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12 ○○○型ケンジャのふしぎ道具



 今日は賢者を探しに森へ出発する。



 我ながら図太いことに、まもるは昨夜熟睡した。人肌は安心するというのは本当だった。記憶にある限り実践したのは初めてだ。一方のアルタクスは眠そうだ。貴人らしく隠せておらず、ヒンレックに気にされているダメっぷりがまた可愛い。


 昨日は少しばかり焦ったが、それは今日に差し支えることを心配しただけで、アルタクスとならどうこうなっても全く問題ない。



 通常の装備は完璧ではあるが、異世界から持参した物に加え、考えられるだけの装備を四次元ポシェットに詰め込んだ。ポシェット自体にもまもるとアルタクス以外が物を取り出せない魔法、紛失しても自動で戻って来る魔法が掛けてある。





 城から森まで三人で颯爽と馬を走らせる。昔から運動は得意だった。この森の中に賢者がいることは間違いないらしい。探知魔法を使うと逆に逃げられるかもしれない。どうするべきか。



 まもるは森の淵でわが師の歌を歌ってみた。さらばしては困るので会いたいという風に変え、風に乗せて遠くまで響かせた。


 そして馬の進むに任せて行けば、掘っ立て小屋に辿り着いた。体育倉庫位の大きさしかない。驚くアルタクスとヒンレックを尻目に、馬から下りて声を掛ける。



「ごめんくださ~い。」


「ララ?!」


「あれ?こちらでは余所のお宅を訪ねる時はなんて言うのですか?」


「――通常はドアノッカーを鳴らししますが……」



 馬から降りたヒンレックが言葉を濁す。そんなものはないからだ。ならばご免下さいでいいではないか。戸を叩きながら声を掛ける。



「ごめんください、賢者さんいらっしゃいますか~?」


「ララ?!?」


「もう、何ですか?庶民のやり取りはこんなものですよ。」


「……」


「ヒンレックもお坊ちゃまなの?」




「――やかましい!なんじゃいお主らは。」



 エルフ様が降臨された。ザ・エルフだった。見た目は若いのにじじ言葉だった。まもるが二次元との境目に迷い込んでいる間に、馬をヒンレックに預けたアルタクスが挨拶をしていた。賢者は名をカイロン・ケルコバートと言った。



 小屋に案内してもらったのだが、崩れそうな戸を潜るとそこはだだっ広い研究室の様な部屋だった。


 思わず「どこでも研究室ドア?」とつぶやくと、「お主、異世界人か」と問われたので「Yes、I am.」と答えた。


 アルタクスの、ビクッとしてからのもう一度出入りが、この世界の人間のリアクションとしては正解だったらしい。――ヒンレックは一瞬立ち止まっただけだったが……。アルタクスってばカワユス。



 なんとカイロンは緑茶を入れてくれた。感動していると「ニホンジンか」と問われたので「いとおかし」と答えると翻訳されなかった。不思議だ。



 落ち着いたところで、アルタクスは、自分が魔力を暴走させて人を消したことがあること。この度、国主導で子供に魔法教育を施すことになったこと。講師として賢者に城に来てほしいことを告げた。



「城なぞいやじゃ。」


「――――では塔はいかがですか?魔術師と言えば塔でしょう。丁度住み心地のいい塔が城の近くに余っています。いいですよね、アルタクス様?」


「うん。」


「わしは魔術師じゃなく賢者だ。」


「賢者も塔ですよ、当然。異世界の常識です。森の庵は魔女ですね、基本的に。エルフなのでツリーハウスもまあ可ですが。」


「――――わしがエルフであるとなぜわかった?」


「え?見るからにエルフですよね??美形で若いままで耳が尖ってて髪が綺麗で。異世界の常識ですよ。」


「ううむ……わしの異世界人研究はまだまだじゃな……。分かった!この娘が助手になるなら講師になってもよい。」


「カイロン殿?!」


「私……こちらのアルタクス様の妻で、王子妃なんですよ、ほぼ。ですので夫が許す範囲であれば可能かと思います。そもそも教育改革は私達夫婦の事業ですしね、ほぼ。」


「それでほぼよい。異世界の話を色々と聞かせてくれ。」


「契約成立ですね。こちらも是非賢者様の異世界知識を伺いたいです。そのドアも塔につければこの部屋に繋がるのですか?そもそもこの部屋はどこにあるのでしょうか?」


「さすが、いい勘をしておる。じゃが秘密じゃ。」




 カイロンには秘密の準備が必要だそうで、後で合流したがった。それでは逃げられてしまいそうで、まもる達は食い下がった。


 するとまもるだけなら滞在してもいいとカイロンは言った。流石にそれは許可できないとアルタクスが答え、結局アルタクスが滞在し、賢者カイロンと同行することになった。


 カイロンはアルタクスが神殿を吹っ飛ばしたことを元々知っており、実は色々調べたかったと白状した。銀髪の賢者カイロンと白髪のアルタクス。どちらも美形で細身で非常に絵になる。


 まもるは思わずアルタクスに縋り付き、「賢者様と浮気しないでくださいね」と懇願した。二人は顔を引き攣らせながら「「する訳ない!」」と答えた。息がピッタリで不安だ。



 後ろ髪を引かれる思いでまもるとヒンレックは賢者の小屋を後にした。野宿どころか日帰りの旅だった。








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