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ゴッドハンドと駆け出し少女

作者: 炙り鮪

「クレハ、次の患者のカルテをくれないか。」


「はい!少し待ってください!」


私は旅行鞄からクリアファイルを取り出して、19-05のカルテを手に取り、それをリアム先生に渡しました。


「お、なかなか面白い患者さんじゃないか。ほれ、君も目を通しておきなさい。」


丁寧に先生は私に紙を返します。

ふーむ、どれどれ。

お名前は、エリック・カイエ。カッコいい。で、病状は....なんでも右手から創り出す。へ?材料も対価も労力もなしに!?


「先生、この方って化け物なんじゃないですか!?」


まあまあ、落ち着いてカルテ読みなさいと言われ、読み進めていくと、


ご希望 右腕を普通にしたいです。



私は驚き、先生に聞いたのです。


「先生、どういうことですか?こんな便利な能力手放すなんてもったいなさすぎますよね?」


先生は笑って頷き、


「きっと話せばどういうことかわかるさ。君も少しお話しを伺うといい。」


先生はポニーテール(先に断っておくと男。しかも男前)揺らしながらズンズンと先に歩いていく。


「あーっ。ちょっと待ってくださいよ!」


私は鞄にクリアファイルをしまって走って追いつく。


私、クレハは18歳ながらイケメンで優秀でお医者さん(?)のリアム先生の助手として頑張っているのです。

今は旅をしながら患者を治していく途中なのです。

私はこの旅で先生から技術を盗んでリッパな医者、まあ魔術とか超能力とか専門なのですが、そのリッパな医者になるため頑張ってます。それにしても、エリックさんのご希望がわかりません。なぜ便利な右腕を元に戻したいのでしょうか....。


3時間ほど平野を歩いていくと、ポツンと一人ぼっちの木造の小屋が現れました。あたりには夕焼けが満ちており、なかなか心を揺さぶられるものがあります。エリックさんはここで一人で過ごしていたのでしょうか。


「こんばんはー!エリックさん!医者のリアムです!」


先生の声で気がついたのか、中から一人の優しげな老人が現れました。







「なぜ私が右腕の能力を捨てようというのかだったね。お嬢さん。あそこに浮かぶ月が見えるかい?」


「はい....ですがそれが?」


椅子に座って向きあったピンク色の髪の助手さんは、その黒い何にも染まらぬ瞳を窓に向けて、不思議そうに私に向き直した。


「綺麗だろう?ここから見る月は酒の肴に最高のオブジェだ。人はこの母なる大地から一人立ちするように月を目指し、幾度と失敗し.....しかし最後には辿りついた。」


「『人類には大きな一歩だ』ですね。」


お医者様は合いの手をいいタイミングで言ってくれた。私の言いたいことが分かっているのだろうか。


「そう、君も知っているだろう。しかし、この一歩が結局なんだったのか具体的にわかるかい?」


「うーん。やはり人類にとって新たな可能性を手に入れたことですかね。」


「それはどんな?」


「例えば....新しい居住地区とか?」


「それもそうだ。しかしお嬢ちゃん。それでは一歩から何も進めない。資源を食い散らかし、使い切っていくだけだ。」


考えに考え、彼女は少し悔しそうに

「わかりません.....。」と答えた。


お医者様は優しい笑顔で彼女を見守っていらっしゃる。いつか彼が家族を持ったときは良い父親となるだろう。


「そう、難しい質問だね。だけど実は至極簡単な問題なんだ。正解はね、一歩進んで行き詰まっても、また一歩強引にでも進もうとする人間の根源的な力さ。」


彼女は首を少し傾げただけだった。







「では治療していきますね。」


私が言うとエリックさんは「ああ」と頷いて心の準備を完了させたようだ。


「方法は簡単です。あなたの右腕には思い入れが強く残っている。それがあなたの右腕から能力を話すことを拒んでいるのですよ。だから....あなたの辛かった思い出や楽しかったことを全て私に話してくれれば良いのです。クレハも聞かせていただきなさい。」


クレハは立ったままわかりましたと呟く。まだエリックさんの話に合点がいってないようだ。


「そんな楽なことで良かったのですね....。これは驚きだ。」


エリックさんは呟く。


「はい、あなたは一人で生きていくのに強すぎたんですよ。でも、少し楽をするのも人間の営みですから。」


エリックさんはキョトンとして「こりゃ参ったな」と笑った。





ホテルに向かってクレハと歩いていると、


「先生、結局エリックさんが右腕を治した理由がわからないのですが.....。」


とクレハが首を傾げて言う。


「エリックさんはね、人間の生命自体に敬意を抱いているんだ。これがヒントだよ。あとは自分でもわかるだろう、クレハ?」


少し考えてクレハは微笑んで、「わかりません。」


それでいいんだ。まだ考える時間はいくらでもある。君はこれから色んな人と出会い、困難にぶつかっていく。そこで気付けばいいんだ。

エリックさんと出会いは君にとって幸福の鍵となるだろう。


クレハは楽しそうに鼻歌を歌っている。

お読みいただきありがとうございました。

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