5章
僕は基本的に自転車で通学している。
学校まではだいたいニ十分程度の距離。
自転車をこぎながら横をちらりと見た。
「ふっふふーん。」
と花火が機嫌よさげに、飛んでいた。
まあこいつ、基本的に浮いてるから特に疑問はないし、幽霊に幽霊らしくブリッジでもかましながら追いかけて来られても、絶叫して全力で逃げるほかないので良かったのかもしれない。
因みにだが、花火とのこうして学校に向かうのは久しぶりだったりする。
昔はいつも一緒に登下校していたが、花火が部活に入り朝練が始まってから時間が合わなくなったのだ。
今では精々テスト前の部活禁止期間くらいとなっていた。
でもまあ、だからどうというわけでもないのだ。
会おうと思えばいつでも逢えるし、遭おうと想ってなくてもわりと遇う。
家が隣なのだから当然だ。
ただそれでも互いの道が少しずつ、しかし確実に分かれてきていることに寂しさを感じないかと言えば、やはりそれはどうしようもなく嘘である。
あまり認めたくはないけれど、花火には絶対に言わないけれど。
そんなことをしみじみと考えながら、時には花火と駄弁りながら、だらだらと進むこと二十四分、僕たちは僕たちの通う私立豊岡高校に辿り着いた。
多少の歴史とそこそこの偏差値を誇るこの学校に、僕や花火は去年の春進学した。
この辺りでは一応進学校と言う事で他の学校のことを碌に調べずやってきた僕からすれば、平々凡々よくある極々普通の高校としか表現できない。
しかしまあ、平凡というのは案外悪いことではないのかもしれないと、この後僕は思うこととなる。
校舎に入ると否応なく聞こえてくる同門達の話声。
いつもならバラバラに散乱し分散し、意識を持って行かれることなどそうはないのだが、今日は違った。
夏休み明け、始業式当日、玄関口から自らの教室に着くまでの僅かばかりの距離に何度も何度も何度も違う人間が話す同じ話題を聞いた。
それは、つい先日この学校で起こった異常。平凡から遠のいた事象。
我が校の生徒の飛び降り事件である。
場所が場所だけに、事が事だけに皆が食いつかないはずはなかった。
誰も彼もが計ったように噂する。
花火を知っている人間も、花火を知らない人間も。
無責任な推論が飛び交って僕としも居心地のいい空間とは言えなかった。
さしもの我が幼馴染でもこれは堪えるかもしれない。
それは噂話のネタにされることにではなく、やられっぱなし、言われっぱなしのままにしておくしかないこの現状に対してだ。
僕はチラリと花火の方を見た。
「ん~ん~~♪」
・・・・・・鼻歌を奏でてやがる。
花火は特に気にした風もなく、特に我慢してる風でもない。
これじゃあ心配した僕が馬鹿みたいじゃないか。
「ん?どうしたんだ、雪人。」
僕の視線に気が付いた花火がきょとんとした。
「なんでもないよ。」
と、周りに聞こえない程度の声で返す。「この鈍感女がっ!」という言葉には封をして。
そんなこんなで自分の教室の自らの席に着く。
勿論、僕にとっての「自分」で花火にとってではない。
席は当然だが、クラスも僕と花火は違っていた。
花火は
「ちょっと散歩してくる。」
と言って何処かに行った。
毎日来ていた学校にわざわざ見るようなものが、行くような場所があるのかとも思うのだが、まあ恐らくその頃には入れなかった所にでも入るつもりなのだろう。
あるいは自分を見ることの出来る人間を探しにでも行ったのかもしれない。
僕はそう納得することにした。
屋上という選択肢を吞み込んで。
章ってどこで区切ればいいのかよくわかんない。