1 鈍色の左腕
「ごめん、俺がそんなモノを作ったばっかりに」
夜暗に紛れるように俺たちを乗せた馬車が街道を進む。
車輪が小石を噛むごとに音を鳴らして揺れ、住み慣れた街はすでに遠い。
俺たち家族は俺のせいで街に、国に、居られなくなった。
§
物心がついた頃からゴーレムに心奪われていた。
重厚で無骨なデザイン、装甲の表面を駆ける魔力光、魔物とぶつかり合う戦闘。
その存在を認識した瞬間から虜になっていたと言っても過言じゃない。
魅入られれば作ってみたくなるのが性だ。
魔法使いの親父にせがんではよくゴーレムの素材を持って帰ってきてもらった。
ドラゴンの鋼鱗、サンダーバードの卵殻、ケートスの金髭、竜血樹の樹液。
これらを用いてのゴーレム作りに時間を忘れてのめり込んでいた。
いつしかオモチャと絵本でいっぱいだった自室がちょっとした工房に変わり、棚には試作したゴーレムが並ぶようになる。
そんな生活が続いたある日のこと、親父が左腕を無くして帰ってきた。
「魔法使いは引退だ。ごめんな、もうゴーレムの材料は持って帰れそうにないや」
「謝るなよ、生きて帰ってきたんだ。上等だろ」
多少の傷を負いはすれど、最後には無事に帰ってくる。
親父は強い、誰にも負けない。
幼心にそう思って疑わなかった自分にとって、かなりショックな出来事だった。
それと同時に、それと同じくらい大きな野望ができた。
「俺が左腕を作ってやる」
それが五年にも及ぶ、試行錯誤の幕開けだった。
§
「で、できた……」
小型化したリアクターを搭載した鈍色の義手。
五年の月日をつぎ込んだゴーレムが、たったいま完成した。
「親父!」
義手を掴んで自室を飛び出し、階段を駆け下りてリビングへ。
勢いよく扉を開くと、親父と母さんが目を丸くしていた。
「朝っぱらから元気だな、ネイト。さてはまた徹夜でもしてたんだろう。ゴーレム弄りもいいが、夜はちゃんと寝ないとだぞ」
「そうよ。あと朝ご飯ならあとすこしだから顔を洗ってらっしゃい」
「そうじゃなくて、えーっと……」
義手を背中に隠したまま、どう切り出したものか悩む。
親父が左腕を無くしてから五年。今じゃすっかり片腕の生活にも慣れた様子。
魔法使いの指南役として再就職した仕事も続いている。
もしかしたらもう義手なんていらないのかも知れない。
けど。
「実は、プレゼントがあるんだ。親父に」
「父さんに? なんだろう、楽しみだな。誕生日にはまだ早いけど」
読んでいた本を置いて、残った右腕が膝の上に。
椅子を少しずらして、こちらと向き合った。
「じゃ、渡すから目を閉じてくれ」
「目を? しようがないなぁ」
瞼を閉じたのを確認してから背中から義手を出す。
「ネイト、それって……」
「しー」
口元に人差し指を立てて、驚く母さんに口止めをする。
それからゆっくりと親父に近づき、義手を取り付けた。
「もう良いぜ、親父」
「もういいのか? 左腕になにか――」
瞼が上がり、親父は左腕に取り付けた鈍色を目にする。
義手は持ち主の意思をその指先まで伝達し、命令通りに動く。
小指から始まり親指に至るまで、ゆっくりと握り締められる。
開いては閉じ、持ち上げては下げ、折り曲げては伸ばす。
義手は完璧に機能していた。
「……ネイト。あぁ、自慢の息子だ!」
瞳に涙を浮かべた親父に、鉄と生身二つの腕に、抱き締められる。
「暑苦しいって、親父」
「いいじゃないか、抱き締めさせてくれ。ネイトのお陰で腕が戻った」
「まだ微調整とか色々としなくちゃならないけど、よかったよ。喜んでもらえて」
正直、自分でも驚くくらい親父は喜んでくれた。
母さんなんて親父よりも泣いているくらいだ。
暑苦しいけれど、五年間の試行錯誤が実を結んだ充足感と、喜んで貰えた満足感で今は胸が一杯だ。
今まで体験したことのない、得がたい感情が渦巻いている。
俺の作ったゴーレムで人を幸せにできた。
できるならもっと、もっと俺が作ったゴーレムで人を幸せにしたい。
俺は生涯、この幸福な瞬間を忘れないだろう。
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