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然れど、去れども、死は来ない

作者: あまみん

衝動的に書きたくなった短編です。


アクションなんかは全くありませんが、個人的にはいい仕上がりになったかと思います。


拙劣な文ですが、宜しければお楽しみください。

------呪い

それには様々なものがあるだろう。

作物が出来なくなるだとか、病気になるだとか、病弱になるだとか、何日か経つと死ぬ…だとか。


俺もそんな呪いをこの身に受けたんだが、その呪いは非常に厄介だ。


…ん?なんでそんな厄介なもんに掛かってるのにこんなにピンピンしてんのか?

そりゃ、俺の呪いが、かかったその瞬間から老いることも、死ぬことも無い

『不老不死』の呪いだからだよ。


--------『不死者レオンの日記』より。


-------


「あー、ダルい、もう生きるの疲れた、死にたい、おじいちゃんになってみたい…あーそりゃ魔法使えばなれるか。あーでももうとりあえず死にたい、なんもしたくない、早く楽になりたい」


こうボヤく白髪赤目の男は、『レオン=ノースヘルト』本来、平民に苗字が無い時代から生きているためノースヘルトという名はないはずなのだが、『ノスフェラトゥ』(不死者の意)と呼ばれていたのが、だんだん崩れていき、ノースヘルトという苗字になったらしい。


「あー、なんもしないならしないで苦痛だからな〜、もう知らないことも殆どねえし、人と関わるのも大概疲れたし、つか人と会えば毎回襲われるし、面白いもんもだいたい作ったし、美味いもんなんかも大概くった、逆に食ったら死ぬとかいうのも食った、美味かったけど喉痛かったなあれ。あーもうとりあえず早く死にたい」


見ての通り、この男は死にたがりである。不老不死の呪いにかかっている為に死ねず、永き時を生き続けた。そのためか、生そのものに飽き始め、飽き続け、限界になり、彼の欲求は訪れることの無い死となった。


「つーか誰だよただの一般人を不老不死にしやがって許さねぇ、もうどうせ死んでるか?いや俺にこんな呪いかけたんなら自分にかけててもおかしくねぇわな、生きてる、いっぺんぶん殴りたい」


このぶん殴りたいという言葉を何度言っただろうか、それはわからないが、レオンに呪いをかけたのは呪いの神である、彼はどう足掻いても、神とまみえるのは生きてる間は叶わないだろう。不老不死だからこそ、死んでからしか叶わないものは叶えられないのだ。


「はー、もういいや、とりあえず寝よ…」


毎日寝たり食ったりばかりているが、彼にかけられた呪いは『不老不死』。

体が老いることは全くないのだ、その上に、人ではありえない時間の鍛錬を積み、武において、ひいては魔法においても、彼はエキスパートだ。そんな彼は、自分が病気にかかれば自前の回復魔法なりで強引に治すなどするし、体の機能に異常がでても直ぐに回復する。言ってしまえばクソチートである。


「この辺りは山ん中でも、動物もすくねえ場所だし、周りにある木のおかげで陽も差さないしな、来客もないからひたすらに眠れる、何も感じることの無い睡眠が重要な俺にとっては、最高の家だな、うん」


何度も繰り返された独り言をこぼし、魔法で着けていた明かりを消すと同時に、玄関のドアをノックする音が聴こえた。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか!?」


鈴のような、と言ったらいいだろうか。澄んだ綺麗な声だ。

そんな声が必死で呼びかけてきている。


「…なんだ?こんな場所に来客か?」


こんな場所に人、それも女が来る。

それを怪訝に思いながらも、この山奥の家の主人である男はドアを開ける。


「どうしたお嬢さん、こんな場所に何か用かい?」


「はっ!!良かった、人が居てくれたのですね、少し、このお家に入れて頂いても大丈夫でしょうか?」


「あー、うん。いいぞ、入ってけ」


「ありがとうございます!」


不老不死であるレオンは、相手がどのような人物か一瞬で判断がつく。そのレオンセンサーが金髪少し抜け感あるお淑やか美少女は無害であると判断した。


「それで、こんな所にどうしたんだ?」


「実は、迷ってしまいまして…」


トホホと、そう自分に呆れたように笑いながら宣う


「ふーん、狩りかなんかしてたのか?」


「正確には行く途中ですね、行動を共にしてた人達とはぐれてしまって」


丁寧な言葉遣い、整った身嗜み、崩れない姿勢。

最初からわかっていたことだが、レオンは心の中で「貴族か…」とため息をついた。


ため息の理由は貴族関係にいい思い出がないからなのだが、今回は大丈夫なようだ。


だかまあいいとレオンは心の中で首を振り、彼女と話を続ける。


「ところで、お嬢さんはなんて名前なんだ?」


「私はシャーリィ=フィスブルクと申します、あなたは?」


「俺はレイン、レイン=シュヴァルツだ」


もちろん、このレインというの名は偽名だ。

今の時代は平民貴族関係なく苗字が存在している。また、『レオン=ノースヘルト』の名は最凶最悪の不死者として広まっているのだ、人と話す上で偽名は必要なのである。


「えと、レインさんはどうしてこのような場所に?」


「人と関わるのに疲れたからだな」


「そうなんですね、私も人との関わりがたまに鬱陶しく感じることがあります、訳もなく攻撃的な態度を取られたり、私のことをよく知りもしないで非難される。それが嫌でたまに家出なんかもしたんですよ?」


あー、なんかすげえ気持ちわかる。

レオンは心の底からそう思った。


「それはキツイもんだな、俺も昔似たような境遇だったから、気持ちはよくわかるぞ」


「ですから、この山の中に身を移したんですよね。なんなら私もここに住みたいぐらいです」


「んー、あんまり嬢ちゃんみたいなのが山ん中ってのはオススメしないぞ?この山には、多くはないが強い魔物もいる、この辺りに入って魔物と遭遇しなかったのは幸運だったな」


そんなこんなで、俺は彼女と談笑を続ける。

何も無い日常を持て余していた彼としては、人との関わりに疲れたと言いつつも彼女との談笑はとても楽しい時間となっている。


ちなみにレオンは、学者という設定で彼女と接している。彼は生まれてから数千年の歴史を身をもって体験した存在だ。

そして有り余るほどの時間を知識の探求に費やしたこともあるため、彼の知識は、世界の学者が束になっても足りない程の量と質だ。


そんな、学者設定で話していたところ、レオンにとってはあまり好ましくない話題になった。


「レインさん、レオン=ノースヘルトという存在は、まだ生きているのでしょうか?伝承や文献を漁っても、彼が亡くなったという話をあまり聞いたことがないので」


思わず、レオンはギクッとなった(もちろん、心の中でだけだが)

無理もない、彼はそのレオン=ノースヘルト本人だ。赤の他人として、自分語りを強いられている彼は、内心恥ずかしいものがあった。


「レオンか、彼(自分)については色々と説があるな、ただ俺は生きていると思う、誰かに封印されたとか、既に死んでいるとか、まだ生きてて大殺戮を起こすことを画策しているとかあるけど、どっかで生きてるんじゃないか?そんでもって、案外、レオンには人間っぽい所があるんじゃなかろうかとも思う。どの文献にも、『かの者は凶暴である』って、必ず入ってるけれど、実際どうかはわからないよな、彼についての文献は結構読んできた(エゴサした)が、どれもこれも凝り固まった考えばかり、どの学者の本を読んでも基本的には同じことばかりだ。他の説もないもんだから、少しもやっとすることもあったな」


「つまり、不死者レオンは凶暴でなく、比較的普通な人間性を持っていると、レインさんは思われるのですね」


「そうだと面白いな、とも思ってる」


ふぅー、なんとか乗り切った

レオンは安堵した。自分の話を違和感なく学者として話せたと思った彼は、非常に安堵した。


ただ、談笑が楽しく、時間忘れていた彼は、安堵ともに思い出したように彼女の心配をする。


「そういや、ここに来て結構な時間が経ったが、家に帰らないと不味くないか?」


「あっ…そうですね、楽しくて忘れてましたが、そろそろ帰らないといけませんね」


「道の分かるところまで、案内する。楽しい時間の礼だ」


「はい!ありがとうございます!」


そうして、レオンとシャーリィは家から出て、山から一度降りるのであった。


「足下には気をつけろよ?木の根っことかに引っかからないようにな?」


「はい、ありがとうございます」


今日の談笑は楽しかったな、と2人で会話しながら山を降りる。

話しながら降りていき、街道に出るのであった。


「さて、後の道はわかるか?」


「はい!向こうの方に行けば、私の家がある街があります!レインさん、ありがとうございました!」


「ああ、どういたしまして。そんじゃ、そろそろさよならか」


「あの…1つよろしいでしょうか?」


「ん、なんだ?」


「また、遊びに行きたいのですが、ダメでしょうか」


「俺の家にか?……ダメだな、たまたま迷ってあそこに入ったんだろ?魔物も出るし危険だ、俺も楽しかったから、君と会いたい気持ちもあるが、あそこには立ち入らない方がいい」


シュン、そんな音が聴こえるような表情を彼女は示した。

それを気まずく感じたレオンは、妥協案を出す。


「わかったよ、これから定期的に会うようにする、だからあの家まではくるなよ?」


「いいんですか?私とまた会って話してくれますか?」


「ああ、別に構わねえよ、さっきも言ったが、嬢ちゃんと話すのは楽しかったからな」


表情の移り変わりが激しいなと、レオンは思った。


「お嬢様ー!!何処にいますかー!!!」


大きな声で、人を探しているのが聴こえた。


「なあ嬢ちゃん、今のはお前のことを探す声じゃないか?」


「はい、そうだと思います。音も近づいているので、そろそろ私を見つけてくれると思います」


彼女の言葉通りで、音はだんだん近づいて、探知魔法もびっくりの精度で、一人の女騎士が彼女を見つけた。


「お嬢様!ご無事でしたか!?」


「ええ、この方のおかげで、山を降りられました」


「左様ですか…貴殿に感謝を」


「なーに、当然のことをしたまでだ。そんじゃ俺はそろそろ帰るよ」


それとシャーリィ、そう続けて言葉を発する。


「これを渡しておく、そいつに俺と話したいときに魔力を繋げてくれれば、なれるときは話し相手になるぞ」


「ありがとうございます!」


「それじゃあな、もう山で迷ったりすんなよー?」


「はい!分かりました!」


「そんじゃあな」


そう言って、レオンは山の中の家に帰り行くのであった。


-------


数週間、数ヶ月、数年間、そんな時間を何度も繰り返し、レオンはシャーリィと会って話していた。


レオンは、自分が人のためにこれだけの時間を費やしたのはいつからだろうかと思い、どこか新鮮な気持ちを持った。


「レインさん、あなたは本当に変わりませんね」


「ああ、だがシャーリィは、会った時よりずっと綺麗になったんじゃないか?大人になったんだな」


「もー、恥ずかしいです。ところでレインさん、今日はどんなお話を?」


恥ずかしい話題からそらすように、彼女はレオンに聞く。


「そうだなー、面白いエピソードはあらかた話したからな」


「じゃあ、レインさんについての話が聞きたいです!」


「俺についての話か…」


レインについて、それ即ちレオンについての話ということになる。

今まで一度も話してなかったが、数年間話し続け、話の種がなくなった今、他に使える話題が思いつかないのも事実だ。


だが、変に嘘を混ぜるのも非常に申し訳ないものがある。そう考え、レオンは思索する。


「もしかして、ダメ…ですか?」


そう聞かれたレオンは、反射的にこう答えた。


「ああいや、大丈夫だよ、問題ない」


「おー!嬉しいです」


やってしまったとレオンは思ったが、もう話してしまえと変に開き直ってもいた。

どこか、シャーリィなら話しても大丈夫だろう、そんな感覚が、レオンにはあった。


だから、彼は一先ず謝った。


「すまない、シャーリィ、俺はレイン=シュヴァルツという名前ではないんだ…」


「…へ?というと?」


「今でも言うのはどこか怖いんだが、俺の本名は、レオン、レオン=ノースヘルト。文献にある最凶最悪の不死者ってのは、俺の事だ」


とうとう、彼はそのことを告げた。


「………?」


一瞬で思考がフリーズしたシャーリィ、だがそのフリーズが解けた瞬間、彼女の顔は驚愕に染まる。


「えぇ!?そうなんですか!?え!?本物!?」


「……ああ、そうだよ」


安堵のため息混じりに、彼は答えた。

シャーリィの反応に、恐怖や警戒と言ったものは全く感じられなかった、あるのは大きな驚愕、それだけだった。


「え、ということは、今まで私はレオン本人から、レオンについての話を聞いていたということですか!?」


「まあ、そうなるな」


驚きすぎて落ち着かないシャーリィを、ひとまずは落ち着かせることにし、落ち着いたところで話を再開する。


「俺がレオンだってことはまあ理解してもらえたと思うが、俺の話ってなると多すぎてな、何から話せばいいかもわからん」


「えと、それじゃあですね、なぜ不老不死になったのかが知りたいです」


「呪いだよ、それもタチの悪いな」


「悪魔に身を捧げたり、禁忌に触れたりしたわけではないのですね…」


「まあ、不老不死になってから、悪魔にゃ会ったことはあるし、禁忌とか言われてる魔法?も使ったことがあるな」


ズコッ

そんなリアクションが本当にあったのか、シャーリィはそんな感動すら覚える動きをして見せた。


「ビックリして椅子から転げ落ちちゃったじゃないですか、まあそれはいいんですけど、呪いは誰にかけられたのでしょうか?」


「それがな、わかんないんだよな、まあ、見当は着いているんだが、如何せん証明手段がなくてな、憶測になるがいいか?」


そうして、彼は神に呪いをかけられているであろうことを告げる。

普段、彼は「呪いをかけた奴ぶん殴る」と言ったことをよく言うが、その実、神に掛けられた呪いだと勘づいてはいたのだ。


それを聞いたシャーリィの反応はまたも驚き、だが仕方の無いことだろう。

レオンは凶暴な不死者である、自己の利益のために禁忌に触れ、不老不死になったと言われているのが、その実、理不尽に呪われ、望まない不死者になっていたのである。


「まあ、そんなこんなでこのレオンという男は、理不尽に呪われ、理不尽に疎まれた。神という存在に呪われてから、何もいいことが無かった」


だが、と続けて彼は言う。


「シャーリィ、お前と出会ってからの年月が、今までで一番楽しい時間だったのは間違いねえだろうな」


シャーリィは驚愕の表情と、歓喜の表情を同時に浮かべた。


「それは嬉しいです。それと、伝説の方とお友達になれて嬉しくも思います!」


彼女は天然な所が多々あるが、なんともまあ良き娘か。そんなことを、レオンは思った。


「んまあ、俺のことを話すとなると、量が多すぎて語るに語れないが、こんくらいなら丁度いい分量だろ、俺の話はまた今度にしよう」


「はい!次も楽しみにしてますね、レオンさん!」


ああ、俺も楽しみにしている。

そうは言わなかったが、彼の表情には表れていた。


--------


数年が数十年となった。

その頃には、シャーリィは遠の昔に結婚し、子宝に恵まれ、さらにその子宝もまた恵まれ、孫に囲まれる高貴なお祖母様となっていた。


気品のある微笑みを浮かべ、まだ幼い孫たちとの会話を楽しむ。

そんな慈しみ溢れる御婆様とレオンは、夜になれば以前と変わらず、シャーリィの自室のソファーに腰掛け、談話している。


「しっかし、お前さんは随分と変わったな、シャーリィ」


「そういう貴方は何一つ変わりませんね、レオン」


出会った当時、それから数年はまだ、お転婆娘が抜けなかったが、今となっては上品な御婆様。やはり人は変わるものである。


「レオン、私の息子もすっかり当主の務めをこなしているのよ、執事のウェルダーの助けもあるけれど、もう立派に務めを果たしているわ」


「そいつは良かったじゃねーか、幸せだろう?しっかり者の息子に、可愛らしい孫達、こんだけ幸せな人生ってのも中々無いもんだしな」


「そうねぇ、確かに幸せね。でも気に食わないことが一つあるとすれば、あなたの見た目が変わらなさすぎて何度も妬いたことね」


「まあ、俺は不老不死だから、この身になって老いを忘れちまった」


変わらず話してはいるが、唯一変わりゆくのはシャーリィだけだ。彼女だけが歳をとり、シワが増え、そしてまた、最期の時を感じ始めている。


彼女は溜息をつきながらも、残り少ない時間を、幸せに生きるべくして毎日を送っている。


「いやねぇ、お医者様によると、至って健康体なのに、最期の時が近づいているだなんて」


「ああ、俺が診てもお前さんにゃ何一つ悪いとこは見当たらない。寿命って奴だろうな、喜びな、お前は言葉通り、天命をまっとうしているだけだ、そりゃ意外と難しいことだからな」


「ええ、そうね。と言っても、稀有な天命ではあると思うわ。そうじゃなきゃ貴方と出会いもしなかったでしょうから」


「それもそうだな」


レオンはそう笑いながら答えた。

その稀有な天命、最期まで幸せにしてやろうと、ここの所レオンは毎日、彼女の所へ通っていた。本当に残り少ないのだ。彼女は元気に見えるが、命の灯火は今に消えても可笑しくない。彼女自身もわかっている事だが、一度眠ってしまえば、彼女はその眠りから覚めない。この時間が、互いが言葉を交わせる最後の時間だと、ハッキリと理解していた。


「ありがとう、レオン」


「どうした?藪から棒に」


「私とありのまま話してくれて、ありがとうって、あんまり伝えたことが無かったから」


「……ああ、そうだな。俺の記憶違いじゃなけりゃ今のが初めてだ」


普段、彼女にとって有意義な話、興味深い話、楽しい話、そんな話をして感謝されることは毎回だったが、今回のような感謝の言葉は初めてだった。


「俺はお前に正体を明かすまで、誰にも素で話してこなかったからな。シャーリィにしてたように、偽名を使って上手く誤魔化してた」


「そうみたいね、貴方がレオンだって知ったときは、とても驚いていたのを覚えています。けど、貴方という人を知っていたから、驚きこそあれど、恐怖は微塵もなかったわ」


「ああ、そうみたいだな。だからお前さんにゃ感謝してる」


ありがとな、俺を受け入れてくれて


この感謝も、今までしてこなかった。

彼はここに来て、人の生において初めて、共に居る存在そのもの、そのことに感謝した。


「ふふ、照れくさいわね、なんでかしら?」


「さあな、互いに慣れてないんじゃないか?」


「そうでしょうね」


感謝の言葉を互いに交わし、互いにほんのり顔を赤く染めていた。そんな顔を、部屋の灯りが照らしている。


そんな中、またシャーリィは楽しそうに、恥ずかしさを紛らわすように笑う。

それに釣られて、レオンも笑う。

互いに笑い合い、思い出話に花を咲かせ、また笑う。そんな時間を、ただ過ごしていた。


だが、夜はそこに近づいていた。これから先、終わることの無いシャーリィの夜が、訪れようとしていた。


「レオン、私もう限界みたい、凄く眠たいわ」


「ああ、いつもお前さんが寝るまで話してたんだ、わかってるよ」


「私、このまま眠っていいのかしら?」


「……ああ、もう寝ていいだろう」


「……そうね、レオン、お休みなさい」


「……お休み、シャーリィ」


明けない夜が訪れた。

永遠に覚めない夢、シャーリィはきっと幸せな夢を見るだろう。

なぜなら彼女は、とても穏やかに微笑んだまま、目を閉じた。眠った、眠ってしまった。これから先もう二度と、会えなくなってしまった。


「ありがとな、シャーリィ、お前のおかげでこの74年、楽しかったよ」


あぁ、死にたい。今すぐにでも死んで、彼女の元へ行きたい。


だがその願いは彼の体が、呪いが許さない。


どれだけ死を願おうと、彼の身に死は訪れない。


ただ、一つ、最後に約束だけがしたかった。

もう二度と会うことないシャーリィに、『またね』と


「シャーリィ、次に会うのは、俺の呪いが解けたときだ、そんときまで、待っててくれや」


レオンは親友の死を知り、初めて友を失う悲しみで涙を流した。



--------呪い


それには様々なものがあるだろう。

作物が出来なくなるだとか、病気になるだとか、病弱になるだとか、何日か経つと死ぬだとか、不老不死の呪いだとか。


俺もそんな呪いをこの身に受けたんだが、その呪いは非常に厄介だ。


その呪いは副産物みたいな物なのかもしれない。

だがそれが、俺にとってはどうしようもなく辛く、それこそ心の底から死を願い、呪いが解けて欲しいと思うほどの物だった。


俺の呪いは不老不死、だがそれ以上に

『何があろうと会いたい人の元へ行けない呪い』

そんな呪いにかかってしまった。


俺の体は老いることも、死ぬことも無い。

故に、永遠の夜に居る彼女の元へ行けない。


あぁ、これほどに死を願ったことはあるだろうか。

怠惰の感情でなく、これほどまでに切実な願いを含んだ、死の欲求に晒されたことはあっただろうか。


玄関を見る度に、扉を叩く幻聴がする。

扉を開ける度に、家を訪ねた少女の姿を幻視する。

居間を見る度に、初めて交わした少女との会話を思い出す。


願えども願えども、また彼女に会うことは出来ない。

この呪いが解けることなど、有り得ないのだから。


--------『不死者レオンの日記』より。

読んでいただきありがとうございました!

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