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第一話 ブレない少女達

さぁ、第一話です。


止まった時間の中で出会った二人の少女と一人の少年。彼女達との出会いが、みのりの運命をどう変えていくのか?

ーはぁ、遅いなぁ。


 日向みのりは初対面の人物を待っていた。その理由は簡単。その初対面の相手から待っていろと言われたからだ。

 しかし、先程まで近くに居た割には来るのが遅い。彼女はまた一周回ってしまった腕時計の秒針を見つつ、何故こんなことにと思わざるを得ない。


ーやっぱり、さっきのは私の白昼夢かなんかだったのかな…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 日向みのりは、ただの高校一年生の少女だ。両親も生きており、その両親が有名人という訳でもなく、彼女自身にも特別な点など無い。そんな、どこにでもいるような人物。

 強いて数少ない特徴を挙げるとすれば、他人より少し学力が高めで、ただし運動は苦手…といったところだろうか。県内で一番偏差値が高い高校に入学し、その中での成績は中の上。そんな彼女のことを嫌う者は、誰一人としていなかった。その理由は簡単。彼女はまず、人とほとんど関わることがないからである。


 別に、過去に何か人間関係に関わるトラウマがあり、それで心に傷を負ったから誰とも関わらないと決意した…などという事情があって一人を望んでいる訳ではないし、更に言えば決して一人を望んでいるわけではない。なので、人から話しかけられたら普通に答える。ただ、いつからか人との関わりに興味を持たなくなり、それが今でも変わらず、誰かから話しかけられたら話すが、自分から進んで誰かに関わろうとは思わない。だから誰の印象にも残らず、誰からも嫌われることもない。それが、日向みのりという少女だった。


 彼女に関わろうとする者など、今では両親などを含めた家族や親戚、そして、一人のとあるクラスメイトぐらいだ。いや、だった、と言うべきか…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「お‼︎いたいた‼︎良かったぁ〜‼︎いやさ、本人の前で言うのもアレだけどさ、正直帰っちゃうかもって思ってねぇ…だってさ、明らかに非現実的じゃん?時間が止まる〜とか、人がぷかぷか浮いて化け物と戦ってる〜とかさぁ。あ、そうだそうだ。早速だけど、Line交換してくんない?」


 さっきの光景は、ただの白昼夢だった…正直そう信じたいという気持ちもみのりの中にあったのだが、こうして目の前に火野美波が現れてしまった以上「あれ」を現実だと認めざるを得ない状況になってしまう。


「ね、ねぇ、その前にいろいろ聞かせて欲しいんだけど…」


「うーん、こっちとしてもそうしたいんだけどねぇ、そーゆー説明が上手なシズちゃんが、ちょーっと家から出れ無い娘なんだ〜。あの娘の性格の問題で、ね…だからさ、悪いけど、ひとまずLine交換ヨロ‼︎」


ーこの人、元気な人だなぁ…


 それがみのりの、美波に対する進んだ時間での第一印象だった。


「まぁ立ち話もなんだしさぁ、とりあえず○ック行こ‼︎Wi-Fiも繋がってるし、私奢るからさぁ‼︎なんならセットでもいいよ‼︎」


 丁度近くにあった○クドナルドを指差して言う美波。みのりに拒否権などなかった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 ○クドナルドに着いたものの、高い物を奢ってもらうのは気が引けたみのりは、○ックシェイクだけを奢ってもらうことにする。「もっと高いやつでも良かったんだよ?」と残念そうに呟く美波。その表情を見て謎の罪悪感を感じたみのりは、「食べすぎちゃうと夜ご飯が食べれなくなっちゃうかもしれないから…」と聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で呟く。すぐ隣にいた為美波に聞こえたらしく、「あぁ、そっかそっか‼︎そーだよね‼︎」と言って空いてる席を見つけてみのりの手を引く。


 向い合って席に座り、彼女とLineを交換すると、早速グループに招待される。本当に入っていいか考えるものの、「ん?どーかしたん?」という美波の悪意のこもっていない疑問の言葉を聞いて、彼女は信用していい人物と判断。意を決してグループに参加する。それを確認し、「サンキューサンキュー‼︎」と言いつつ、グループ通話を開始する。呼び出して数秒。イヤホンから一人の声が流れた。


『あっ、どうも。あなたが新しく入って来た人っすね。』


 その声が少年のものらしいということから判断して、これが「ちーちゃん」だと考えて間違い無いだろう。


「あ、うん。よろしく…」


「ま、自己紹介はシズちゃんも電話に参加してからね。」


 噂をすればなんとやら。美波が言った瞬間に雫が参加する。


「よし、これで全員揃ったね‼︎じゃ、自己紹介始めよっか‼まずは私から‼︎︎私は火野美波‼︎高二だよ‼︎まぁ、こっから関わることも増えるし…とりあえず、よろしく‼︎」


 彼女らしい満面な笑顔で言う美波。「よろしくね。」と返す。そして電話しての向こうからどちらから自己紹介するか探り合うような少しの間が空いて、「ちーちゃん」こと先程の少年の声が聞こえてきた。


『僕は土屋千春っす…いろいろと訳あって学校にはあまり行けてないけど、学年としては一応高校一年生っす。あ、そうだ。くれぐれもちーちゃんって呼ばないで下さいね?いやこれ、ガチっすから。フリとかじゃ無いっすからね。』


「ちーちゃんは今入院中なんだよ。だから、また時間があるときに一緒にお見舞い行こ〜ね‼︎」


『あぁもう‼︎火野先輩‼︎余計なことは言わないで下さいよ‼︎』


ーえ?入院中?なら、あの時はどうやってあの場所にいたのかな…


 みのりの中で一つの疑問が生まれる。しかし誰もそんなことには気付く訳も無く、自己紹介は続く。


『わ、私は水野雫‼︎…です。中学、二年生です…あ、あの…今は、その、こんな感じ…ですが、いつか、あなたとも、普通に話せるようにがんばるので…その、これから、よろしくお願いします‼︎』


 止まった時間の中で会った魔法使いのような少女が、ビクビクした声で言うのが聞こえる。

 一通り自分以外の人物が自己紹介したので、みのりは自己紹介を始める。


「私は日向みのり。高校一年生。一応、これからよろしくね。で、早速で悪いんだけど…あれは一体何なの?それが分からないと、これからどうしようもないしさ…」


 みのりは疑問を口にするが、それに返ってきたのは疑問への答えでは無かった。


『えっ⁉︎日向さん同学年だったんすか⁉︎いやぁ、なんか大人びた感じの雰囲気だったから、てっきり火野先輩と一緒かそれ以上かと…』


 千春の驚く声が鳴り響く。


「え⁉︎私ってそんなに大人びた感じじゃないと思うんだけど…」


 反応があったのは電話の向こう側だけではなかった。唐突に勢いよく立ち上がる美波。


「マジで⁉︎高一なの⁉︎やった‼︎私、この中での最年長の地位を守った‼︎そんじゃあそんじゃあ、今日からみのりちゃんも私の妹だ‼︎私のこと、お姉ちゃんって呼んで良いんだよ⁉︎ほれほれ‼︎リピートアフターミー‼︎お姉ちゃん‼︎」


「あ、アハハ…ご遠慮させて頂きます。」


「えぇ⁉︎何で⁉︎ヒドイ‼︎」


 自己紹介をしただけで予想の十倍以上の反応があり、二人のペースに巻き込まれてしまうみのり。そんな三人が逸らしてしまった話題を…


『あ‼︎あの‼︎出来れば、あまり、話を、逸らさないで、貰えますかぁ?私、早く、説明を終わらせたいん、ですけどぉ…会ったばっかりだから、まだ、ちょっと、怖いん…ですけど‼︎』


 おずおずと話題を元に戻そうとする雫。みのりは話を逸らしてしまったことに対するバツの悪さもあり、思わず苦笑いしてしまう。その後も悪ノリを続ける美波を見つつ、彼女は思う。


ーこの人達、ブレないなぁ…


 もちろんこれは罵倒ではなく、本心からのれっきとした褒め言葉である。


 あのような異常な状況の中でもブレない自分を保ち、そして戦い抜く。その姿勢には、明らかな慣れがあった。それだけでは無い。きっとこの三人には、慣れだけでは説明出来ない、そして自分には無い何らかの強さがある。


ーこの三人と一緒に戦えば、私もその強さが身に付くかな…


 それが、みのりが初めて自分の中の「聖因子」に好感を持った瞬間だった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 それからみのりと雫が協力し、一分半程かけてその場を収めると、『悪い、ですけど、基本的に、質問は、受け付けません。その、私、反論されるのとか、怖いので…』という前置きから、ようやく今回の本題である雫による説明が始まった。


『まず、みのりさんの体の中で、聖因子というものが生まれました。それがどんな物か、どうして生まれちゃったのかとかは、私達も知りません…みのりさんは、自分の体を、客観視したと思います。いくら聖因子があっても、止まった時間の中では、物理的概念?を持つ肉体は、動けません。


 そこで、聖因子を使って作られたと思われる、物理的概念を持たない精神体を使って活動します…もちろん、物理的概念を持たないので、物にも、触れることが出来ません。その分、お家とかの障害物も、無視して行動出来ます。』


 これを聞いたみのりは、二つのことに納得がいった。


 まず一つ目。美波が文字通り飛んで来た理由だ。思い出せば、手足が生えきって完成した新しい体は、意識せずとも宙に浮いていた。それはきっと、物理的概念を持たないが故に床に足が付かず、そして重力も働かないが故に、強制的に地面から浮いた状態になるのだろう。


 そして二つ目。千春の存在だ。入院中なのにあの場所にいた理由。それもまた、元の体に支配されないが故だろう。それに、美波も、あれだけ近くにいた割には来るのが遅かった。その理由も、彼女の本体が離れた場所にいたからなのだろう。


ーそう考えてみると、あの止まった時間の中って身体が不自由な人とかにとっては楽園だよね…あと、高齢の人達にとっても…あの化け物がいなければの話だけど。


 などと、みのりが全く関係無いことを考えているということに電話越しで気付ける訳もなく、雫による説明は続く。


『で、みのりさんを襲っていたのは、デビルホロウっていう怪物です…私達は、一々デビルホロウと呼ぶのも、ちょっと面倒なので、略してデビルって呼んでますけど…


 まぁ、デビルに関しても、正体も、私達、聖因子を持つ人達を食べようとする理由も、まだ分かりません。唯一推測出来るのは、それらもまた精神体だろうということだけです。仮に実体があれば、止まった時間の中で動ける訳がないですし… あ、ちなみに、デビルホロウと呼び始めたのは、あの変な服の人です。』


ー そういえば、あのサイみたいな怪物は大きさの割に早かったなぁ。あれも物理的概念を持たないからなのかな…


『そして、私達に、この砂時計をくれた人…あの人が何者かも、目的も、分かりません…要するに、分からない事だらけなんです。私達も。』


 そう言うと、美波が鞄から銀色の砂時計を取り出す。と、そこでみのりは思い出す。


「…あ‼︎砂時計‼︎あの時勝手に出てきたけど、その後見た覚えが無いや…」


『…あのぉ、ならば、ポケットを、探ってみてくれませんか?』


「えっ?入れた覚えなんて無いよ?」


 言われたものの、半信半疑で制服のスカートのポケットを探ると…


「え、何で…?」


「いやぁ、それに関しちゃ私達もスッゲー驚いたわ‼︎」


 入れた覚えも無いのに、それはポケットの中に入っていた。その銀色の砂時計を美波の物と見比べると、中の砂の色以外は同じだった。(みのりは橙色。美波は赤。)


『あと伝えなきゃいけないことは…時間が止まる原因も、今は分からない…これぐらい、でしょうか?戦いに関することは、その時に教えるのが一番でしょうし…』


「あぁそーだ、ちなみに時間が止まるのは週に一回ぐらい‼︎…だったんだけど、最近になって少しずつ頻度が多くなって来ててね〜…正直、明日来てもおかしくないくらい。」


『ちょっと火野先輩‼︎こんなところでフラグ建てないで下さいよ‼︎』


「テヘペロ〜‼︎」


『あの…もう、お電話切りますよ?説明も終わりましたし、怖いので、その…切ります…』


「りょーかーい‼︎ありがとね、シズちゃん‼︎」


『今考えたら、これって僕本当に必要あったんすかねぇ…』


「まぁ、自己紹介したし、電話した意味が全く無かった〜なんてことはないでしょ〜…多分‼︎」


『多分⁉︎雑‼︎』


「まぁ、とりあえず切るよ〜。」


『え⁉︎嘘っすよね⁉︎ちょっと⁉︎待ってく…』


 こうしてグループ通話が終わったが、最後のコントの中に聞き捨てならない情報があった気がして、目の前にいる美波に問う。


「…え?さっき、明日来てもおかしくないって、言った?」


「うん。言った言った。だってさ、本当におかしくないんだもん。いや〜。困ったことに、何で頻度が増えてるのかも分からないんだよね。うん。分からないことだらけって、辛いね‼︎」


ー…あれ?これってもしかして、ブラック企業か何か?就職して、然るべき研修もなくいきなり現場入り。シフトは自分達で決められず、勤務時間も始まるまで分からない。そして時給0円‼︎賄いも無し‼︎労働基準法?そんなの知らない‼︎


 この扱いの悪さを知り、みのりが先程得たばかりの聖因子への好感は跡形もなく消え去ってしまった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 ○ックからの帰り道。「暗くなってきたし、送るって‼︎大丈夫‼︎お姉ちゃんに任せんしゃい‼︎」とのことで、美波と共に帰ることになったみのり。


「ねぇ、本当に良かったの?火野さんの家と別方向だと思うけど…」


「気にしない気にしない‼︎ちょっと伝えなきゃなことがあったのを思い出してねぇ…私達、実は四人じゃないの。」


 その言葉を聞き、少なからず驚くみのり。美波の顔を見ると、そこには複雑で、まだまだ関わりの浅く、人付き合いが少ないみのりでは読み取り切ることが出来ないような、複雑な感情がこもっていた。


「でもその子はさ、顔も隠れてるし、進んだ時間での姿も名前も分からないんだよねぇ…それに、戦いにすら参加してくれないときもあるし。ほら、今日も見かけなかったでしょ?」


 ー『あぁもう、あの子は絶対手伝ってくれないし…』


 美波はあのとき、確かにそう言っていた。あれはその人物のことだったのだろうか?そしてその人物は、何故正体を隠し、美波達との関わりを避けているのだろう?


 いや、そもそも…


「でも、私のときみたいに、まだ聖因子の完成してない状態のその子と会ったことがあるはずな訳で…大体の住所とか、その子の顔とかは分かることない?」


「のんのん。逆逆。その子が、私の知ってる限り最初に聖因子を完成させた娘だから。私はあの子に見られた側だからねぇ…


 あ、ちなみに順番としては、その子が最初で、次が私。で、その次がちーちゃんで、ちーちゃんのあとにシズちゃん。で、最後にみのりちゃん。」


 その人物が最初だということは…


「その子…私達の知らない情報を知ってる可能性とかない…かな?」


「あぁ‼︎確かに‼︎いやぁ、今まで思いつかなかったわぁ…みのりん、天才‼︎」


「み、みのりん?」


「ん‼︎今考えたあだ名‼︎ほら、一人だけあだ名が無いなんて寂しいと思ってさぁ。」


「いや、別に寂しくないけど…」


「こっちの問題‼︎」


 そうこうしている間に、気がつけば家に着いていた。


「あ、ここです。こんなところまでありがとうございました。こんな夜遅くに、なんかごめんなさい。」


「な〜に、良いってことよ‼︎んじゃ、これからがんばろ〜‼︎じゃねー‼︎」


 そう言いスキップしつつ帰る美波。


 ーなんか、嵐のような人だったなぁ…これからどうなっちゃうんだろう。


 美波の後ろ姿を見届けながらそう思いつつ、家に入るみのりだった。

次の投稿は8月15日となります。

今回はプロローグと第一話を投稿しましたが、今後は毎月1日と15日に一話ずつ投稿していくことになります。要するに毎月合計二話投稿ってことですね。

最後まで見ていただければ幸いです‼︎

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