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短編集

見知らぬ駅

作者: 稲葉小僧

自分自身、初のホラーです。

あえて、怖さを薄めてみましたが、いかがでしょうか?



私は今、とある駅にて終電の発車を待っている。

このところの残業(と言う名の徹夜)続きが、ようやく身をなして、今日は何日ぶりか忘れるほどの帰宅途中だ。

疲れが、ドッと出てきてしまい、いつの間にか眠ってしまう。

まあいいか……終電は何回も乗っている。

このまま終着駅まで眠ってしまっても何らデメリットはない。

本当なら終着駅一つ手前で降りるんだが、終着駅まで行ってしまっても歩くのが20分ほど増えるだけ。

そう考えて、私は意識を手放すこととする……


ごととん、ごととん、ごととん……

軽快なレール音が、ブレーキかけたか間隔が間延びするようになってきたので、私は目を覚ました。

ん?

普通、終着駅または、手前駅に着く前にアナウンスがあるはずだ。

何も聞こえない……

ここで、ようやく私は気がついた。

この列車、人気ひとけがない。

今現在、この列車に乗っているのは私だけか?


車両の端から端まで移動してみたが、やはり乗客は私だけのようだ。

ワンマンカーなのだろうか、車掌の席には誰もいなかった。

この路線、たまにワンマンカーになる時があるそうなので、それは良い。

しかし、速度が落ちてもアナウンス全くなし。

この列車、どの駅に着くんだ?

運転席はブラインドで客車スペースとは切り離され、前方は真っ暗な闇が見えるのみ。


あれ?

前照灯は?

と思ったが、光が横に広がらない特殊な前照灯なんだろうと自分で無理にでも納得する。

しばらくすると、闇の中に薄ぼんやりと、ホームの端と端の蛍光灯の二本だけが点いている駅が見えてきた。

終着駅ではなさそうだが、とりあえず駅名の確認をすれば、どのくらいで到着するのか推測できるだろう。


思いの外、時間がかかったように思えたが、列車は見知らぬ駅に着いた。

私は思わす飛び出して、駅名看板を確認する。

駅の中央部にあるようなんだが、その付近の蛍光灯が切れているようで、文字が見えない。

百円ライターで照らし、ようやく駅名が見える。


「しらづ」


不知津と書くらしい。

手前と次の駅名を確認する前にドアを閉める音楽が鳴ったので、私は慌てて電車に飛び乗る。

しらづ?

そんな駅名、知らないぞ、私は。


電車が加速し、やはりアナウンスも無いまま、電車は次の駅へ向かう……

いくつの駅に着き、いくつの駅を過ぎたのだろうか……

私は疑問を通り越し、確信に変わった推論を得る。

この電車、全く違った路線のものではないか?

または、どこかで違う路線に入ってしまい、自宅アパートとは違う方向へ向かっている。

下手に降りられないな、こうなると。

スマートフォンは案の定、範囲外。

もしもの時にと別に私用で持っている携帯電話も範囲外。


いつまで動いてるんだ?

この電車。

もう私が起きてから1時間以上。

いくら何でも、通常の路線なら終着駅近くへ来ているはず。

電車が次の駅に着く。

誰か乗ってきた。

終電に乗ってくる?

そんな疑問が湧くが、自分もそうだと思い隣の客車へ乗ってきた客を確認しに。


おかしい……

人影が乗ったのは確認している。

ちなみにさっきの駅名も判明している。


「不忘津」


わすれづ、と読むようだが私の知らない駅だ。

一瞬、パニックになりそうになるが、ここで飛び降りようが見知らぬ駅に着いてから降りようが同じだと気づき、冷静を取り戻す。

もしかしたら、この電車、終着駅など無いのかも知れない……


それからも電車は見知らぬ駅に止まり、人影は一人から数人乗ってくるが降りるものはいない。

しかし客車に私以外の人は誰も見えない。


ああ、そうか。

私は一人で納得する。

この電車は、この世界が弾き出した者たちを運ぶ電車なのかも知れない。

私も、この世界では要らない者だったか……


「次はぁ、終点、**駅です。この電車は、この駅までです。どなた様も、お気をつけて、お忘れ物の無いようにご注意くださいませ」


**駅?

全く知らない駅名だ。


電車が見知らぬ駅に到着し、何処に乗っていたのか数十人の乗客と共に私は終着駅に降りる。

降りて電車の扉が閉まる。


電車は動き出し、その途端、駅の照明が全て消える。

私は何も見えないほどの闇の中、他の人たちの気配を頼りに改札口へと向かう。


長いな、この駅のホーム……

もう10分近く歩いているが、まだ階段に到着しない。

集団で移動しているのだから、この方向で間違いないのだろう。

しかし、いくら探しても見えなかった人影が、ここまでいるとはね。

まあ、たった一人で取り残されるよりはマシだろうが。


えらく歩いたように見えたが、ついに改札口へ。


「お客様、お一人ですね。きっぷ、回数券、定期券をお見せください」


いつも使っている定期券を見せると、


「あー、途中で切り替え工事やってたんで間違ってしまったんですね。緊急工事でしたので表示が間に合わなかったんです」


緊急の理由を聞くと……


「その手前の駅で通勤バスと快速列車の衝突事故が起きましてね。終電前だったんで周知が遅れてしまったんです。こちらの不手際ですので運賃の不足分は結構です」


終電なので泊まるところもないと言うと、


「ここは田舎ですが、けっこう働いてる人も多くてですね。駅前にビジネスホテルがあるんですよ」


と、駅前ホテルを指差す。


「では、ごゆっくりお休みください」


と、駅員に送られてビジネスホテルに入る前に駅名を確認する。


三昧


さんまい、と読むようだ。

そうか。

私は納得した。

あの人影たちは衝突事故の犠牲者だ。

ちなみに三昧というのは、私の地方の方言で「火葬場」のこと。


私は少しゾクッとしながらも、この世に要らない人間はでなかった自分に安心してビジネスホテルへ入っていった……


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