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4 Which one is to blame?



「お兄様、乳兄弟が病気なの。治してあげて、お願い!」



「アルタクスよ、あいつが俺に意地悪をしたのだ。転ばせて懲らしめてくれ、頼む!」



「王子殿下、あの鉱山の資源が国民には必要なのです。何処を掘ればいいのかだけ教えて下されば、後は我々が!」




 ◆◇◆◇◆◇




「やっとここからは私のターンですね。死んだ魚の様な目の、ダメンズっぷりもそそるものがありましたけど、ぎらつく瞳もまたギャップ萌えだわ。」



 マール・ララ・オグラこと小倉まもるを、憤りのまま睨む様に見ていたアルタクスは、まもるが巻くし立てる異世界語に毒気を抜かれたようだった。


 まもるが常に湛える淑女の笑みを、心底嬉しい満面の笑みに変えたせいかもしれない。姿勢を正してもう一度問い掛けてきた。



「あなたを召喚したのは僕ではないというのはどういうことだろうか?」


「その日あなたは異世界から聖女を召喚すべく準備をしていましたね。後は魔法陣に魔力を注ぐだけの所で、心を乱すようなことがあり、魔力が暴走した。


その魔力によって魔法陣は起動しましたが、術が発動する前に地面の崩壊が起きたのです。その崩壊とともにあった閃光は、召喚のものではなく王子殿下の魔力暴走によるものでした。」


「なぜ……それを、あなたが?」


「あそこは神殿です。神様達はご存知でしたよ。だから確かです。」


「それは……つまり、二人を殺し、閃光で大陸中に無様を知らしめただけで、僕は何も成し遂げていなかったということか……。」


「よく思い出してください。恐らく魔法陣など使わずとも聖女を召喚できた王子殿下が、なぜ時間の掛かる魔法陣を書くことにしたのか。」


「――あれは、確か……我が国の都合で振り回され、有無を言わせず故郷を捨てさせ、世界を一人で渡らせる聖女が不憫で……。」


「時間を稼ごうとしてくださったのでしょ?一日待てば雨が止むかもしれないと。」


「――そう。全ては僕の責任だから、他人に尻拭いをさせるのが申し訳なかった……。」


「もしもその時に召喚が成功していたら、この国に来たのは私ではなかったでしょう。


故郷を恋しがり、いつまでもメソメソ泣く子供だったかもしれません。怒鳴り、殴り、呪詛を吐く、怒れる女性だったかもしれません。


その時、王子殿下はどれ程の罪悪感を持ったことでしょう。魔力暴走は召喚の前に始まっていたのですから、この国に着くと同時に命が失われていたかもしれません。


あの日あの時、召喚が成功しなかったのは運命だったのです。私は王子殿下にお会い出来て嬉しかったのですよ。」


「そう……か、運命。あなたに……ララに。そのために二人が……。」


「それは違います。以前にも言いましたが自業自得です。清めた場に土足で入り込み、集中する術士に話しかけ、しかも術の行使中に魔力に関する無理難題を言ったのでしょう。


あなたは幼い頃から彼らの為に魔力を使ってきた。それはずっと彼らの意図することだった。魔力が反応するのは必然で、彼らはその時控えるべきだった。


いくら魔法陣を使っていたとしても高度で繊細な術中に魔力を感情的に揺らせばどうなるか……。やはり自業自得でしょ?」


「――僕が制御出来ていれば……」


「確かに、独学でしか魔法も魔術も勉強していない人間に、異世界人を召喚させるなんて正気の沙汰じゃありませんね。生き残った元宰相は、私が尋問し洗いざらい吐かせて王の前に引き出しました。


今後は魔力のある子供は制御を学べる様になるはずです。教育は大人の義務です。それすら与えず国の宰相ともあろう者が高度な術を行使させたのです。ほぼ彼のせいでしょ。


知っていて利用していたのですから、その点では国王も同罪ですね。あなたばかりが罪悪感に押し潰されるのはおかしいです。むしろ主犯な彼らが悪びれず飄々としているのですから。」


「父上は本当にご存知で……?」


「私が問い詰めました。認めましたよ。だからもう加害者ぶらなくていいんです。せいぜいが共犯。主犯が無罪なのですからあなたも無罪。


幼児期からの刷り込みを考えるとむしろ王子殿下は被害者ですよ。――さあ、気が済みましたか?早く私にあなたを撫でさせてください。」




 そういうとまもるはアルタクスの隣に席を移し、彼を抱きしめた。とっさに身を固くしたアルタクスも、背を優しく撫でられながら「あなたは悪くありません」と囁かれると、徐々に力を抜いていった。


 肩口を濡らすアルタクスの涙を感じると、まもるは「二十数年分のストレス物質を存分にお出しなさい」と言ってアルタクスの白い髪を優しく撫でた。





 夜も更けてきて、扉の前で待機するヒンレックには申し訳ないが、今日だけは途中で切り上げる訳にはいかない。


 元よりそのつもりで城には戻らないと告げてある。どのような勘違いをされるのかはわかっているが、どうということもない。


 アルタクスの、擦り切れて死にかけた魂を優しく癒す、それがまもるの使命なのだから。







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