16 月の女神がお仕置きよ!
閃光のままに世界が染まった様な、真っ白にモヤがかかった空間で、誰かが話す声がする。
「助けに来るの遅いですよ!というか説明が足りていなさ過ぎです。」
「君が話を聞かないで即決したのがいけないんじゃないか。」
「困ったら相談しろって言われても連絡手段ありませんでしたよ?」
「神が相手なんだから祈ればよかったのよ。実際あの子がとっさに祈ったから私達が来たのだから。」
「祈る?分かりにくい!神殿とか教会はちょっと考えたけど、廃墟だったし遠かったし。羽の一枚でも持たせてくだされば……」
ララの声がする。何の話をしているのか分からないが、とにかくララの所に行きたい。走っても走っても進まない。ここはどこなんだろう。
「それで間に合ったんですか?あの閃光、そのまま放ってたらあの国消失してたんじゃありませんか?」
「危ない所だったけど間に合った。結果オーライだね。」
「あの下衆王太子どうしてやりますか?王としての労役じゃ足りませんよね。」
「そうね、私達の愛し子を長年苦しませて来たんだものね。消しちゃいましょうか。」
「いえいえ、そうするとアルタクス様に労役が回って来てしまいますよ。そこは……ああ、王女がいたわ。」
「そうだな。王太子を放置した王に責任を取らせて、長生きさせ働かせ、王女を女王にすればいいか。」
「健康問題は何とかなりそうな程度でした。神様のお手を煩わせる程じゃありません。」
「それはよかったわ。じゃああの王太子だけ懲らしめましょうね。」
ララは……神と…太陽神と月の女神と話しているのか??アルタクスはララが遠い存在になってしまったように感じた。
「大変!愛し子が淋しがっているようだわ。」
「ダーリン、へたれてるんですか?」
「何故嬉しそうなんだ?君の趣味は普通なのか?」
「私達ベストマッチでしょ?求められてる感じがたまらないんです。」
「母性本能ね、わかるわ。あの子可愛いものね。」
「やればできる子なんですよ。思考にのめり込むから魔術師向きです。王などというものは非情で残忍な外道がなるものです。うちのアルちゃんには向きません。」
「――そろそろアルタクスを呼んでやろう、同じ雄として不憫になってきた。」
その声を切っ掛けに前に進めるようになり、すぐにララに辿り着いた。
「ララ!」
「アル様!」
アルタクスが抱きしめているはずなのに、なぜか抱擁されている感じがする。先程の話を聞いてしまったせいだろうか。だが何より先に確かめるべきことがある。
「ヒンレックに唇を許したのか?」
「いいえ。」
「ではあれは……」
「護衛と二人きりになっても問題ないように、ヒンレックは服従の腕輪をつけてくれたのです。首を切ると脅されても口づけも出来ないということを証明したのですよ。もちろん、それ以上のこともできません。いいお義兄様ですね。でも実は、あの時はアル様の許可待ちだったので、まだ魔法は掛かっていなかったのです。死の恐怖に意思の力で抗ったんですよ。結構出血してたのに……こっそり治しましたけどね。」
「そうだったのか……」
「その状態じゃ私を守れないから代わりに、とかなんとか言って急に抱え上げられてしまって。あの王太子、ガタイは良いから中々逃れられなくて……。申し訳ありません。あなたは私だけのものなのに……。あ、違った、私はあなただけのものなのに、です。」
「では今のうちに本当に僕のものにしよう。」
抱きしめたままララに顔を上げさせ、口づけをかわした。そのまま見つめ合っていると鳥のさえずりが聞こえた。周りを見ると二羽の鳥がいた。
「あ……こちらは?」
「神です、というか鳥です、という感じのこの世界の神様達です。」
「太陽神である。ピピ。」
「月の女神がお仕置きよ!チチ。」
「……鳥っぽさをプラスしていただきありがとうございます。」
「愛し子よ。加護を掛けすぎて悪かったな。魔力がありすぎて生きにくかろう。」
「私達と一緒にここで暮らしますか?」
「――神々よ。僕にララを授けてくださり感謝いたします。彼女がいる所が僕の居場所です。ララがいれば魔力があってもなくても生きて行けます。」
「地球の神に賄賂を渡した甲斐があったな。」
「縁結びの神と呼んでもいいのよ。」
「――なんか私に対する態度と甘度が違いません?」
「それは君もだろ。」
「アルタクスは可愛い愛し子ですからね。」
「まあ、可愛いは正義ですから仕方ありませんね。下にもちょいちょい遊びに来てくださいよ。鳥姿ならオッケーでしょ。声はテレパシーとかでごまかせばバレませんよ。」
「そうだな。じゃあ!下に戻るか!」
「すぐに遊びに行くわ。では!王太子に一生子作り作業が出来ないお仕置きをしに行きましょう!」
「あ、それ良いですね。各方面安心です。いざ!戻してください!」
「まっ!待ってくれ!戻ったら魔力はどうなっ……」




