1章
僕には幼馴染がいる。
生まれた時からお隣さんの幼馴染が。
隣に住んでいて同い年、そんな僕らが仲良くならないわけがなかった。
・・・いや、仲が良いのか悪いのかはよく解らない。
しょっちゅう喧嘩するし、味の好みも色の好みも物語の好みも、僕らは全然かみ合わない。
極端で正反対。
でも何故か、一緒にいる。
喧嘩しても次の日には笑いあって、でもその次の日にはまた喧嘩して。
きっとこれは兄弟みたいなものなのだろうと思う。
僕は一人っ子だし、あいつも一人っ子だから本当の姉妹がどんなものかは解らないけど。
ただ、一緒に居て当たり前。
ただ、隣に居て当たり前。
僕はあいつのことをそう思っていたし、あいつもきっと僕のことをそう思っているのだろう。
そんな関係。
熱くもなく、冷たくもない。
誰に対しても熱いあいつには珍しく、誰に対しても冷たい僕には珍しい。
僕らはそんな、ぬるい関係だった。
そんなあいつのことを僕がどう思っているかだが。
僕はあいつが嫌いだった。
理由は至極簡単である。
今日は八月二十四日、夏真っ盛り、気温は三十八度。
現時刻、午後一時三十分、僕は家の前にいる。
僕は今日、ここで待ち合わせの約束をしていた、あいつの発案で強制的に。
そして約束の時間は午後一時丁度、以上である。
「何してんだ、あいつ・・・」
僕は流れ出る汗を拭いながら、恨みがましく呟いてみる。
・・・いや、解ってる。三十分も来ないならあいつの家のチャイムを鳴らせばいいことくらい。
だって、あいつの家は隣なんだから。
でもなあ、なんかそれじゃあ僕、あいつと出かけるのを楽しみにしてるみたいじゃないか。
待っても来ないからって、態々家に押しかけて。
「おい、何してるんだよ。早く行こうぜ‼」とか、それじゃあ昨日散々「は?嫌だよ。」とか「怠い」とか「めんどい」とか「外出たくない。クーラー最高!」とか言って誘いを拒否してた僕がツンデレみたいじゃないか。
おっと、暑さのあまり思考がおかしくなってきた。
もう帰ろう。誘っておいて三十分も遅れてくる方が悪いんだから、後五分待って来なかったら、もう帰ろう。
そして更に十分後、あいつの家の扉が勢いよく開いた。
「あ!ごめんごめん雪人。待った?待ったよな?でも仕方なかったんだよ、クーラーのかかった部屋ってなんか眠くなるだろ?しかも飯食った後だったからさあ、で、ちょっとだけ寝ころんだんだけどそのままぐっすり寝ちゃってさ。まあでも、その割に四、五十分で起きたんだからあたしって結構偉いよな。な、雪人もそう思うだろ。褒めてくれてもいいんだぜ。」
何故だろう、四十分も待たせておいて最終的に褒めろとまで抜かした幼馴染に怒りが全く湧いてこない。というか、なんの感情も湧いてこない。というか、暑さも感じない。
僕はいつの間にか心頭を滅却してしまったようだ。
「てか雪人、なんでお前外で待ってんだ?家ん中にいるとばかり思ってたんだけど、もしかして四十分も外で待ってたのか?」
ず、図星・・・。
「そ、それよりどこ行くんだ?お前のせいで時間推してるんだから急いだ方がいいんじゃないのか?」
よって、話を逸らす。
「そうだった!こんなとこで無駄話してる暇はねえんだった!行くぞ、雪人。」
「お~、ってだからどこに行くんだよ?」
「いいから行くぞ。付いて来い!」
「・・・はいはい。」
そうして今日一日は身勝手で我儘で横暴な僕の幼馴染に連れまわされる形で終わった。
家に帰った僕が瀕死の重傷を負っていたことは、言うまでもない。
これが、僕が夏休み、僕の幼馴染である花火と過ごした最後の日である。
一章って書いたけど、絶対短いよね。