用だから、作ることに向いているのだろう。それが楽しいのであれば、それを仕事にするのが一番だ』
そう言って応援してくれたのだという。もちろん、売れる店を作れるという商人視点もあるけれど……一番はネーツィも弟の幸せな姿が見たかったのかもしれない。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、シーナの心の中も温かくなる。
ニコニコと笑っていると、その姿を見たメレーヌが「あ」と声を上げた。
「シーナ、これからは忙しい時以外この店にパンを買いに来てよ! 気分転換になるでしょう?」
「そうだよ! それがいーよ、シーナちゃん! 誰かが連れてくるようにするからね!」
食事をさせたいメレーヌとカリナは意気投合する。
どうやら、毎日メレーヌのパン屋さんに来ることになりそうだ。……メレーヌのパンは美味しい。今度リベルト様にも教えなくちゃ、そうシーナは思った。
薬師の弟子シーナを読んでいただき、ありがとうございました!
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