第七話 初勝負の先に
第七話…日向みのり、初戦闘です‼︎…え?この作品のジャンル?…何でしたっけ?www
美波は時間が止まったことを、バイトへの行き道の坂道で感じていた。
「あ‼︎やっちゃった‼︎みのりん今どこにいるか聞いてなかった‼︎うーん…家の位置まで知っちゃったぐらいだし、やっぱみのりんの学校聞いときゃ良かったかなぁ…ま、今更後悔しても仕方ないか‼︎とりあえず行くしかないよね‼︎」
すぐにそう結論付けて、美波はデビルホロウを探す為、空を翔ける。
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雫は家の中で、微かな興奮と不安と共にそれを感じていた。
ーこの場所は、好きですけど…みのりさんに、いろいろ教えなきゃいけないのは…やっぱり、怖いです…
心の中でそっと呟いて、彼女はゆっくりと空を飛んだ。
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千春は、病室で1人、余った見舞いの果物の皮を自分で剥いているときにそれを感じた。
ーあぁ、せっかく貰った林檎を食べようと思ったんすけどねぇ…
と、彼は止まってしまった自分の本体を見つつ考える。林檎への未練、それと昨日アースに会ったことによる雑念を断ち切り、彼は空を翔ける。
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時間が止まってからしばらくして、最初にデビルホロウを見つけたのはみのりだった。
ーえぇ、私が一番乗りかー…にしてもこれって、どうやって使うんだろ?銃だし、普通に…こうかな?
考えた通り、試しに引き金を引く。すると橙色のエネルギー弾のようなものが飛びだし、デビルの身体に突き刺さった。
「すごい‼︎何これ…ってうわぁ‼︎」
驚いて銃を見ていた隙に、デビルホロウがこちらに向かって嚙みつこうとしてきたので、慌てて逃げる。
「誰か⁉︎いないの⁉︎お願い‼︎早く来て〜‼︎」
慌てて空中で土下座ポーズをしながら飛んでいると、赤いエネルギー弾がデビルホロウに突き刺さった。
「ごめんごめ〜ん‼︎待った?…って、何そのポーズ?」
そんな中、みのりの前に現れたのは火野美波。彼女は銃をデビルに向けつつ視線はみのりの方に向けていた。振り返ると、美波の弾丸で牽制されてデビルはこちらから離れている。
「何でもするので早く誰か助けに来て下さいのポーズ。」
「ほーう。何でもするのかぁ…ならば、私とデートを‼︎」
「しない‼︎そしてなんかすごい既視感‼︎」
美波の攻撃をくらい、一時的に距離を取って動きを止めたデビルの姿を見る。それは虎のような姿をしていた(肌は毛皮の代わりに芝で覆われており、二股の尻尾を持つ巨大生物に成り果てていたが)。
「うっわぁ‼︎もふもふだぁ‼︎ねぇ、なでなでしてみてもいいかなぁ‼︎」
「あの芝、不用意に触るのは危ないと思いますよ?」
美波の影に隠れつつ、おずおずと雫が姿を表して小さな声で忠告する。
「いやー、自慢じゃないんだけどさ、私一人がみのりんと合流したところで、何の説明も出来ないなぁって。だから先にシズちゃん探してたんだ〜。そしたら遅くなっちゃってねぇ…」
申し訳無さそうに言う美波。彼女は一度頭をかき、みのりと雫の方を振り返りつつ言う。
「それはともかく‼︎シズちゃん‼︎みのりんに戦い方教えてあげてくれない?」
「分かり、ました。戦おうにも、前回で力を使い過ぎましたし…やっぱり、直接は、怖いですけど…」
気まずげに目を伏せつつ了承する雫。一度深呼吸をしてから説明を始める。
「まず、先程のように普通に引き金を引くと通常の攻撃が出来ます。」
言われた通りに引き金を引く。先程と同じエネルギー弾がデビルホロウに命中する。
「次です。ハンマーを、倒してみて下さい。」
雫に言われた通りにすると、みのりの目の前にウインドウのようなものが現れる。
ー祈癒ノ日溜リ、破邪ノ煌キ…何これ?
「どっちでもいいので、試しにウインドウをタッチしてみて下さい。」
とりあえず、上だった『祈癒ノ日溜リ』を選んでタッチしてみる。すると、みのりの左手が光る。
「えっと…こう?」
頭の中に浮かんだ使い方に従い、雫の手に触れる。
「きゃっ‼︎いきなり、何するんです…か…あれ?何ですか⁉︎この能力‼︎反則ですぅ‼︎」
そう言い、自分の拳銃を見る雫。拳銃の上部には例の砂時計が付いているのだが、雫の拳銃の中の水色の砂が銃口側からハンマー側に移っているのだ。逆に、みのりの橙色の砂はハンマー側から銃口側に落ちている。
「この砂…」
「この砂は、技や銃撃を使ったときとか、デビルの攻撃をくらっちゃったときに、こうやって銃口側に溜まっていくんです。時間経過で、ほんの少しずつ、回復していくんですけど…」
「え?これが全部銃口側に溜まっちゃったらどうなるの?」
「…分からないんです…」
「え、えぇ…」
ーいや、何が起こるか分からないって…そういえばあの変な服の人がよく分からないこと言ってたけど、まさか、最悪死ぬ可能性とかもある…のかな?…あ、そうだ‼︎
「まぁ大体説明終わったっぽいし、そろそろ本番行ってみる?」
「あ、ちょっと待って‼︎伝言があるんだった‼︎力を節約して、ラスト・ラグナロクに備えろ…だって‼︎」
「ラスト・ラグナロク?何ですか?それ。誰がそんな情報を…」
「ごめん‼︎話は終わった後にするから‼︎」
そう言い残して、デビルホロウに向かって空を駆け、銃撃を開始するみのり。
「シズちゃん、ここは一旦みのりんを信じた方が良さげじゃない?」
「…分かりました。嘘には、見えませんでしたから。じゃあ、ステルスとホーミングは、抜きでいきます。」
「おけおけ‼︎んじゃ、私もブーストとブラストは封印かな?ってうぉう‼︎」
言った直後、二人を水流が襲った。慌てて躱した二人。攻撃の発射源に視線を移すと、相手はスライムのようなツノをもち、下半身が魚のようになっている鹿のような生き物だった。
「あ、みんなこんなとこにいたんすか⁉︎」
「お、ちーちゃん‼︎」
進んだ時間での貧弱な体とは似ても似つかぬ、がっちりとした体の戦士の姿をした少年、土屋千春が現れる。
「なんか遅いなぁって思ってたら、まさか一人であれを相手してたなんてねぇ。見直したぞ‼︎ちーちゃん‼︎」
「…だったらかっこよかったんすけどねぇ…」
鹿型のデビルホロウを白いエネルギー弾が襲う。その軌道を遡ると、そこ先には怪盗のような姿をした少女。
「あぁ、な〜るほどなるほど‼︎やっぱそうだよね〜‼︎一人で戦えるわけないよね‼︎だってちーちゃんだもの‼︎」
「何すかその納得方法‼︎そしてそろそろちーちゃん呼びやめて下さい‼︎」
そんな二人を無視して鹿型のデビルホロウの方へと向かう怪盗のような姿の少女。そして虎型のデビルホロウの方へと向かう雫。
「あーもう‼︎ノリ悪いなぁ相変わらず‼︎まぁそれは置いといて。みのりんが、力を節約しろ的なことを言ってたよ。効率的なこと考えると、ブロックはありかもしれないけど、トラップは無しね‼︎じゃ、ちーちゃん。ガンバ‼︎」
「は⁉︎ちょっと‼︎いきなり何すか⁉︎って、最後まで聞いて下さいよ‼︎」
彼のツッコミを無視して虎型のデビルホロウに攻撃を開始する美波。
「あぁもう‼︎僕はこっちを相手しますからね‼︎」
そう吐き捨てるように言い、鹿型と怪盗のような姿の少女を追う千春だった。
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「私に付いてきたのね。あなたが死にかけても助けないわよ。」
「うーん。こうしていろいろ知っちゃってからそれを聞いちゃうと、やっぱ実感って湧くもんっすね。」
「…アース。彼も余計なことをしてくれたものね。知ってしまったなら、あなたの前ならこれも解禁かしら?」
怪盗のような姿をした少女はみのり達の使っている黒い拳銃と色違いの、緑色の拳銃を取り出す。
「あぁ、悪いっすけどそれは初耳っすね。」
「そう。なら秘密にしてちょうだい。ちなみにラスト・ラグナロクのことは?」
「それも初耳っす。」
答えつつ射撃を開始する千春。しばしの間、流れる沈黙。
「…逆に聞きたいわね。あなたは何を聞いたの?」
「…聖因子の秘密だけっすよ。」
「そう。なら、あなたは何で仲間に教えないのかしら?」
「ま、こっちにもいろいろと複雑な事情があるんっすよね。正直、知ったことを後悔してるってのもありますし…その点、そっちはどうなんすか?」
「…悪いけど、嫌なことを思い出したわ。こいつは一人で仕留める。だからあなたはあの虎型を追ってちょうだい。あなたの仲間達には聖因子の力を節約するように言ってあるから苦戦してるはずよ。」
「…そうっすよね。知ってながらそれを聞いた僕が悪かったっすね。ご忠告、ありがとうございました。」
そう言い残して虎型と戦う三人の加勢に向かう千春。そんな彼の背中を見届ける怪盗風の少女の表情は仮面に隠れていて読めない。
「…悪かったわね。一人で仕留めるって言って。忘れた訳じゃないわよ?私は、一人じゃないって…じゃ、行くわよ。」
そこには怪盗風の少女しかいない。誰もいない虚空に話しかけ終えると、彼女は二丁の拳銃で、鹿型への銃撃を再開する。
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「うぉ⁉︎縛りプレイは、なかなか難しいねぇ‼︎」
言いつつ虎型の噛みつき攻撃を躱す美波。
「ただ、範囲攻撃があったらもっと難しかったでしょうし、その点は助かりますね。」
「ちょいちょいシズちゃん。そんなフラグ立てんといてよってアヒャ⁉︎」
いきなり虎型の爪が枝のように分岐して急成長し、二人に襲いかかる。
「今‼︎」
虎型の後ろにあったビルをすり抜けて現れたみのりが無数のエネルギー弾を浴びせる。この奇襲は、実体を持たない精神体が故に成せる荒技だ。
「おっ⁉︎ナイスみのりん‼︎」
「みのりさん‼︎ハンマーを長押しして下さい‼︎」
言われた通りハンマーを長押しすると、銃口の前に太陽の紋章が現れる。
「それが、十分大きくなったら、ハンマーを離して引き金を引いて下さい。私達が、時間を稼ぎます。」
「そーゆー訳だから、大船に乗ったつもりでいなさいな‼︎」
そう言い銃撃をしてタゲを取る美波。
「十分大きくって…どれぐらいが十分なの⁉︎」
「それは、みのりさんの勘でお願いします。」
「雑⁉︎ってちょっと待って‼︎」
言い残し美波の元へと向かい、銃撃を開始する雫。二人の弾丸を躱そうとしつつ反撃の機会を探っていた虎型。と、みのりの様子に気付いたのか、自分と二人の間に木の壁を作る。壁を回り込んで二人がみのりと合流するには、多少時間がかかるだろう。こうしてこりつしてしまったみのりに襲いかかる虎型。
「ヤッバ‼︎みのりん逃げて‼︎超逃げて‼︎」
「僕を忘れてませんかねぇ‼︎」
そう言いみのりとデビルホロウの中間に割り込み、デビルホロウの爪による攻撃を体で受け止める千春。
「うん‼︎確かに忘れてた‼︎ゴメンねちーちゃん‼︎」
「あんまりだぁ⁉︎」
唐突な千春の参戦に驚く一同。
「みのりさん‼︎3、2、1でここを退きますんで、退いたらトドメを刺して下さい‼︎いいっすか‼︎」
「ちょ、待っ…」
「3、2、1‼︎今‼︎」
「話を聞け〜‼︎」
とは言いつつも、タイミングは「ほぼほぼ」ピッタリだった。
…みのりの攻撃が微妙に千春にかすり、兜の角の先端は折れてしまったが。
千春が避けたことでバランスを崩したデビルホロウの体に高密度のエネルギー弾が叩き込まれる。それに耐えられなかったデビルの体が消滅する。こうして、千春の負った些細な代償と引き換えに、四人はデビルの撃破に成功したのだった。
「お疲れ様です。みのりさん。千春先輩のことに関しては、次になったら、すぐ直るので。心配はありません。」
「いや、少しは千春君の心配もしてあげようよ…そうじゃない‼︎さっきの鹿っぽい奴も追わないと‼︎」
みのりが言った途端、爆発音が聞こえた。四人が向かうと、そこには銃を仕舞う怪盗風の少女と消滅していく鹿型の残骸だけが残されていた。
「…うっわぁ、マジで一人でやっちゃったらしいっすね…」
千春がぼやくように言った瞬間、辺りが金色の光で溢れる。
ーこれが時間が進む予兆かな?
その眩しさに目を細めながらそう考えたのも束の間。その予想は間違っているということを千春の声が告げる。
「は⁉︎このタイミングでまたっすか⁉︎」
「え⁉︎これ時間が元に戻る予兆なんじゃ…」
「違います…これは、新しく聖因子が完成したときの光…」
「ってことは…六人目…」
疑問を抱いたまま彼女が呟いた瞬間、何の予兆もなく視点が変わる。
「今度こそ…時間が元に戻ったの?」
そんなみのりの呟きを聞いた人物はいなかった。
はい‼︎新しく聖因子を完成させたのは一体どのような人物なのか…乞うご期待です‼︎
次回は11月15日投稿です‼︎