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11 探しものは見つけにくいので



 塔を出た。


 乗馬の為ではなく、居住空間を城に移した。既にララによって整えられていたので身一つで出た。思い入れのあるものなど、この十二年で一つもできなかった。


 城での部屋は客間だ。アルタクスとララは並び、ヒンレックも向かいの部屋だった。




 これから十二年振りに国王に拝謁する。城内の者を怖れさせない為、ララをエスコートして歩く。ヒショではあるが婚約者でもある。


 昨晩ララが城に戻らなかったことを既に知っている者も多いらしい。あちらこちらで噂されている。


 ララは全く気にしていないようで、むしろ「アルタクス様にはご迷惑をおかけします」などと言ってくる。「構わないよ」と答えたが、何故もっと気の利いたことが言えないのか悲しくなる。





「国王陛下、並びに王太子殿下。長らく不義理を致しまして申し訳ございませんでした。」


「息災でなによりだ。あれだけ出たがらなかった塔から呆気なく帰還する程だ。婚約者とは上手くやっている様だな。」


「彼女のお陰で外に出る気になれました。周囲ためにも今後寄り添って生きていきたいと思います。」


「うむ、それがよいの。王太子に男児ができればわしは引退じゃ。その前にアルタクスが伴侶を得られて安堵した。」


「夢の神託により手掛ける予定の、魔法教育の制度化にアルタクス様も賛同してくださり、共に動いてくださるとのことです。つきましては指導者足り得る方をご紹介いただきたいのですが、いかがでしょう。」


「そうだな……森の賢者殿はどうだろう。神出鬼没でつかまえるのは大変かもしれないが。」


「あぁ、それがよいの。あの者もマールなら手懐けることができるやもしれぬ。戻ったら結婚式じゃな。準備ははさせておくゆえ、希望を女官に伝えておく様に。」


「――賢者の所へは馬車では行けないから、マールも少し乗馬を習ってから出発するといい。」


「「畏まりました。」」






 ララの勧めで少しでも馬に乗っておいてよかった。基本は昔に習得済みだ。勘を取り戻せば直ぐに乗れる。ララも体を動かすのは得意なようで、兼ねてから一緒に練習していた成果が出ている。ヒンレックはアルタクスが塔で書類仕事をしている時に騎士達と訓練していたので問題ない。





 ほんの数日の準備期間を終えて明日が出発だ。


 城に部屋を移してわかったことだが、ララは、本当に色々なことを気にしない(たち)だ。並び部屋の夫婦仕様の扉から、普通にアルタクスの部屋に入ってくる。


 城中に実質夫婦だと思われているのだから気にするだけ無駄なのだそうだ。今夜もやって来たララは、いつも浮かべている笑みもなく、深刻な様子で会話を始めた。




「私は本来、切り札は最後まで取っておくタイプなのですが、戻ったら結婚、などと王がフラグを立てやがったので、夫たるアルタクス様にはお伝えしておきます。念のため、お耳を拝借しても宜しいですか?」



 そうして拷問の様な耳元の囁きを何とか聞き取った所によると、ララは魔法が使えるのだとのこと。無効化だけではなかったのか。


 余り練習は出来ていないが多少は身を守ることが出来るので、いざという時はアルタクスは自分の身を守るようにと。




 自分が妻を守る、と宣言出来ない辺り何とも情けない所ではあるが、アルタクスが落ち込んでうなだれるとララが喜々として抱きしめてくれる。


 非常に情けない上に、辛抱もできないとなると立つ瀬も無いので、何とか紳士の対面を保つ。




 明日から、場合によっては野宿もありえるのだ。このような安穏とした時間を過ごせる幸せを噛み締める。だから少しくらいいいだろうか。これだけララから接触してくるのだから触れられて嫌だということは無いだろう。



 身を離し顔をのぞき込む。少し驚いた顔をしているようだ。そういえばアルタクスから行動を起こしたことは未だなかった。


 頬に手をあて親指で撫でる。柔らかい。しっとりしている。普段全く化粧をしないララは肌も傷まないのかもしれない。


 反対の手でララの前髪をかき上げる。普段隠れている小さい額と形のいい眉が現れる。これを見られるのは自分だけだと思うと何か込み上げて来るものがある。


 深夜の風呂上がり、ガウンを着ているが下は夜着で……。アルタクスは自分がこれ程までに辛抱強かったことに感謝する。


 潤んできた真っ黒の瞳をじっと見つめる。耐え切れず伏せられた睫毛を見て、思わず額に口づけた。そのまま抱きしめる。このまま離れてしまうのが惜しくて、アルタクスはそっと囁いた。



「あの塔での最後の夜の様に、抱きしめあったまま眠るかい?」



 しばらくの逡巡の後、小さく頷いたララを抱き上げ、アルタクスは自分の寝台に向かった。







 


 



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