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13 食欲のなくなる晩餐会


 ヒンレックと城に帰る途中、昼休憩を取りながらまもるは尋ねた。



「あなたは私をどう思っているのかしら?」


「――アルタクス様を塔から連れ出して下さった救い主だと思っています。」


「相応しくないとは思わないの?」


「初めは戸惑いましたが、繊細なアルタクス様にはあなた位気安い方の方が合っているのかもしれません。あなたが来てからアルタクス様は本当に幸せそうですから。」


「そう……。あなたはアルタクス様の為に死ぬことはできる?」


「私はアルタクス様の護衛で乳兄弟ですから当然です。」


「でも今あなたはここにいるわよね。アルタクス様を守る為には、時に命令に反する行いを選択すべきこともあるのよ。」


「そうですね……。」


「私達二人で、アルタクス様を守りましょう。王からも王太子からも……運命からも。」


「――――あなたがアルタクス様の元に来てくださって本当によかった。」



 いつも真顔か強張った笑みを浮かべていたヒンレックが、初めてまもるに心からの笑みを向けてくれたのがこの時だった。






 帰り道は順調で、夕方には城に着いた。部屋に戻ると即、王太子から夕食の誘いを受けた。食事中の護衛を頼む為、ヒンレックには先に夕食を食べに行かせた。



 少しすると、王太子の指示を受けた侍女達がまもるの部屋にやってきた。そして有無を言わせず着飾らせ化粧を施した。戻ったヒンレックはまもるの変わり様に、どこでも研究室ドアの時より驚いていた。まもるはあからさまに大きく長い溜め息をついて食堂に向かった。





 食堂に入ると人払いをするつもりかコースではなく先に皿が並べられる。席までエスコートする王太子は上機嫌で「私のことはアーガックスと呼んでくれ」などと話し掛けて来る。


 案の定、ヒンレック以外は出て行った。退出しないヒンレックに目配せする王太子にまもるは言った。



「ヒンレックはアルタクス様の目ですから、退出させる訳にはいきません。」


「君に内密の話があるのだが。」


「ヒンレックの前で出来ない話は伺いません。アルタクス様が戻ってからにしてください。」


「どの道知ることだ。まあいいだろう。――――本来聖女は王妃になるものだと知っているか?」


「存じません。」


「つまり君は私の妃になるべきなのだ。」


「王太子妃様、既にいらっしゃいますよね?」


「一人でなくてはならないという決まりはない。」


「では作りましょう、決まりを。」


「それでは血筋が途絶えてしまう。」


「私には関係ありません。」


「君は私の子を産むのだ。」


「はぁ……成程。この食事、媚薬でも入っているのですか?私のお腹に既にアルタクス様のお子がいたらどうするお積りですか?」


「他人の子ではないからな。そのまま後継者にしてやろう。」


「つまり王太子妃様に男児が産まれないから、王太子から外されそうだというお話ですか?」


「――――その通りだ。そこまで聞いたからには逃げられると思うなよ。」


「いえこのくらいのことは、先日国王陛下から言及された時点で分かっておりましたので、聞いたからには、というお言葉にはあてはまりません。そもそもこの国は男児しか王位に就けない訳ではありませんよね?王女殿下がいらっしゃるではありませんか。」


「あれは体が弱い。とても王位には就けられないし、子も望めないかもしれない。」


「ではまず健康状態の改善から取り組みましょう。王女様と王太子妃様もです。不安にさせては出来るものも出来ません。異世界の常識です。孫はまだかと嫁を詰る姑のせいで子が出来ないの法則です。今回は姑ではなく夫と舅、その他大勢みたいですが。一番に親身になって寄り添わなくてはいけない子種の素が、母体を追い詰めてどうするのですか。」


「あ……何という物言いだ。仮にも未婚の淑女ではないのか。」


「媚薬を盛って、逃げられると思うなよ、などと言う方にだけは言われたくありませんね。それに際どい話の為に人払いしてくださったのでしょ?それともまさか……この場で私に子を仕込むお積りでしたか?」


「……」


「努力の方向を間違っておられます。何の為の魔法で何のための賢者でしょう。正当な方法で後継者を得られるよう、まずは努力致しましょう。そのためでしたら私も周囲の者も協力致します。」


「……」


「先程の話は聞かなかったことに致します。ヒンレックもいいわね。王太子殿下は、王太子妃様と王女殿下に私を茶会にでも誘うよう持ちかけてください。まずはそこからです。」


「――――いいだろう。」



「わたくし、無理矢理された化粧で顔が痛くなって参りましたので、これで失礼致しますね。」



 そう言ってまもるは食事には何一つ手を付けずに食堂を後にした。







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