6章
唐突で恐縮だが、ここで少し春日井桜の話をしようと思う。
春日井さん、春日井桜さん。
僕と同じく私立豊岡高校に通う僕と同じ二年生。
学年主席、品行方正、御淑やかで、親しみやすく、物腰の低く、巨乳なおよそ欠点らしい欠点のない少女である。
また、生徒会において書記を務める彼女はその成績も相まって学校側からの信頼も厚い。
そんな彼女を真面目過ぎると評価する人も少なからずいるし、確かに低い物腰ではあるものの意外と良い悪いをはっきり述べる彼女に、正しすぎる彼女に煩わしい部分が、息苦しく感じざるを得ない部分がないといえば、それは嘘である。
そして、同時に彼女はとても賢い人だ。
学年主席という言葉が表す通り勉強が出来るというのはその通りなのだが、それだけでなく、他者の心理理解能力、論理的思考能力、記憶力に発想力それら全てが抜きん出ている。
彼女はとても賢い。
彼女はとても正しく、とても賢い。
そんな彼女を僕は、
とても可哀そうだと、感じていた。
正しいことは羨むべき良いことだ。
賢いことは羨むべき良いことだ。
だが、正しくて賢いというのはどうにも羨ましいと思えない。
良いことのように感じられない。
寧ろ憐れむべきことのような気さえする。
まあ、こんなのは僕の勝手な妄想だ。
彼女も僕みたいな人間にどうこう言われたくはないだろうし、僕自身無意味なこと言っているという自覚はある。
実際本当はどうでもいいことなのだ。
春日井さんが成績優秀だろうと、品行方正だろうと、御淑やかだろうと、親しみやすかろうと、物腰が低かろうと、まあ巨乳なことを除いて、それらは、今は全くもってどうでもいい事柄なのだ。
そもそも彼女とはとんど接点もなく会話したこともないのだが、それでも僕は彼女について述べた程度のことは知っていたし、思案していた。
今回はその理由となる事こそが重要なのだ。
その理由とは、
彼女が、春日井桜が僕の幼馴染、夏賀花火の親友だからである。
とまあ、長々と春日井さんについて語ったわけだが、当然そこには理由がある。
それは、花火が散歩行くと言い教室から出て行ってすぐのことだった。
良くも悪くも花火が離れたのならば静かに考え事が出来ると、そう踏んだ僕だったがしかし、大きく踏み外すこととなる。
突然の訪問者によって。
「冬木君!」
そう呼ばれて僕は振り向いた。
「何か用?春日井さん。」
そこには春日井さんがいた。
先ほど説明した通り、巨乳で巨乳な春日井桜さんが其処にいた。
何の用だか解らず一瞬戸惑った僕だが、しかし考えてみれば今日この日、彼女が大して話したこともない、学年は同じでもクラスの違う僕に朝から話しかけてきた理由など、その要件など一つしかない。
よって春日井桜はこう言う。
「花火が重症だって、まだ目を覚ましていないって本当なの?」
深刻そうに、気が動転した様子で彼女は言った。
そういえば「桜に呼び捨てで呼ばれているのはあたしだけなんだぜ。」と前に花火が自慢していたなと、そんなことを思い出しながら僕は答えた。
「本当だよ。」
ここで嘘を吐く気はなかった。どうせすぐに解る事だ。
それにきっと春日井さんは理解している。細部に多少のずれはあれど、今この学校に出回っている噂は概ね正しいと。
きっと僕の所に来たのも最終確認なのだろう。あるいは、概ねという言葉から僅かに洩れる数パーセントに期待しているのか。
僕はそんな彼女を見ながら病院に向かう自分を思い出した。
電話を受け家を飛び出した自分、あの時の僕も同じような顔をしていたのだろうか。
そんなことを考えていた僕に対し、彼女は頭を真っ白にしていたようだ。
言うまでもないが白くなったのは頭の中であって、某闇医者よろしくストレスで髪が急に白くなったという訳ではない。
彼女の髪は漆のように艶やかな黒のままだ。
「そ、そうだ。病院は?今どこに入院しているの?それに病室も。冬木君知らない?」
その質問に僕は少し驚いた。
春日井さんが、僕の知る中で誰よりも正しく、誰よりも賢い春日井さんが、
「知ってはいるけど。」
「本当?!出来れば教えてくれないかな。」
こんなミスを犯し、しかもそれに未だ気づいていないことに。
「それはもちろん構わないけど、ここで?」
春日井桜は有名人だ。学年主席であり生徒会役委員であり美人、しかも巨乳とくれば当然である。
そんな彼女が普段からは想像も出来ないほど慌ててやって来て、その話題が今話題の夏賀花火についてであるなんて解ればクラスメイト達の視線が集中しないはずがないし、そんな中で幼馴染の個人情報を流せるほど僕の口は軽くない。
「あ!そ、そうだね。その通りだ。ごめんなさい。」
僕の言葉に、その意味に、春日井さんはすぐに気が付いたようだ。
素直に謝られた。
「そうだ。じゃあメールアドレス交換しようよ。もしかしたら病院の場所以外にも尋ねたいことが出来るかもしれないし。」
そう言って春日井さんは携帯を取り出した。
「えっ」
マジで?
まさか彼女のメアドをゲット出来るなどとは露にも思っていなかった僕は、ちょっと舞い上がってしまった。
ん?でも、そういえば春日井さんには彼氏がいたんじゃなかったっけ。花火の噂に交じってそんな話も聞こえた気がする。
何でも夏休みの終わりにどっちかが告白してどっちかが了承したのだとか。
誰かと付き合うという経験をしたことのない僕にはよく解らないがそんな簡単に男に連絡先を教えてよいものなのだろうか。
とはいえ本人がいいといっている以上、僕に断る理由はない。むしろ僕としては嬉しい限りである。
こうして僕らは互いの携帯に互いのアドレスを保存し合った。
新キャラが登場しました。
昨今巨乳黒髪の委員長キャラはそこまで人気が無いようにも感じますが、やはり安定の魅力があるものですね。
まあ彼氏いますけど