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4 専用工房


 馬車によって刻まれていた轍はアスタリアルの首都に入ったのを期に姿を消した。

 蹄と車輪の音が変わり、体に伝わる振動もその質を変える。

 窓の外から眺めた景色は異国情緒溢れるもので見慣れない色合いと造形の建物が続く。

 煉瓦の屋根から生えた煙突から煙が伸びている。

 そしてこのアスタリアルでは街中でよくゴーレムを見掛けられた。


「よう、待ってたぜい。そこの少年がネイトか」


 赤い髪を一つ括りにした女性。

 彼女が身に纏う制服が何を意味するのか、この国に来たばかりの俺にはわからない。


「じゃあご両親はそのまま馬車に乗ったままで」

「え、別行動になるんですか?」

「心配しなくてもあとでちゃんと会えますんで、それじゃ」


 乱暴に馬車の扉を閉めると御者が馬を走らせる。

 異国の地で一人残された。

 言葉が普通に通じることだけが救いだ。


「さぁ、少年。このあたし、リズ・リリラについてきな」


 男勝りな性格のようで、制服も正規の着こなしではないように見える。

 着崩していると言えば聞こえはいいが、ただだらしがないだけかも。


「あ、いまあたしのことずぼらだと思ったでしょ」

「……いいえ」

「妙な沈黙があった気がするが、まぁよしとしよう」


 よしとされた。


「ほら、ここだよ」

「ここが……」


 真新しい塗装が施された重厚な作りの一軒家。

 屋根から伸びる煙突はほかの建物よりも一回り太い。


「話は聞いてるでしょ? ここが少年の工房だ」


 これから足繁く通うことになる俺の城。


「こいつが鍵だ。初めは自分で開けて入るのがよかろう」


 鍵を受け取り、がちゃりと思い音がする。

 中は仕切りが一切なく広い空間が確保され、ゴーレム作りに必要な工具や設備がずらりと並んでいる。つい最近まで住んでいた自室とは比べものにならないほどの設備。

 これだけ立派な工房を俺一人のためだけに。


「どうだい? 改めて事の重大さを思い知らされただろう」

「……えぇ、まぁ」

「工房もタダじゃない。この設備に似合う成果を出せなければ少年は終わりだ。我がアスタリアルは優秀な人材に投資は惜しまないが、無能にかける金はない」

「わかってます」

「よろしい。まぁ、元々少年はかの国で詰んでいたんだ。延命できたと思って気楽に励みたまえ」


 この人の言う通り、アサギから誘いを受けなければ俺たち家族は祖国で死んでいたかも知れない。

 こうして無事にアスタリアルに到着した以上、この期に及んで嘘でした、はないか?

 俺はアサギに感謝するべき、なのかも知れない。

 今はまだはっきりとそう言い切ることはできないけれど。


「ゴーレムの作成に必要な素材は粗方ここに揃っている。足りなくなったり、ほかに欲しい素材があればあたしに言いな。まぁ、予算も無限じゃないけどね。あぁそうそう。はい、これ」

「札束?」


 見たことのない絵柄が描かれたアスタリアルの紙幣。

 一枚にどれくらいの価値があるかはまだ不明だけど、厚みはかなりある。

 自立しそうなくらいだ。


「当面の生活費、必要でしょ?」

「それはそうですけど、こんなに……」

「このくらいでビビってちゃ身が持たないよ? 裏じゃもっと莫大な金が動いてるんだから」

「……そう、ですよね」


 この工房も揃えられた素材もタダじゃない。

 この国の国民から集められた血税で賄われている。

 そのことをきちんと自覚した上でゴーレムを作らなければならない。

 今この手の内にある札束くらいで狼狽していては、言う通り身が持たない。


「さて、これで粗方の説明は終わったし、今後の予定の話をしよう」

「今後、作ったゴーレムの納品期日とか」

「いやいや、そんな堅苦しいものじゃないよ。もっと楽しい予定さ」

「楽しい?」

「まず少年には我が国が誇る一流の魔法学校に入学してもらう。あれ、転入? 編入? まぁ、なんでもいいか」

「学校……学校に通うんですか?」

「もちろん。少年、十七歳だろ? 明日からだ。あと明後日には期末テストがあるぞ」

「えぇ……」


 アスタリアルでの新生活は思ったよりもハードスケジュールだった。

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