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6 幸せを運ぶ二羽の鳥


「ねえアルタクス様、お菓子ができるなら宝石も増やせるわよね。わたくし沢山つけたいの、お願い!」



「お前!俺の魔力を上げることはできないと?――いいだろう、代わりにアルタクスがやってくれるのだろう?」



「王子殿下、我が国に侵入した敵兵の排除を。我が国の民が傷付けられる前にお早く願います!」




 ◆◇◆◇◆◇




 まだ本気を出したことがないまもるが、日々の心の支えにしているのが創作物だ。小説、漫画、深夜アニメにWEB小説も。


 某漫画の主人公が納豆巻きで女子サプリしていたように、某女優が大人なビデオで更年期開始を延期していたように、まもるはドキラブ話で女性ホルモンを活性化させていた。


 ストレス社会の息抜きにどろどろドラマは負荷が高い。少女漫画で胸キュンし、ファンタジー小説で現実逃避していた。




 日常に不満という程の不満があった訳ではない。家族を含めた人間関係に絶望という程の絶望をしていた訳ではない。


 ただ遠慮なく全力を出しても排除されない場所、不満をぶつけても許される場所。誰かの代わりではなく自分自身を見てくれる人、役に立たなくても側にいてくれる人。そういうものを漠然と求めていた。




 だから彼らの提案は渡りに舟だった。むしろ豪華客船だった。








 ある休みの日。一人暮らしの家事を済ませ、珈琲を入れ、読書に没頭していた昼下がり。


 窓辺に二羽の鳥がとまった。コツコツと嘴で窓ガラスを突く金の鳥。まもるは気付かない。銀の鳥も一緒になってコツコツ突く。それでも本に没頭するまもるは気付かない。


 もう、ガラスも嘴も心配になる程にガツガツと突きを連打して、やっとまもるが目を向けた。不思議そうに二羽の鳥を見はするがそれだけだ。金の鳥がさえずった。



「開けてくれ。」



 しばし窓の外を眺め、本を閉じる。珈琲を一口飲んで目を閉じる。ゆっくり息を吸い、ゆっくり吐く。再び窓に目を向けるとまだ鳥はいる。



「お話があるの、中に入れて。」



 銀の鳥がしゃべった様に見える。後ろを振り向く。テレビとスマホを確認する。もう一度窓に目を向ける。



「全力を出しきってもまだ足りない経験は?」


「頼りない系男子の人助けに興味はないかしら?」



 まもるはすぐさま窓を開けた。



「詳しくお聞きしましょう。」







「つまり、あなた方は異世界の神様で、この国の神様と懇意であり、愛し子の心を救う為に最適な人材をリクルートする許可を取り、ここへ辿り着いた。愛し子は聖女の召喚に失敗して、人体消失させ、アビスを漂い廃人手前。そしてあなた方の世界では魔法が存在していて、聖女として召喚され実力を示せば王族にも匹敵する扱いを受けられるということですね。」


「今決めてくれれば漏れなく特別な力が手に入るよ。」


「優しいけれども若干ヘタレな夫も、話の持っていき方次第で手に入りますよ。」


「分かりました!――準備に二ヶ月弱頂けますか?」


「時間も空間も超えるから二ヶ月くらい別に構わないよ。」


「行ったらもう戻れないのでよく準備してくださいね。」


「何かを持ち込むことは出来ますか?」


「基本的には持ち込めないね。服だけはなんとかしよう。」


「私達に勧誘されて召喚されたことは偉い人には内緒です。上手くごまかしてね。」


「早期予約特典の力とはなんですか?」


「魔力を吸い込む力だよ。吸い込んだ分は無効化しようと取り込もうと自由自在さ。」


「マニュアルはありますか?」


「あの国はみんな独学だからな~。」


「だから魔力の多過ぎた私達のこどもが酷い目にあうのです。」


「成程……教育改革も視野に入れるのですね。」


「まあ、絆の力であの子を救ってくれて、君も幸せになってくれればここの神にも面目が立つかな。じゃあ来月末に。」


「無理はしなくていいのですよ。家の前の公園でいいのですね。ではね。」


「時間は深夜零時ですね。それでは失礼いたします。」



 鳥達は窓ガラスをすり抜けて飛んでいった。まもるはその日から、来月末での退職手続き、アパートの退去手続き、家電家具の処分、パスポートと航空券手配、実家には海外で結婚すると手紙を書き、万全に備えた。





 当日は、不動産屋に鍵を返しアリバイに飛行機のチェックインをした。まあ無駄だと思うけど。諸々を売ったお金で高価な装身具を購入し、服も上質なものを身に着けた。


 もしこれで騙されていたとしたら何もかも無くしてすっからかんだ。しかしまもるはワクワクしながら食事をしたりして時間をつぶし、約束の時間に荷物としてはポシェット一つを身に着けて公園で待った。



「待たせたな。」


「素敵なアクセサリーね。転移時に紛失しないといいのだけれど。」


「構いません。何も遺したくなかっただけなので。」


「じゃあ行こう。」


「では困ったらいつでも相談してね。」


「お世話になります。よろしくお願いいたします。――あ!……ちょっと!!私が救う人って名……」




 ◆◇◆◇◆◇




 光もせず、音もせず、一瞬でまもるの姿はかき消えた。その瞬間を見た者は、二羽の鳥以外には誰もいなかった。















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