No.2
粉雪がちらついている午後3時。
今年はコートを着る程の寒さではないが、顔が半分覆われた
赤いマフラーには細かい雪が降りてくる。
少し顎にあたる感覚が冷たくて、条件反射で背筋が伸びた。
ぼうっと立ちどまって雪をみていると、
「由希、こっちにおいで。」
そういうと、車道側を歩く拓人に引き寄せられる。
彼とは大学2回生のころから付き合っている。
身長が20センチも違うから、彼を斜め下から見つめている。
横顔は顎がシャープで、鼻が高めの拓人。
見つめていると、気づかれた。
「なんだよ?」
「うん、私を見つけてくれてありがとう。」
そういうと、彼が照れたように強引に自分の上着のポケットに私の手を
入れてくる。
「当たり前だろ、こんなチビで頼りないやつ俺以外の誰が面倒みるんだよ。」
そういうと、半ば強引に引きずられるように二人で歩き出す。
彼の耳が少し赤くなっている、
「拓人、待って」
「何だよ。」
止まった彼に、由希はかかとをあげて、そっと耳にキスをした。
彼が、真っ赤になるとそれだけで嬉しくなった途端に、くしゃみが豪快に出た。
「おまえ、台無し。」
そう言われながら、彼に顔を拭かれる。
「どっか入ろうか。」
「少し先に、お姉ちゃんから聞いたカフェがあるはずだよ。」
「行こうか。」
そうして、たどりついた重厚な木製の扉を押してカフェにはいる。
「いらっしゃいませ。」
そういうと、オーナーが出迎えてくれた。
「今日は、雪が降っているのですね。」
「軽くですけどね。」と拓人が言う。
席に着くとメニューを見て、呟く。
「ハーブティーって俺あんまり馴染みがないんだよな。」
「私も。」
オーナーは、
「よろしかったら、お試しください。
必ずお気に入りの一杯をご提供します。」
「へー、じゃあ、俺は辛めのものでよろしくお願いします。」
「かしこまりました。」
「私は、お任せで。」と由希。
店内はしっかりと温まっており、また外との急激な変化でくしゃみを
2回した。
「大丈夫か?」
「うん、鼻がむずむずするだけだよ。」と笑う。
2人で話していると時間はあっという間に経ち、オーナーが
うすい黄色の液体の入ったティーポットと空のカップ、
もう一つ8割がた注がれたカップを運んできた。
少し甘い香りが鼻先を擽る。
「こちらは、エルダーフラワーとリンデンのブレンドティーと
エルダーフラワーのブランデー割りでございます。
ごゆっくりどうぞ。」
そういうなり、拓人は微かに香るほろ苦い洋酒の香りが気に入ったらしい。
「ブランデーか、いいかも。」
由希は一口、口に含むと、
「甘い香りがひろがるよ。優しい心地になれるみたい。」
その笑顔を見ながら、拓人はブランデー割りを飲み始める。
「うん、健康には良いんだろうな。
俺はどっちかと言うと珈琲にブランデーの方が好きかもしれない。」
はっきりという拓人の裏表のなさは好きだけど、こういう場所では
困るなと思いながら、
「ねぇ、体がポカポカしてきた。」
「俺も。」
そう騒いでいる様子がつたわったのか、オーナーが言う。
「エルダーフラワーは万能の薬箱とも言いますから、風邪の引き
はじめにとても良いのです、お大事に。」
とくすっと笑われた。
自然にそういわれるので、拓人もさりげない気づかいを気に入ったようだ。
「へえー、薬草かぁ、他にどんな効能があるんですか?」
「アレルギーの緩和に、利尿作用でしょうか。」
「ハーブって、いわば漢方みたいな?」
「まぁ、いうなればそうでしょうか、自然治癒力を高めてゆくものです。
数種類のハーブを組み合わせる事で、お客様の体調を整える事が喜びです。」
「喜びが仕事ですか。羨ましいですね。」
由希が飲み終わる頃、話も尽きたので、店を出る。
雪もすっかり止み、カップルの後姿を見送る。
「俺にもあんな頃があったな。」
そうオーナーは呟いた。