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15 飲んで飲まれて依存症



 賢者カイロンの小屋に残ったアルタクスは何やら怪しげな魔具を色々当てられた。調べた結果、黒髪から色が抜け出ても、アルタクスの中にはまだ魔力があるらしい。エルフの銀髪しかり、必ずしも髪色の濃さと魔力量は比例するとは限らない。魔法は使えないのではなく、使わないようにアルタクスが無意識に制限をかけていたのだ。


 だから、何か切っ掛けがあればまた前の様に使えるようになる。しかしまた暴走させない為に、訓練は必要だ。心を揺らす存在が現れたこのタイミングで、教育を受ける環境が整うのは、アルタクスにとっても僥倖であった。




 一晩泊まり、カイロンの支度が整ってやっと城に戻れる。戸の魔法を解除すると小屋は外見のままの内装と広さに戻った。たった一日がこんなにも長く感じたのは初めてだ。カイロンは指笛で呼び出した馬に乗った。野生なのだろうか。




 昼頃に休憩を取る。この場所にはまだ新しい焚火の跡があった。ララがこの場所でヒンレックと休憩を取ったのだろうか。乳兄弟嫉妬するなど女々しいが、今まで感情を抑えることばかりしてきたアルタクスは、ララへの思いを持て余している。思うままに感情をぶつけたことなどなかったので、どう振る舞うべきか分からないのだ。


 大切な存在であることは間違いない。何もなかったアルタクスの世界を、意味あるものにしてくれた。そのララを生きる意味にしてしまっている。これは愛なのか、依存なのか。彼女に何かあった時、魔力を暴走させない自信がない。こんなダメな自分では、あのララの隣に立つ資格がない。


 まるで曇りが晴れる前のアルタクスに戻ったようだ。ララが側にいないだけでこんなにもダメになるのか。魔力に制限を掛けていた様に、心にも自ら呪いを掛けていたのかもしれない。





 休憩を終え、道のりも問題なく、時間通り城に到着した。馬を厩舎に戻すため裏庭を通る。馬と戯れるカイロンと分かれ、その先で見たものに、アルタクスは目を疑った。



 着飾り化粧をしたララと、心からの笑顔を向け合うヒンレック。そこに割り込んだ王太子が、ヒンレックの首に短剣を当てる。ヒンレックは手首の腕輪を示したが、あれはララの持ち物ではなかったか。王太子に促されるままヒンレックがララに口づけをしたように見える。短剣をしまう王太子。ヒンレックを押しのけ無理矢理ララを抱き上げた。



 何なのだあれは!たった一日離れただけで、また自分は婚約者を奪われるのか。ララがこちらに気付いた。アルタクスを見て目を見開く。王太子を押し退け腕から逃れ、名を呼びながらこちらに駆けつけようとする。ああ、まだアルタクスを忘れていなかったか。少し気を取り直したアルタクスが歩み寄ると、腕を掴まれたララが王太子に引き戻されている。「お離しください」とヒンレックが声を上げているのが聞こえる。



「アルタクス様!」


「何をしているのですか兄上。」


「聖女と護衛の不貞を暴いていた所だ。」


「弟の妻を寝取ろうとしたの言い間違いですか?だから妻子にも愛想を尽かされるのです。先程のお茶会でも泣いていらっしゃいましたよ。」


「うるさい!勤めを果たさないあの女が悪いのだ。何故従順の魔法がアルタクスにしか効かないのだ。」


「従順……アルタクス様にそんなこと!?」


「折角邪魔者を排除してこの座についたのに、肝心の後継ぎがいなくてはまた弟に奪われるではないか!」


「邪魔者を排除とはどういうことですか、兄上?」


「他でもない、お前がやってくれたのではないか。イルアンとそれを推すサイーデを消しただろう。奴らの馬鹿な願いを放置すれば、いつかお前が魔力で消してくれると思っていたのだ。」


「下衆が……」


「兄上は僕が三人に利用されていたのを知っていたのですか?」


「お願いすれば叶えてくれると教えたのは私だからな。お前も家族ごっこ、楽しかっただろう?ついでにお前も呪いの声に耳を傾け、従順に塔に篭ってくれて清々していたのに。何故十二年も経って聖女が現れるのだ。アルタクスを引っ張りだし教育改革だかなんだかで父上に媚び売りやがって。お前など私の子を孕むまで監禁してやる!来い!」



 アルタクスの体の奥から魔力が噴き出す。あぁ、また暴走する。……抑える必要もないか。また兄を消せばいいのだ。厩舎にいたカイロンが叫びながら駆けて来る。



「アルタクス!抑えろ!以前より酷いことになるぞ!」


「止まらない!ララを連れて逃げてくれ!」


「お忘れですか?私には止められるんです!私が止めなきゃ!!」



 髪が逆立ち、根元から一気に漆黒に染め上がった瞬間、勢いよくララがアルタクスに抱き着いた。ジュっ、という音がして焦げ臭い臭いが上がる。力が抜けて崩れ落ちるララを掴み直すと、紫のドレスがボロボロに焼け焦げていた。



「ララっ!」


「……私は大丈夫です。」


「僕は……君だけいればいいのに……君を傷付けるなんて…ダメな、どうしようもない人間なんだ。なんで……」



 次の瞬間、止める間もなく閃光が走った。あぁ神様……ララを助けて……






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