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第六話 【大膳と右近】
「椿右近、仰せにより罷り越しました。」
「入れ」
右近は下座に座り、大膳と相対した。
右近と二人きりになったところで大膳は居住まいを正し、話し始める。
「右近、済まぬ。其方の申す事が全て正しかった。」
「榊原様のせいではござりません。もしこれが誰かの責任であると言うのならば、それは松平主馬様でありましょう。」
「これ!滅多な事を申すでない。」
城代家老・松平主馬正方
藩内きっての実力者であり、主君が参勤交代で江戸にある間は、事実上、主馬が国元を支配していた。
藩内に主馬の専横を密かに嫌う者は存在したが、表立って主馬に逆らえる者は存在しない。
もちろん榊原大膳とて例外ではなかった。
それ故に右近の発言は問題発言であり、これがもし表に出れば右近も只では済まない。
大膳の叱責は当然の事であった。
「ご城代の事は捨て置け。今は当家の断絶を避ける方が先決じゃ。」
大膳はそう言うと一旦言葉を切り、次に右近を見据えたまま率直に問う。
「右近、其方なら如何に?」