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逆・異世界転生 Ⅰ  作者: Tro
#15 残されし者たちの涙
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#2 都市伝説

眩く、後光のように光り輝くカズヤの姿。それは(あたか)も神の降臨の如し。その瞬間に立ち会うことになったケンジは「俺は、あぁ、なんという偶然・奇跡に出会ってしまったのだろうか。これは、本当に、リアルな、真実、現実、……その他もろもろだ」と心躍らせ、一方、「なに? なになに、なんなのよぉぉぉ」と、口をポッッカリと開け、心の中で叫ぶしかなかったサユリである。


そんなサユリの心の叫びを聞き付けたのか、それによって我を取り戻したケンジは、——よく見れば車のヘッドライトが「早めの点灯を心がけているのさ」という根性で、カズヤの後ろから迫って来ていただけのこと。そんな日常的な出来事に、思わず感動さえ覚えてしまったことを「恥ずかしいやら悔しいやら、どっちの感情を優先させるべきか」、と悩むことで誤魔化そうとしたようだ。


一方、人生に見切りをつけたかのようなケンジと違い、「一度(とも)った驚きの炎は、そうそう消すことが出来ない相談なのよぉぉぉ」のサユリは開いた口が塞がらず、ブーン・ブルブル・ポッポー、と脇を通り過ぎる車から目を逸らし、それと同時に現実からも逃避を試みたようだ。それは、ついケンジに釣られて変な声をあげそうになった被害者の私、よって罪は全てケンジにある、という構図で決着しようとしたらしい。——だが、世間がそれを許しても、ピッカー・シュルシュル・ポッポーは許さない、のである。なぜならば——


ブーン・ブルブル・ポッポー、と車が去った後も、眩く、後光のように光り輝くカズヤの姿は一片の悔いもなく、ではなく、ますます輝き増量中のカズヤであった。この現象に対し、気持ちの整理に逃げ込んだケンジは、きっと後続の車両だろうと思った、いや、思いたかったようだ。が、そんな都合の良い話は、無い。ガラ空きの車道には一台の車もなく、それでも在るとすれば、それは目には見えない過去の遺物であろう。そんな時、——


「おわ、おわ、おわわ」とケンジがうわ言(・・・)のように何かを叫んだようだが、それはサユリがケンジの腕を掴んだ、それもかなり強く、「絶対に逃さない」とでも言いそうな勢いで、である。「おわわ」を翻訳すると、「おっ、お前、なに掴んでるんだよ。痛いぞ、こらぁ。そんなことがしたけりゃ、お前、それカズヤにしてやれよ」と言ったようだ。


ケンジとサユリ、この二人と、神々しく光り輝くカズヤとの距離はとても近く、歩数にしても数十歩といったところだろう。いくら不思議な現象が目の前で展開されていると言っても、もっと近くで見れば、いや、それよりも直接カズヤ本人を問い(ただ)した方が単純明快のはずである、と当事者ではない者はそう思うかもしれない。だが、これが俗に言う金縛り(・・・)というやつらしく、それを、ケンジは「あれこれと現状分析してるんだ、俺は」と、体が動かない理由とし、そのケンジの腕を(つね)るサユリは、「君の番だから。君の、番だから」と、何かの順番を厳守しているようである。


だが、時も川も、序でに噂も流れるもの。そうこうしているうちにカズヤは大量の光、——そう、特盛り・大盛り・などなど、綿飴の中心には棒があるんだよ状態になってしまったカズヤである。こうなってはもはや——であろう。手遅れとも言うかもしれないが、ただボヤッと見ていることしか出来ない二人であった。


そうして遂に、ピッカー・シュルシュル・ポッポーはカズヤを包み込む、または飲み込むと、その眩い光の残像だけを残して、綺麗さっぱり後腐(あとくさ)れなく消えてしまったのである。もちろん、カズヤ諸共(もろとも)であることはいうまでもないだろう。その場に残された二人は何が何だか分からず——確かなことは、そこにカズヤが居ない(・・・)ということだけだった。



さて、時は一気に進み、その日の深夜、自宅のベッドの上でゴロゴロするケンジである。それを「頭を抱えて悩んでいる」とも言えなくもないが、とにかくゴロゴロである。その訳を探る前に、ここまでの経緯を説明しておこう。


突然、路上で光に包まれたカズヤは、あっという間に光と共に消えてしまった。その場にいたケンジとサユリは、それはもう狼狽えた(・・・・)というか、人生最大の驚きだったが、そこは成人、またはそれに近い二人である。何時までも腰を抜かしてばかりではなかった。とにかく人一人が忽然と消えたとあって、それは拉致か誘拐か、と考え、それ以外の要因、何かの奇術やドッキリ系の類とは考えなかったようだ。しかし、拉致・誘拐としても、その犯人が()とあっては説明のしようがないというもの。


そこでますます混乱した二人だが、それでもカズヤに電話をかける、というくらいは思い付いた。しかしそれは例よって「おかけになった——」と云う名セリフが聞けただけである。その後二人は付近を捜索したが、「かくれんぼ」ではないので、ひょっこりカズヤが隠れていた、なんてことは起こらなかった。そこで漸く、近くの交番に駆け込んだわけだが、結果を先に言えば、相手にされることなく、さっさと退散した、といったところだろうか。それはまず、光に包まれて——の(くだ)りで、「ああぁ、それね」と軽くあしらわれ(・・・・・)、「それなら二三日様子を見てからまた来なさい」と、それ以上の話を聞いてもらえなかった二人である。


但し、これは警察官の対応が悪かった、という訳ではなく、同様の相談が以前にも複数あり、大抵の場合、行方不明とされていた人物が二三日経ってからひょっこり(・・・・・)と姿を現す、ということがあったからだろう。それを巷では『異世界に召喚された』と噂し、いつしか都市伝説のようになっていた。しかしその実態は、単に遊びの積もりで消息を絶ち、復帰後、異世界での武勇伝を語るなどが、一時流行ったこともあったようだ。それで警察官も二人の話を真面目に取り合わなかったとしても無理はないだろう。だが、全く相手にされなかった、という訳ではなく、どうしても捜索願を出したければ親族から、という助言を貰っていた。(本来なら親族でもなくても捜索願は届けられるが、それだけ二人の言動が怪しかった(・・・・・)とも言えるかも知れない)


そこで二人はカズヤの自宅を尋ねたが、——母親(いわ)く、「よくあることなので心配しないで」と、笑顔で返されてしまった次第である。カズヤとはここ数年の付き合いしかないケンジではあるが、それでも今までそのようなことはなく、毎日のように顔を突き合わせていたことを思うと、「よくあること」と言われてもピンとこない。しかし、親がそう言うのだから、それに反論したところで何もならないだろう。


カズヤの家を出た二人は、これからのことを悩んだが、これ以上二人が出来ることは、少なくとも今時点では何も思い付かなかった。それで、「取り敢えず今日のところはこのまま自宅に帰ろう」となり、それでサユリに家まで送ると言ったケンジだったが、「一人で帰る。……今は一人がいいの」と、その場で別れた二人である。


◇◇


そうして、ベッドの上でゴロゴロするケンジである。悩める青年は腕を組みながらサユリに掴まれた腕を摩り、これからどうしたものかと考えていたが、思い浮かぶのは辛い表情を見せたサユリに何の力にもなれなかった自分の不甲斐無さ、——いや、それとは違うものを感じたが、すぐにそれを取り消し、とにかく情報が足りない、もっとはっきりとした情報が欲しい、と思ったケンジはベッドからムクッと、——サクッと起き上がりパソコンを操作し始めた。


「異世界」「召喚」をキーワードに検索をするケンジである。噂では、何らかの切っ掛けで異世界に踏み込んでしまったり、誰かに召喚されることで異世界に飛ばされるらしい。その目撃談によれば、強い光が発したのは異世界への扉が開いたから、というものであった。だが、このくらいのことはケンジも既に承知していたことである。しかし、その噂以上のことを知りたいと探してはみるものの、残念なことにフィクションの「異世界」で検索結果は占められ、事実に基づく「異世界」には到底辿り着けないと思えた。


普通であれば、この辺で諦めてしまいそうだが、幸か不幸かケンジにはもう一つ()てがあった。それは、ケンジが通う大学の名物教授のことである。その教授は「異世界」を研究する第一人者であり、学内に、その名もずばり「異世界研究室」を立ち上げた人物である。但し、正確には教授ではなく()教授である。これは、准教授や助教授の間違いではなく、正式な肩書きとなっているらしい。その理由は、その手の界隈ではかなり有名らしく、如何わしく胡散臭いものを説明させるにはもってこいの人物であるからだそうだ。それであっち(・・・)方面では重宝されているようだが、その研究対象が「異世界」、それも殆ど空想上の世界とあって、研究どころか妄想の世界に身も心も捧げた「イカれた人」とされている、らしい。


ケンジにしみれば、一生、出会うことのない存在であるはずだった。しかし、自分の目の前で起きてしまった不思議な現象、カズヤが居なくなってしまったという事実。これらを如何に解決するかは、まさしく、正確な情報、正しい助言が今のケンジには必要なのである。それが少々、多少、全く信用ならないとしても「藁にも縋る」思いで、例の教授を訪ねてみようと決心したケンジ、「後悔先に立たず」である。


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