「この中で誰が一番ブサイクでしょうか?」と追い詰められた俺は、気の強そうな美人ギャルの名前を答えたらギャルが泣き出して教室を追い出され、ギャルは実は…
「私たち4人の中で誰が一番かわいくないと思う?」
4人の女子が俺に目を向ける。
高校2年の教室で俺【山田 新】は耳を疑った。
ん?聞き間違いか?
「私たち4人の中で誰が可愛いかって質問か?」
「違う違う!誰が一番かわいくないと思う?」
またもや4人の中で1番清楚な【田中優子】が同じ言葉を繰り返した。
「俺に聞いた?それとも隣のはるに聞いた?」
俺の隣でさっきまでゲームの話をしていたイケメンのはるに聞いたのかもしれない。
なんせはるはイケメンだ。
俺に聞いてない説は大いにあるのだ。
「新に言ってんのよ!だからあんたは山田なのよ!」
4人の女子の中でギャルっぽい見た目の姫野由衣が俺の名字をバカにしてくる。
由衣は気が強く、4人の中でもリーダー格だ。
明るい茶髪と短いスカートで見た目は美人だが、とにかくギャルのイメージしかない。
意外とモテるが、すべての告白を断っている。
俺が小学生の時から同じ学校の腐れ縁だ。
確かに山田の名字は平凡でモブっぽいし俺の顔もモブっぽい。
が、そんなことはどうでもいい。
「由衣、その質問は新手のいじめか?誰も幸せにならないだろ?」
「いいから答えなよ。ノリ悪いなあ」
「いやおかしいだろ!誰の名前を言っても俺に損しかない!」
はるが笑い出す。
「はっはっはっは!新、いいから答えろって」
「おいはる!そこまで言うならお前が答えろよ!」
「俺聞かれてねーし」
そう言ってにやにやと笑う。
みんなの視線が俺に集まるが、おかしい。
この質問はおかしいだろ。
一番駄目なやつ誰か答えろっておかしいよな?
どういう意図?
「もお!早く答えてよ!」
由衣が俺をせかす。
「なあ、質問の内容を変えよう。誰が一番かわいいか?に変えようか」
それがいい。
そっちの方がまだましだ。
「新あ。ごまかすなよ」
「早く答えてよ」
「早く言って」
「早くー」
4人が一斉にせかしてくる。
「トイレに行ってくる」
俺はトイレに速足で駆け込んだ。
次の授業が始まるギリギリまでトイレに逃げ込んだ。
何と思われてもいい。
あの質問は駄目だろ。
地雷を自ら踏みに行く所業!
絶対避けるべし!
次の授業で今日は終わりだ。
今日逃げ帰れば明日にはみんな忘れるだろ。
明日から連休なのだ。
◇
そう思っていた時期がありました。
俺はその日鞄を持って走って校舎を出ようとしたが、はるが後ろから羽交い絞めにしてきた。
俺は由衣達4人に囲まれる。
「はる、俺達は友達だと思っていた。この瞬間まではな!」
「友として、新を逃げ出す卑怯者にするわけにはいかない」
そう言って笑う。
このドSが!
こんな性格だが、「男らしい」「かっこいい」と女子には人気だ。
世の中、間違ってる。
はるは俺を羽交い絞めにしつつ「質問の答えを聞かせてもらおう」と、渋い声を出す。
なんのキャラだよ?
「分かった。答えるから離してくれ」
女子4人とはるの視線が俺に集まる。
俺!考えろ!
女子4人の中で由衣と優子以外の2人は正直可愛くない。
可愛くない子に可愛くないって言ったら冗談じゃ済まされないだろう。
優子は普通の顔立ちで本当に普通だが、優子って答えたら泣かれそうな気がする。
それ以前に俺がモブっぽい人間だから人の事とやかく言えるのか?
「なあ、モブっぽい俺が人の事をとやかく言うことは出来ないと思うぞ。それに俺と悠人どっちがカッコよくないかって聞かれたら答えにくいだろ?」
4人の女子全員が迷いなく俺を指さした。
驚異のシンクロ率!
「即決……だと!やだ怖い!怖すぎる!」
「新あ、いいから答えてよ」
由衣がしつこい。
由衣なら選んでも冗談で済ませられるだろう。
顔は1番美人だし気も強い。
美人ってのはあくまで俺の好みなんだけどな。
俺が気にしすぎて勝手に悩んでいただけかもしれない。
俺は問題無い事を悩みすぎてしまう事がある。
気楽にいこう。
「4人の中で一番かわいくないのは由衣だな」
「え、そ、っそう」
由衣の表情が変わり、泣き出してしまった。
「う、うぐ、ううう、んぐ」
3人の女子が由衣を慰めた。
優子が「今日は帰って」と俺とはるの背中を押して教室から締め出した。
「新、今日は帰るぞ。謝れる雰囲気でもない」
「ああ、そうだな」
2人校舎を出て歩く。
「新、悪かったな。悪ノリしすぎた」
「それは良いんだけど、まさか泣くとは思わなかった」
「その話だが、由衣は新の事が好きだ」
「それは無いだろ。俺は一番カッコよくないからな」
「それは関係ない。それに由衣はお前をよく見てるんだ」
カッコよくないは大いに関係あるだろ。
「目が合う事はあまりない」
「お前が見ていない時に見てるんだよ」
身に覚えが無い。
「明日は学校が休みだ。本当に何も心当たりが無いか考えてくれ」
「お、おう」
こうして俺とはるは分かれて家に着いた。
はるがあそこまで真剣に話すのは珍しい。
今までの由衣の事を思い出してみる。
思い当たる節は……全く無い。
忘れて眠ろう。
……眠れない!
由衣を泣かせたことが気になってしまう。
結局次の日の朝までゲームをしてから眠った。
気分を変えたかったのだ。
◇
【次の日の昼前】
ピンポンピンポーン
インターホンの音がうるさい。
両親は仕事で居ない。
俺は仕方なく玄関に向かった。
「よう、新か?」
俺より何才か年上に見える男が出て来た。
知らない人だ。
「新ですが、どちら様ですか?」
「俺だ、蓮、れんにいだ。小3くらいまで一緒に遊んでただろ?」
れんにい、3年上で由衣の兄だ。
由衣を昨日泣かせたことを思い出す。
「由衣を泣かせたから怒ってるの?」
「由衣が昨日泣いたことか?あれは由衣達が悪い。友達から事情は聞いている」
怒っていないかもしれない。
でも由衣についての事でここまで来たんだろう。
「ファミレスに行こうぜ。金は俺が出す」
「それは助かるけど、着替えてくる!」
俺は3分で着替えて家を出た。
家の前には車が止まっていた。
「乗れって」
助手席に乗り込もうとしたら後ろの席に由衣が居て俺は乗るのをためらった。
「れんにい、由衣も居るって聞いてないぞ」
「話してないからな、遠慮せず乗れ」
れんにいは俺を引っ張って助手席に乗せる。
「由衣、昨日は泣かせてしまって悪かったな」
「泣いてないし」
泣いてただろ。
「そ、そうか」
「泣いてないし!」
「由衣、その前に新に謝れ。昨日はよくない事をしたよな?」
由衣の頬が少しだけ膨らんで少しだけ口が尖った。
怒ってる。
「昨日はごめん」
そう言って顔を逸らした。
それから由衣はずっと外を見ていた。
車の中で由衣は無言のまま、れんにいと俺が話をしてファミレスに着く。
4人用の席にれんにいと由衣が対面で座る。
俺がれんにい側に座ろうとすると、れんにいが横の椅子に鞄を置いた。
れんにいの隣に座れない。
そこに鞄を置かれたら俺の座る席は由衣の隣になる。
れんにいがにやりと笑う。
思い出した。
れんにいはこういう性格だ。
「遠慮しないで由衣の横に座れ」
そう言って由衣の隣に俺を座らせた。
俺が座ると由衣がビクンと反応する。
「俺ドリンクバー頼むから皆もドリンクバーな」
みんなのメニューが決まる。
食事が運ばれ、全員がドリンクを持ってくるとれんにいがどうでもいい話をしつつ食事を食べ終わる。
れんにいは急に話を変えた。
「新、彼女は出来たか?」
「全然、誰とも付き合った事が無いよ。れんにいはモテそうだね」
「俺は普通だ」
俺は確信した。
れんにいは彼女がいる。
モテる者の王者の風格を感じる。
「由衣も新も恋人は居ないか。所で由衣の髪色についてどう思う?俺は男受けしないと何回も言っているんだが言っても聞かない」
「れんにい、昨日そういう流れで由衣を泣かせたばかりだ」
「泣いて、ないし」
「そうだったな。この話は無しだ。新の好きなタイプを教えてくれ。彼女候補を紹介できるかもしれない」
「付き合える気がしない。昨日もカッコよくない認定を受けてるよ」
「そう言うな。付き合うには何回も出会いを繰り返して話をしていくしかないだろ?理想だけでも言ってみ」
「理想か、清楚で可愛い感じで、性格は優しい子がいい」
「王道だな。この写真を見てくれ。従妹だ」
「おー!可愛い。清楚っぽい」
そこには黒髪セミロングの女性が写っていた。
「黒髪のセミロングが好きか?」
「黒じゃなくても落ち着いた色がいい。セミロングは良く分からないけど」
「はあ!前は金髪ギャルがいいって言ってたじゃん!」
急に由衣が怒り出した。
「言ってないぞ」
「金髪ギャルが好きだって中学校の頃言ってた!」
「アニメの話か?アニメのキャラはそうだったけど、リアルだと清楚系が好きだ」
「そ、そう」
由衣が落ち込んだ顔をする。
「由衣、前から思っていたんだが、その髪色は明るすぎる。ヤンキーっぽくみられるし、面接にも不利だ。老人に悪い印象を持たれる事もある。デメリットを受け入れる覚悟はあるか?その覚悟があるなら俺は何も言わないが、覚悟が無いなら髪色を戻した方がいい」
由衣は自分の髪を触った。
「悪いことが多いなら、黒に戻そうかな。髪の色だけで悪く思われたくないし」
「そうか、新、この写真がロングヘア、次がショート、これがセミロングだ。どれがいい?」
「この中だとセミロングがいい」
「この写真の中だとどの髪型が好きだ?」
れんにいは俺の好みを細かく聞き出していく。
◇
「服はどんなのがいい?」
「ちょ、ちょっと待って。これいつまで続くの?」
警察の聞き取り並みに緻密な事情聴取が続いた。
「新、彼女を紹介する為出来るだけ聞いておきたい。ドリンクバーで水分補給は出来るだろ」
そう言って俺の好みを細かく聞いた。
◇
俺は家まで送ってもらった
「新、お疲れ様、由衣、この後、美容室で髪を切るのと、服を買いに行かないか?損をしない見た目の方がいいと思うぞ」
そう言ってにやにやしながらスマホを由衣に見せびらかすように振った。
「行っても、いい」
「新、連絡先を交換するぞ」
「そうだね」
れんにいと連絡先を交換して家に入る。
「疲れた」
◇
【次の日の朝】
今日も休みだが、れんにいと由衣の車でドライブと食事に向かう。
由衣と俺は後席に座る。
「由衣の服と髪型を変えた。新の感想を聞きたい」
由衣は黒髪セミロング、服装はスニーカー・スキニージーンズ・タイトなTシャツに変わっていた。
「全部俺が好きって言ってた奴!」
れんにいはにやにやと笑っていた。
れんにいはさらに笑顔になって「感想は?」と聞いてくる。
「可愛い」
俺と由衣が真っ赤になった。
「俺はこういうのが好きだけど、女の人から受けが悪かったりしないか?服のトレンドとかあるんだろ?」
「問題無い。最強のおしゃれは筋肉だ。これ割とマジな話な」
テレビかなんかで筋トレしてシンプルな服を着るのが最高のおしゃれってのがあったな。
「服のシルエットは自分で作るもの」
由衣がガッツポーズをした。
由衣はスタイルがいいと思っていたけど、この兄弟筋トレマニアか!
「新、彼女候補が隣に居る。どうだ?」
どうだって、俺はカッコよくない認定を受けている。
「俺は由衣からカッコよくない認定を受けてるよ。それと、おととい可愛くないって言って泣かせてしま」
「泣いてないし!」
駄目だ、この話は絶対聞かないだろう。
「由衣、話を遮るのは良くないよな?」
「泣いてないし」
「泣いてないのは分かったが、話の途中だ。新、最期まで話してくれ」
俺は泣かせた発言はせずに話を続けた。
「他の女子に可愛くないって言ったら、冗談にならなくなるだろ?だから可愛くないって言われて大丈夫そうな由衣を選んだ。由衣なら気が強くて見た目も良いから問題無いと思った」
由衣は俺から顔を逸らして何も話さなくなる。
由衣の耳が赤くなっている気がした。
3人無言のままファーストフードの店に着いた。
由衣がトイレに行くと、れんにいが話を始める。
「新、由衣は不器用で気が弱い。特にお前とはうまく話せない。今日はそれだけ覚えておいてくれ」
その日はあまり会話が無く、食事を終えて帰宅したが、帰った後れんにいからメッセージが届く。
・由衣は不器用
・由衣は気が弱い
・由衣は新が好きで新とうまく話が出来ない
俺が好きだと!
まさか。
俺は机にノートを開いて考えをまとめていく。
由衣はたまに怒ったように俺から目を逸らして話をしなくなる。
不器用で俺が好きで話が出来なければつじつまが合う。
由衣が泣き出したことも、れんにいの言ったことが本当なら納得できる。
でも俺はカッコよくない認定を受けている。
分からない。
俺はれんにい通話をかけていた。
『新か、どうした?』
「分からない事があるんだ。由衣は俺の事をカッコよくない認定しているから、どうしても話がおかしくなる。今日の話が呑み込めない」
『今ちょうど由衣とテレビを見ていた所だ。由衣が新を好きか聞いて、由衣、止め、叩くな』
通話が切れた。
本当に俺の事が好きなのか?
その日俺は中々眠れなかった。
◇
【次の日の昼】
今日も学校は休み。
俺はれんにいに通話した。
『どうした?』
「由衣に会いたい。駄目かもしれないけど告白する」
『お~い、由衣!すぐ出かける!新がお前に告白するぞ』
通話が切れた。
言う!?普通すぐ言う!?
それ言っちゃダメなやつ!
れんにいからスマホで連絡が来た。
俺はすぐ外に出る。
由衣が下りると「頑張れよ」れんにいが言って車で走り去った。
れんにいの右頬にガーゼが張ってあった。
由衣の犯行だろう。
「と、取りあえず中に入ろうか」
「うん」
俺は由衣を家に入れるが、父と母がしゃしゃり出てくる。
「これから告白か、男らしくびしっと決めなさい」
「まあ、由衣ちゃん。綺麗になったわね。お赤飯炊かなくちゃ」
話を聞かれていた!
緊張して声を抑えるのを忘れていた。
「やっぱり公園に行こう」
俺は由衣の手を取って公園に向かう。
由衣はさっきから一言も話さない。
俺は公園に着くとすぐ由衣に向き合った。
「由衣、好きだ!付き合ってくれ!」
「うん、付き合う」
「よ、よかった」
「それより、パパとママはあのままでいいの?」
父と母が2人揃ってスマホで俺と由衣を撮影していた。
「いいわねえ。結婚式のときに使えるわぁ」
「勇気を出してよく言った!感動した!」
「くっそおおおおお!」
俺は恥ずかしさで叫んだ。
「精神的にきつい。真っ白になってしまった」
「私も緊張したし」
「今日は家まで送っていく」
「そうだね」
「正直心臓に悪くて今日はこれ以上由衣と一緒に居られない」
「わ、私もだよ」
俺と由衣は由衣の家まで歩く。
「明日から学校だね」
「由衣、口調がいつもと違うぞ」
「もうギャル言葉は辞めたの!」
「そうか、明日から由衣の家まで行きたい。一緒に登校しよう」
「私の家に来ると片道で3キロ以上だよ」
「いいんだ。帰宅部だから運動になるだろ?長くても一緒に登校したい」
「うん」
由衣の家に行くと、れんにいがにやにやしながら親指を立ててきたが、右頬に貼ったガーゼが痛々しい。
「由衣の部屋には新の写真が貼ってあって眠る時にはいつも『新、お休み』と言って」
「ダメええええええええ!」
由衣の右ストレートがれんにいの脇腹にクリーンヒットした。
「きょ、今日は早く帰った方がいいよ!」
そう言って由衣は兄を玄関の中に引きずり込んだ。
「わ、分かった。また明日」
「またね~」
俺も筋トレ始めよう。
防御力は必要だ。
いや、それ以前にれんにいに問題がある。
◇
家に帰ると父と母がクラッカーを鳴らした。
テーブルにはケーキと赤飯が目につく。
本当に赤飯を作ってたのか。
「子供は何人作るのお?」
「由衣ちゃんは美人だ。お前がチャラ男から守るんだぞ」
「……今日は疲れた。静かにしてくれ」
父と母は女の子が欲しいとか結婚した後の話で盛り上がる。
まだ結婚してないからな。
由衣は気の強そうな美人ギャルに見えた。
でも本当は不器用で、気が弱くて、優しい。
前と同じギャルっぽい格好でも由衣のやさしさをもっと早く知っていたら好きになっていたと思う。
由衣には由衣の好きな髪型でいてもらおう。
由衣の服も好きなのを着たらいい。
明日からたくさん由衣と話そう。
話したいことがたくさんある。
俺はベッドで目を閉じた。
小学校の頃、俺は男友達2人と由衣の机に向かった。
俺は笑いながら言った。
「由衣、俺達3人の中で誰がカッコよくないと思う?」
由衣は困ったような顔をした後、ほっぺを膨らませ、口をとんがらせて下を向いた。
ああ、俺は、俺が最初にひどい事をしたんだ。
明日からたくさん由衣と話そう。
話したいことがたくさんある。
俺はベッドで目を開けた。
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