第八話 一から。
第八話。またしばらく戦いません…ごめんなさい…
それは、みのりが家に着いて、数時間後のことだった。二日ぶりに普通の時間に帰って来たことを自覚し、事情があったとはいえ帰りが遅くなってしまったここ二日間のことを反省しながら、怪盗風の少女のこと、最後の六人目のことを考える。
ーあの子が、あのときの…
初めて会ったときのことを思い出しつつ、部屋の片隅に保管してある彼女の残したヘルメットとライダースーツを見る。
ーこれ、いつか返さなくちゃ…それに、六人目の子が誰かも調べないと。
などと考えていると、携帯が鳴った。画面を見ると、その相手は美波だった。
「あ〜、もしもし〜。みのりん?いきなりなんだけど、今ちょっと時間ある?」
「うん。大丈夫だけど…」
ーん?おかしいな。なんか声が二重っぽく聞こえる…気のせいかな…それとも携帯の故障?
と思いつつ、持っていた砂時計を机の上に置きながら答えるみのり。
「よし。なら良かった。みのりんの家でいろいろ聞きたくってさ。ほら、ラスト・ラグナロクがどーたらこーたらーってやつとか。」
「それを教えるのはいいけど、わざわざ家まで来てもらうのも悪いし…こっちから向かうよ。今どこ?」
「ん?みのりん家の前。」
そう言われて慌ててカーテンを開けて窓から外を見る。すると、それに気付いた美波がこっちに向かって大きく手を振る。
ーそっか。だから声が二重に…あれ?でも何で私の家を知って…あ、あのとき私の家の前まで送ってくれたことあるんだった…ここで追い返したら、それこそ悪いよね…
「分かった。今鍵を開けるからちょっと待ってて。」
「ほいほーい‼︎」
そう判断したみのりは電話を切りつつ、リビングへと向かう。客が来たという旨をみどりに伝え、みのりは玄関へと向かった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「いや〜、ごめんね‼︎いきなり押しかけちゃって‼︎ちょいと例の話、聞かせてもらおうと思ってねぇ。」
『今後のことにも関わりますし、情報源は、早めに教えて欲しいです。』
みのりの部屋でのビデオ通話。みのりのパソコンと雫のパソコンを通じて三人が顔を合わせてSkypeを使い通話を開始する。
ちなみにスマホを使い、Lineの方のビデオ通話を使えば千春も参加させることが出来たのだが、画面の大きさを優先した結果パソコンのビデオ通話を使うことになった。決してSkype通話を提案した美波が千春のことを忘れていた訳でも、千春を仲間外れにしたい訳でもない。
「うん、分かってる。教えてくれたのは、あのもう一人の女の子。」
「みのりんの言ってた通り、やっぱ色々と知ってた訳かぁ…」
『まぁ、当然といえば、当然、ですよね。』
複雑な表情で呟く美波。その表情に気付かないまま、みのりは話し続ける。
「ラスト・ラグナロクっていうのが何なのかも、あの女の子に聞かなきゃ分からないから、もう一回会いたいところなんだけど…」
『あの…質問いいですか?』
そんな中、画面の向こう側でおずおずと手を挙げつつ言う雫。
「何?雫ちゃん。」
『えぇっと…みのりさんは、どうしてその人と会えたんですか?』
「それなんだけどね…私も分からないの。」
『「へ?」』
予想外の答えに、気の抜けた反応をする二人。
「ほら、火野さんと千春君のお見舞いに行ったでしょ?あの日、火野さんと別れて少し歩いてたら、いきなり路地裏に連れ込まれて…」
「みのりんアウトォ〜ッ‼︎」
「女の子同士だし何も無かったからセーフ‼︎」
どうやら言い方が悪かったらしいと、反省するみのり。そんなみのり達を画面の向こうから一瞥し、咳払いをして、みのりをからかおうとする美波を牽制してから話を進める雫。
『…とにかく、みのりさんが言いたいのは、接触してきたのはあっちだから、こっちからあの人と接触するのは、ムリってことですか?』
「まぁ、簡単に言うとそうなるね。」
やはり雫がいるのといないのとでは話の進みが違うと雫の有能さに感心するが、その反面で自分の無力さを痛感してしまう。
「あ、そうだ。これって、千春君には言わなくて大丈夫なの?」
「あぁ、これは勝手な勘なんだけどさぁ。ちーちゃんはさっき二人で戦ってたでしょ?あん時にいろいろ聞いたんじゃないかなって。」
「…それってさ、もし聞いてなかったら大惨事じゃない?」
「大丈夫大丈夫。私の勘は当たるし。それに、知らなくてもちーちゃんはなんだかんだで強く生きるだろうから。」
ドヤ顔でサムズアップを決める美波を意図的に無視しつつ雫に問う。
「…雫ちゃん。火野さんはそう言ってるけど、実際のこの発言の信頼度ってどんなもんなの?」
『うーん、そうですねぇ…火野さんの勘が、当たるかどうかはともかく、千春先輩ならなんとか出来そうっていうのは、賛成です。』
「扱いが雑⁉︎」
「まぁ、あの子にどうにかして会わなきゃ話は進まないってことで話は締めて‼︎」
「話の締め方も雑…ねぇ…火野さんは千春君に恨みでもあるの?」
割と本気で自分を含めた四人の人間関係を不安視するみのり。
「違う違う。私はちーちゃんを信じてんの。ってな感じで再び話を締めて…今日ここに来た本当の理由だけどね…」
先程までの笑顔に溢れた空気が消え、一気に場が静まり返る。美波がバックから銀の砂時計を取り出す。
ー…あ、そうか。お互いの残りの聖因子の残量を確認し合わないといけないから来たんだ。やっぱりちゃんと考えてるんだな…
そう考えたみのりは机の上に置いた砂時計を取るために立ち上がる。
「あれ?これじゃない。」
「え?」
「おぉ‼︎あったあった‼︎こっちはみのりんのやつだからね‼︎ほいこれ‼︎」
「あ、はい。」
突然渡されたため、それが何かも確認せずに反射的に受け取ってしまう。少しして冷静になって手に握られているものをみると、それはヒゲメガネだった。
ー何故、ヒゲメガネ?
聞こうとして美波の方を見ると、色違いのヒゲメガネを付けた彼女の手元にはジュースとポテチ。
「よし‼︎打ち上げしよう‼︎」
『はぁ…』
画面を見ると、諦めたように色違いのヒゲメガネを付ける雫。その目はまるで、チベットスナギツネのようだ。
ー…うん。そうだよね。今考えたら、聖因子の残量を確認するんだったら、画面の大きさなんかより千春君も通話に参加させることを優先させるはずだもんね。深く考え過ぎた私がバカでした…
「ん?どしたのみのりん?どっか調子悪い?」
そんなみのりの考えも知らず、ポテチの袋を開けつつ問う美波。
「ううん。二人とも、時間大丈夫かなって。」
「あぁ、大丈夫大丈夫‼︎時間は気にしないで‼︎」
『頑張ります…』
ー…雫ちゃん?頑張るって何を?
聞き出すことの出来ないみのりだった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
それをみのりが美波から聞かされたのは、打ち上げが終わって、雫とのビデオ通話を切った後だった。
「あぁそうそう。みのりんはさ。さっきシズちゃんが頑張る〜って言ってたの、覚えてる?」
「うん。覚えてるけど…」
「実はさ、それが今回の打ち上げの本当の目的なんだよねー。ほら、シズちゃんは人見知りだし。こうやってみのりんと話す機会を強引にでも作ってあげないとみのりんとの仲も縮まらないでしょ?そうなってくると、後々面倒なことになりかねないし。」
ー火野さんって、いろいろ考えて動いてんのか何も考えずに動いてんのか、全く分かんないや…
ふと思ってしまうみのり。
「…あれ?確か聖因子の完成した順番って、火野さん、千春君、雫ちゃん…って感じなんだよね。火野さんと千春君と最初に会ったときはどんな感じだったの?」
率直な疑問を口にするみのり。それを聞いた美波は、
「あぁ、それがね?理由は知らないけど、シズちゃんとちーちゃんが元から知り合いだったらしくてさぁ。」
と答えた。どうやら、千春も会話に参加させることより画面の大きさを優先したのは、この辺も関わっていそうだ。
「じゃあ、千春君がいなかったら雫ちゃんは今でも火野さんと打ち解けてなかったかもしれなくて、それだと明らかにどれだけの時間があっても私と打ち解けるのも今以上に難しくて…あれ?もしかして千春君かなり重要な立ち位置?やっぱりもうちょっと千春君を労わるべきじゃない?」
「え?労わってるつもりだけど…」
どうやら彼女の千春への扱いの酷さは、無自覚のようだった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
少女は、いつの間にかポケットに入っていた砂時計を取り出す。
学校から帰ろうと思えば唐突に時間が止まり。その中で動く怪物が現れ。
その怪物と戦う少女達が現れ。
そしてその少女の中に…
それが非現実的過ぎて、彼女は未だに自分が体験したことを信じられなかった。
止まった時間の中で出会った怪盗風の服を着た少女の言葉を思い出す。
「あなた、今この世界が見えてるわね?悪いけど、もうこの戦いもケリをつけるから説明をしてる暇はないの。もうすぐ変な格好をした男が現れるから、驚かないで。そして詳しいことは時間が進んだその先で…あなたの友人から聞くといいわ。最も、彼女達も多くは知らないはずなのだけど。」
彼女の言った通りに変な格好をした男が現れ。
その後、別の方向から他の少女達も現れ。その中に自分の友人を見つけ。そして時間は進んだ。全てはあの少女の言う通りになった。故に…
「明日…ちゃんと聞かなきゃいけないわね。」
次回の更新は12月1日です‼︎その話は六人目の人物を中心とした話に…え?主人公であるみのりの出番が少ない…?…気のせいです()