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逆・異世界転生 Ⅰ  作者: Tro
#18 転生システム管理者の涙
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#4 大きな壁と、旅立ち

ある時、信じ難い事件が起きた。それは、一つだけ残ったカケラ、アダムの隣に、同様のカケラが増えていたことだ。これでまた一対のカケラとなった訳だが、これにアベルが歓喜したのは言うまでもないだろう。だが、本当にそれは増えた(・・・)のだろうか。もしかしたらイブが復活した? という破綻した考えが(よぎ)ったが、それはアベルによって即座に否定された。


私には、どのカケラを見ても相違は分からず、どれも全く同じに見えたが、アベルには区別がつくらしい。但し、アベルも見た目で判断しているのではなく、——さて、その方法を適切に表現するのは難しい。そこで、アベルから言葉を借りると、「双方にとって通じるものがある」のだそうだ。


アベルは新しく増えたカケラを「リリス」と呼び、何度も話し掛けていた。それはイブを失ったことも影響していたのだろうが、愛着ぶりは以前より増したように思えた。そんなアベルの行為を見ていると、それを無意味だと言った私ではあるが、今では微笑ましく思う自分に驚きを隠せない。


◇◇


ある時、目を疑う事件が起きた。それは、アダムとリリス、一対のカケラだったものが突然、大量に増えていたのだ。その数——正確にその数を把握するのは不可能と判断したが、今ではカケラが、縦、数千キロメートル、横幅は数万キロメートルという巨大な物体、壁のようなものになっていた。その一つ一つは、変わらず小さなカケラであったが、それが無数の群として巨大化していた。流石の私もこれには驚き、思わず「目を疑うとは、このことだぜ。びっくりしたぞ、この野郎」と呟いてしまった。


「ちょっと待て! そこ、絶対に創作したろう。急に話し方が変わってるじゃないか。……困るよ、変に創作しちゃったら、後で笑われるんだぞ、この俺が。そこ、訂正しておいてよ。……まったく、油断も隙もあったもんじゃないな」


「はあ? 何を言っている。原文、そのまま、正直、不正無しの垂れ流し、清澄(せいちょう)な源泉だ。……それに、ここから、あっと驚く展開になる。それを知りたくはないか、どうなんだ?」


「なんだと? ここからか。……まあいいだろう、多少のことは目を(つむ)ろう、恩赦である。さあ、続けるが良い、苦しゅうないぞ」


「分かれば良い。では参る」


◇◇


小さなカケラは無数に増殖し、小さなタイルを敷き詰めたような大きな壁となった。それは最初、長方形の形をしていたが、次第に横幅が伸び、弧を描きながら星の周囲を巡り始めた。それを観察していた私たちは、その壁が自然に形成されたものではなく、ある意志を持った、又は、ある目的のために創られ、そこに存在していると考えた。しかし、その意志や目的を知ることは容易ではないだろう。何故なら、これだけ大きい『存在』を目の前にしても、それ以上のことは全て不明であったからだ。


だが、アベルにとってそれは些細な事だったようだ。無数のカケラに話し掛けては反応を探ろうとしていた。しかし、その行為が報われることはなく、ただそこに在り続けるだけの小さなカケラでしかないのだ。それでも諦めることなく声をかけ続けたアベルである。


そして遂に、反応を示す個体を見つけた。幾千ものカケラの中から、それは偶然かそうでないかは分からないが、アベルの問い掛けに反応する個体を数個見つけることが出来た。但し、その反応はアベルにしか分からなかった。それは、問い掛けに声を返すことは勿論、何かの動作で示されるようなものではなく、「そう感じる、そんな気がするんだ」程度のことらしい。それでも、反応が分かるということだけでも十分素晴らしいことだろう。


ただ、残念ながらその反応を見せる期間は短く、それが途絶えた後は他のカケラと同様、無反応になってしまい、いずれ、他と判別がつかなくなる。だが、残念がる必要はなく、また別のカケラが、どこかで反応を示す、といった具合に、全体からすれば絶えず反応し続けている、と言えるだろう。だからアベルは落ち込む暇もなく、新発見(・・・)に余念がなかった。


◇◇


ある時、予測していた事件が起きた。それは、隕石が壁に衝突したのだ。勿論、以前とは比べるまでもなく巨大化した壁である。その確率は飛躍的に高まり、衝突は時間の問題であることは明らかだった。しかし、それを事前に知っていた私たちは何もしなかった。ありのまま、自然は自然のままに、と決めていた私たちは観測を続け、成り行きを見守った。


これまでの経緯で、アベルが衝突を阻止しそうに思えたかもしれないが、私たちは仕事と私情を切り離し、あくまで静観したのである。しかし、アベルの行いを見てきた私には、アベルの悲痛な叫びが聞こえてくるような、そんな気がしてならなかった。


私にとって幸いだったのは、壁が巨大だったため、一部損壊に(とど)まったことだ。その巨大さは、同じ恒星を公転する惑星と比べても、横幅だけ見れば一番、またはそれに匹敵するほど大きい。よって、有り得ないことだが、惑星規模の衝突があったとしても全壊には及ばないだろう。


アベルにとって悲運だったのは、一部損壊した箇所に例の、反応を示すカケラが在ったことだ。今回は以前とは衝突の規模が桁違いであり、隕石も大きなものだった。それにより、壁にポッカリと大きな穴が空き、そこは一瞬で消滅したものと考えられる。——もう、残骸を拾い集めることなど到底不可能と思われた。が、アベルは微かに残った残骸を掻き集め——驚くことに、それを創造主の元に持って行くのだと言い始めた。確かに、あのカケラを創造した者であれば、再生は可能かもしれない。しかし私たちは、その創造主が誰なのか、そしてどこに居るのかを知らない。また、カケラをこの場に置いた理由も知らず、——つまり、私たちはカケラについては、殆ど何も理解していないということだ。


それでもアベルは、この広大な宇宙でそれ(・・)を探すのだという。何の手掛りもなく、実在しないのかも知れず、ましてそれが誰なのかも知らず、果ては宇宙を彷徨うことになるかもしれない。それでも。——


こうしてアベルは砕け散ったカケラを(たずさ)え、旅立って行った。


◇◇

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